先週食べたカルチャー(21年2月3週目)
「湯に浸かったてたらさ、なんかずっと見られてるなぁって思って。もうずっと見てくんの。その人のほう見返してみても、まだ見てて。なんか付いてんのかなぁ?って不思議に思ってたりしたら、マスクつけてることに気づいて。マスクつけながら温泉浸かっててん」。そんな話に笑いを誘われたりしながら、近ごろは春の訪れを感じています。さいきんは人生で初めてくらい本をたくさん読めるようになって、イコール在宅勤務で家にこもるようになり自炊もして夜は酒を飲まずゆっくり読書か映画を観るようになり、それで思考のぐるぐるをある程度文章としても昇華することができていてとても好循環の生活ができているような気がする。と書いてしまうと少し不安にはなるのだが。ということで先週あたりに観た映画、演劇、お笑い、小説、ドラマの記録。
- 空気階段第4回単独LIVE『anna』
空気階段の単独を観るのは初めて。「踊り場」も熱心なリスナーではないので絶対観たいと思っていたわけではないのだけど、不思議な圧に押されて配信日に観た。
まずは驚きがあった。こんな演劇みたいに精巧につくりあげられた単独ライブが存在しえるんだという驚き。その次に感動。まるでひとつの街に生きる数多の浮浪者たちの生き様を切り取ったかのような、それが“ふたり”の芝居だけで生み出される至極のダイナミズム。そして根底にある、笑い、人生の可笑しみ。あまりの完成度に泣けてしまうコントではあるのだけど、やっぱりそこには圧倒的な“笑い”のたくましさが横たわっていて。ある人の人生の立ち行かなさが、また別の人の人生に(ときには水を差し、ときには光を与えながら)交わっていく世界の回り方、構成の妙にめちゃくちゃ心を乱された。
即DVDを買った。きっと何度も見返すことになるだろう映像になると思う。余談だけど、4月に公開される今泉力哉監督の『街の上で』とかなり似たところのある映画だと思っています。今年のベストカルチャーは「人と人が交差点で出会い、可笑しみの劇(コント/ドラマ)を繰り広げていく」この2作品にほぼ確しました。
- 今泉力哉『あの頃。』
少し前に試写で観たのでもう一度映画館で観ようと思ってますが。ハロオタではあるのだけどせいぜい10年くらい前に好きになりはじめたので(振り返るとあんがいながい)黄金期はお姉ちゃんが熱狂していた姿しかほぼ知らず、ゆえにホモソーシャルなファンダムの空間みたいなものに共感できる要素はひとつもなかったのだけど、結局どのジャンルなのかよくわからない今泉力哉的作風に押されながらとても面白く観た。
レコーディング室で罵倒される主人公の姿を扉越しに外から映す冒頭からよくて、それは部屋の“ポストに差し込まれた”あややのDVD→鑑賞して涙し、“部屋を飛び出していく”という、扉一枚で“圧迫感”と“開放”を、「推しとの出会い」をハイパードラマチックに切り取ってみせる演出のうまさにつながっている。あとはなんといっても終盤の思い切りがすごい。あの長い時間をかけて、少しペースダウンしながらも、ひとつの時間の終わりをフラットに捉える姿勢に感動した。詳しくはネタバレになるのであれだけど、ああいう映画の構成の仕方は今泉監督にしかできないと思う。全体的に目線がフラットですよね。それは今泉監督が特定のアイドルを推したことがないゆえの距離感であったり、それでも多分にあるアイドル/オタクへの興味・リスペクトであったり、ファンダムとの意識的な(不/)接触であったりにも通じる納得の態度だと感じる。『アイネクライネナハトムジーク』のときとかとも比べ、めちゃくちゃ商業映画との折り合いに巧みが増してきてると感じていて、今後もとても楽しみなんです。あといいのか悪いのか、長谷川白紙の劇伴が存在感ありすぎた(笑)。
- 西川美和『すばらしき世界』
前作の『永い言い訳』で最高の擬似家族映画を見せてくれた西川美和監督の最新作。あれからはや4年強。ひとつの映画をつくりあげる時間と労力の量に驚かされるが、紡がれる物語の強度はリサーチと膨大な取材の賜物だろう。奇しくも『ヤクザと家族』という、ヤクザの生存権が消え失せたこの時代にカタギとして生きようとする男の姿を描く映画が2つ重なった2021年冬。あちらは20年という長いスパンで物語を描いていたのに比べて本作は13年服役したあとの「出所後」のみを描いているから、やはり厚みが違う。そしてその作劇のアプローチも、どこまでいっても家族や血縁に閉じていってしまう前者とは対照的にこちらは徹底的に血のつながらない他者との相互ケアのうえに成り立つ“すばらしき世界”を描こうとしていて好感が持てる。役所広司がまずはとてつもない。リアルすぎて思わず吹いてしまう芝居がいくつかある。そして仲野太賀は言わずもがな、六角精児、北村有起哉、ちょい役だけど田村健太郎も、脇を固める俳優陣が真に迫る芝居をしていて持っていかれた。
はて“すばらしき世界”とはいったいなんだろうと、観賞後に胸につっかえたものを各々が取り除いていくことになるだろう。見て見ぬふりをして世界に順応していくのが正しいのか、太賀のように一歩踏み込んでみるのがよいのか。ある意味純朴な主人公の荒唐無稽な生き様から、きっと多くのものを学べるはずだ。きっと順応と反発の間で生きていく可能性を、この映画は教えてくれていると思う。西川美和がケン・ローチに近づいてきた。
- 相米慎二『魚影の群れ』『風花』
ユーロスペースで相米慎二特集上映。観たことがなかったやつと、大好きなやつを。相米の遺作である『風花』はなぜかわからないけどめちゃくちゃ惹かれるものがある。死と隣り合わせの主人公たちの哀愁がとても軽く描かれているところに惹かれているのか、それとも浅野忠信の酔っ払い演技のうまさにか、小泉今日子の落ち着きにか。行くあてがなく木の下に転がっているふたりが流浪の旅をする、その設定だけで、まぁ面白いには違いないのだよな。男女の彷徨を描きながらも決してロマンスに発展しかいかないところも、相米ってすげぇなと思うのです。
- ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー『フライデー・ブラック』
新進気鋭のアフリカ系アメリカ人によって上梓された12の物語からなる短編集。装丁が最高にイカしてる。文体も、言葉のセンスも抜群で、取り上げられる黒人差別や資本主義社会、管理社会、不感症、セルフケアといった現代社会をとりまく主題がすっと入ってきてとても読みやすい。それでいてズドンとはらわたをえぐる読後感。とりわけ、BLM問題を物語に昇華した「フィンケルスティーン5」と、SF的な世界観のなかで感情が失われた人間の行く末が描かれていく「旧時代〈ジ・エラ〉」、ブラックフライデーにおけるショッピングモールを比喩ではなく“戦場”として直接描写した表題作「フライデー・ブラック」あたりがかなり刺激的だった。結論が出るような話ではない。ただ賽は投げられている。
- 瀬尾夏美『あわいゆくころーー陸前高田、震災後を生きる』
2月27日公開のドキュメンタリー映画『二重のまち/交代地のうたを編む』(小森はるか+瀬尾夏美)のレビューを書くため、瀬尾夏美さんの著書を読んだ。2011年4月に当時大学院生だった瀬尾さんは映像作家の小森はるかさんとともにボランティアで東北を訪れ、その後2012年に陸前高田に移り住んで創作活動を続けてきたかた。作家で、画家でもあり、東北では住人ではなくあくまでも旅人としての距離感を保ちながら風景と人々を記録してきた。
震災後から2018年3月までの歩行録(日記)が書かれたこちらの著書、とてもよかった。いろんな方向でめちゃくちゃよかった。まずひとつに、正確な「記録」としての側面。この10年でまったく震災に関わることがなく正直に言えば情報を調べる、思いを馳せるということすらほとんどできなかった自分にとっては、陸前高田が嵩上げ工事によって真っさらな土地のうえに新しいまちができていた激変や、そこに住む人々の心の移り変わりを捉えた文章はすべてが新鮮なものとして受け入れられた。そしてすばらしいところのもうひとつに、記録という「伝承」の側面がある。まがいなりにも書く仕事をしている自分にとって、「言葉」を扱うことの意義と可能性を感じられて学ぶことが多かった。瀬尾さん本人もインタビューで語ってることだが、ディスコミュニケーションに対処していく方法論、なかば“技術”とも呼べるようなものが“実践”されている、実用書としての側面もあるんだと思う。とても大事にしたい本。『二重のまち/交代地のうたを編む』(2/27公開)もすばらしくって、今年いちばん観てほしい映画です。
- 大前粟生『おもろい以外いらんねん』
文藝2020冬号に掲載されていた中編小説。特に前半は芸人を目指す高校生の姿を青春小説的に見せながら、徐々に「お笑い」への批評的な視点が介入し、終盤には男らしさの解体にまで挑んでいくスペクタクル純文学。アイドルとお笑いを題材にした小説って、いまの時代感、流行りの投影でもあるのだろうけどめちゃくちゃ面白くて興味深い。きっといまの時代を物語として描くには、アイドルとお笑いが題材として最適なんだろうなと最近の文藝の作品(『推し、燃ゆ』、児玉雨子『誰にも奪われたくない』)を連続して読んだいま考えている。なぜ最適なのかというと、私たちがその構造・体制にときおり問題意識をもちながらも、アイドルとお笑いに心酔している、そこにしか救いを求めることができない時代に生きているからだと思うのだけど。「アイドルを推す」ことも「お笑いをみて笑う」ことも、私たちは常にそこに潜んでいるかもしれない「暴力」の存在に自覚的である必要がある。そんなことひとつも考えずに熱狂してきたあのときの自分たちと、暴力にすがるわたしたちの弱さに向き合いながら。
- 『イキウメの金輪町コレクション』乙プログラム(『輪廻TM』『ゴッド・セーブ・ザ・クイーン』『許さない十字路』『賽の河原で踊りまくる「亡霊」』)
初のイキウメ@東京芸術劇場シアターウエスト。空気階段を観て久しぶりにガチ演劇が観たくなったのと、あと枝優花監督が鑑賞ツイートしてたのを観てよし!行こうと思ってギリギリチケット買えた。映画化されている『太陽』、『散歩する侵略者』は観てたので、ずっと興味は抱いてたんですよね。今回は短編集ということもあって、たぶんとても見やすい内容だったんじゃなかろうかと思う。笑えるSF。面白かった。最後の一編なんかは、ちょっとまだよくわかってないんだけども。印象に残り続けると思う。
- 『俺の家の話』
毎回面白いなぁ面白いなぁと声に出しながら観ている。あと長州力のセリフぜんぶに腹抱えて笑ってる。中年兄妹とおじいちゃんの家族旅行がこんなにワクワクするドラマ、他にないでしょ。第5話は寿限無と大州の反抗期が同時に描かれていて、大州の反抗期は寿一と被るところがあって、寿限無の反抗期の鬱憤は寿一に矛先が向き、なんかまとめんのむずいけどとにかくすべて辻褄が合っていてリアリティラインが的確で、すごいすごいと言いながら観続けられるドラマだ。相変わらずマスク、能面、プロレスのマスクの使い方もびびりまくりの巧さだし。この抜群のストーリーテリングで介護やら親権やら血縁やらお金の問題やらが描かれるとなると、そりゃよだれ垂らしながら観てさらりとハッとしちゃう。
- 『にじいろカルテ』
岡田惠和の脚本の、ちょっと歪だけど圧倒的な優しさがある筆致に惹かれている。『ひよっこ』は見そびれて総集編しか見てないので、気づいたのは前クールの『姉ちゃんの恋人』からなんだけど。「人が話す場」をつくったり、相互ケアを描くことにとても意識的な脚本家だと思う。第5話の、自分を「普通の人」だと思って葛藤する太陽(北村匠海)の描写は、岡田惠和の新境地という気がする。これまではなんらかの強すぎる問題を抱えた人ばかりが描かれていた気がするので。ただ、普通の人なんていないんだよなってことが、やっぱり「人が話す場」の創出によってもたらされていく。
- 乗代雄介『旅する練習』
とても好きな小説でした。こういう作品こそうまく言葉にできればいいのだけど、いまの自分にはちょっと難しい。偉大すぎて。亜美の放ったある言葉がずっと思い起こされる。ずっと思い起こされたい。
- レゾ・チヘイーゼ『ルカじいさんと苗木』
昨年の今ごろにシネマヴェーラ渋谷で開催していた「ソヴィエト&ジョージア映画特集」。今年もやんないかなぁって昨日ふと思って調べてみたら、ちょうど昨日からまた始まっていた。ということで行った。
大大大大大傑作。世界にはまだこんなにも美しい映画があった!ちょっとよすぎてびっくりしちゃったな。今回のブログで挙げたカルチャー、まじでぜんぶバイブルにしたいほどの作品たちだらけでそろそろ語彙力も尽きてきた。雑多にカルチャーと接していると、あれと似たような題材だなみたいに感じることがたまにあって。本作はおじいちゃんとその孫が梨の木の苗木を求めて旅をする話だったんだけど、それはもう『旅する練習』と重ねて観ていた。ルカじいさんの分け隔てない最高な性格、言語の通じないアメリカ人に向かって果敢に気持ちを通していく姿勢、祖父から孫に継承されるグルジアの民謡、「音楽」で溶ける境界線、声と声の重なりのこれ以上ない歓び、記憶は失われていくということ、消さないためにまた語り直す・植え直す意思、ほんとうに大事なものを見極める選球眼。などなど、ルカじいさんと孫の旅路からとてつもなく多くのことを学んだ気がする。それはきっと、上に挙げたカルチャーと複合的に交わりながら。
「人生を捧げる」ことのできなさ/『花束みたいな恋をした』のラフさvs『劇場』『推し、燃ゆ』の切実さ
麦くんのことを「ファッションサブカル好き」と揶揄する人を見るとイラだちを感じてしまう一方で、実は自分もそうだと思っている。そして自分自身もそうなんじゃないかと恐怖する。彼には、生きていくうえで小説も映画もお笑いも演劇も実際には必要ではなかった。パズドラも必要ではなかったけど、あの状況にはパズドラしか寄り添ってくれなかった(だけ)。イラストレーターにも、なれればうれしかっただろうけど、なれないことも甘んじて受け入れられた。ガスタンクは好きだった。でも今はもう見にいってないし、3時間越えの映像ファイルはもう何年も開いていないだろう。
麦くんのことを、「あるひとつのものに人生を捧げることができない人間」であると断言してみる。その対義語は、「それをするために生まれてきた人間」あるいは「運命」、もしくは「愛」や「執着」だとしてみる*1。「イチローは野球をするために生まれてきた人間だな」がその例文だとして。そういう言葉を耳にしたことがあるだろうし、誰かに対して思ったこともあるかもしれない。私は日々、誰かに対してそういう目線を向けている。
カルチャーを引き合いに出すとわかりやすいと思うのでサブカル映画にサブカル教養で対抗しようとしてみるが、『花束〜』の麦くんに対比される人物として、『劇場』の永田や『推し、燃ゆ』の主人公・あかりを挙げてみたい。彼らはどう見積もってみても、ファッションサブカルではないゴリゴリの表現者でありオタクであり、カルチャーを生の柱にしている人物だろう。『推し、燃ゆ』では「推しは背骨」と表現されるように、並走して生きていくことの切実さがその物語では語られる。
どちらの主人公も行きすぎてしまったあまり人生が崩壊していってしまうある意味での悲劇を辿る。が、そんな物語になぜある面では共感し、心を乱され、興奮してしまっていたのか、私は。と、『花束〜』を観たあとに急に思い出され、その答えまですぐにわかってしまった。
憧れているのだ。なりたいのだ。そういう、人生のすべてを捧げてまで好きになれる、もしくは執着かもしれないけど愛せる存在に出会うことに。しかし憧れながらも、自分は決してそうはなれないことを、もう悟ってしまっている。麦くんや絹ちゃんが好きなカルチャーが広範囲にわたるのも、(好き、であることには違いないのだが)天竺鼠の単独ライブをすっぽかしてしまうのにも、その所以がある。だから、一般的に4年も5年も付き合って同棲までして別れるのはかなり難しい判断だろうに、麦くんは少々の執着を見せながらも、結局きっぱりと別れてしまえた。好きだったけど、人生を捧げるほどじゃないよね、と言わんばかりに。決断力はある。
それが私たちの現実。なにも不幸なことではない。僕があるとき、『ファントム・スレッド』*2という、人生を一方向に規定されていく映画に強い憧れを抱きながら、その数日前に観た『ヤンヤン 夏の想い出』に描かれる人生の多面的な展開性の豊かさのほうにこそ自分を強く重ねていたのには、理由があったのだといま気づいた。
天才と凡人という言葉にも似た、そうやって生きていくしかない私たちの現実を改めて突きつけてくる『花束みたいな恋をした』。そうやって考えると、今思えば坂元裕二作品には珍しい存在である『東京ラブストーリー』の赤名リカも、だから好きで、かっこいいと思えたんだと思う*3。*4
それでも、僕は執着してみるけどね。
『花束みたいな恋をした』の世界に坂元裕二のドラマがあればどうなっていただろう
2018年1月16日。大学4回生の最後の冬だというのに僕はまだ就職活動をしていた。
それまでサボっていたというわけではなく、ただただ受けて落ちてを繰り返していた。深夜に梅田駅から高速バスで出発し、まだ空が薄明るい時間に東京駅八重洲口鍛冶橋駐車場に降り立つ。もう東京に来るのは最後かなとそのとき思っていた気がする。同日に2社の面接をうまくいれることができ、朝に1社目を受けにいく。会社に到着し、いざなわれた席に座り担当者を待った。胸の位置くらいにあるテーブルにノートパソコンを置き、腰の位置くらいにある椅子に座って黙々と仕事をする人々が見える。とてもおしゃれな空間だった。担当者がきて、うちの会社はこんな仕事をしています、という説明をしてもらう。企業のオウンドメディアを主につくっている、みたいな説明をされたように記憶している。あまり覚えていない。自分がなにをしたくてここにきたか、そのことを伝えたが、あまり反応はよくなかったように思う。しかしその日の夜に受けた2社目では、これが驚くほど受けいれられた。いま思えば漠然として空虚な夢だった気がするが、とにかく反応がよかった。ここで働くんだ、という予感が胸をざわめき立てる。うれしかった。うち、トイレにウォシュレットがないんだけど大丈夫?と聞かれ、冷えるのでそれは困ると答えたか、痔っぽいのでそれは困ると答えたか、ぜんぜん大丈夫です!と答えたか。まったくおぼろげな記憶だが、初出社の日にトイレにウォシュレットがついていたのを見て喜びを感じたのははっきり覚えている。心地いい場所だった。
その面接の日に東京にあるミニシアターの「ユーロスペース」で観たのがアキ・カウリスマキの『希望のかなた』だった。冗長なトーンに耐えきれずたぶんけっこう寝た。緊張から解き放たれて、かなり疲れていたからかもしれない。それでも映画の独特な空気感や孕むメッセージの一部分は覚えている。寝たにも関わらず、偉そうにもこんなツイートもしていた。
『希望のかなた』良かったなぁ。生きづらさが笑いとして昇華される優しさ。あなたが笑う未来さえあればそれでいい。
— 原航平 hara kohei (@shimauma_aoi) 2018年1月17日
あなたが笑う未来さえあればそれでいい。なんでこんなことを書いたのかは例に漏れずまったく覚えてないけど、それを見返した2021年1月30日の僕は泣いている。よかったね。
* * *
2017年1月17日に『カルテット』の放送が始まり、3月21日に最終話を迎えた。2018年1月10日に『anone』がスタートし、3月21日に最終話が放送された。遡れば2016年1月18日から3月21日には『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』が月9枠で流れていた。
『花束みたいな恋をした』には数えきれないほどのサブカルチャー、ポップカルチャーの存在があるが、ただひとつ、あるはずなのに足りないものがあり、それは言うまでもなく坂元裕二脚本のドラマである。観ていないはずがない。『初恋と不倫』を読んでいないはずがない。『またここか』を観ていないはずがない。その当時兵庫に住んでいた僕が就活真っ只中の6月に就活の予定ではなく坂元裕二と是枝裕和のトークショーを観るために早稲田大学大隈記念講堂にまで足を運んだのに、彼らがそこにいないはずがない。「青春ゾンビ」を読んでいないはずがない。
『花束みたいな恋をした』の世界にもし坂元裕二のドラマがあったとして、もしくは実際にはあるし観ているけど描かれていないだけとして、そうすれば彼らの未来は変わっていただろうか。そんなことを夢想せずにはいられない。だっていつだってあのドラマの世界には、いつまでもわかりあえない私たちの哀しさと、対岸にいながらも空間と時間を共有していきどころを見つけていく登場人物たちの姿があったから。
答えはノーだろう。坂元裕二のドラマがあったとて、あのカップルは別れていた。なんとなくだが強い確信をもってそう思う。彼らを繋げたのはカルチャーだったけど、引き裂いたのもカルチャーだったと、空間を分かつあの本棚をみてそう感じたからだろうか。
ただひとつ言えるのは、これで終わりではないということだ。人生は続く。引き裂かれても、離れても、わかりあえないと心が悲鳴をあげても。人と人はいつかまた交差し、もしかしたら話をしはじめるかもしれない。その際に、「そういえば坂元裕二の『花束みたいな恋をした』って私たちの物語みたいだったよね」「いやぜんぜん違うでしょ」みたいな会話があったとしたら、わかりあえなかった日々もきっと笑いへと昇華される。
先週食べたカルチャー(21.1.1-1.7)
今年は映画を観るときも漫画を読むときも、雰囲気で惹かれない場合は「作品のテーマ」をしっかり理解し興味をもったうえで作品選びをしたいと思う。そういうことを考えてないとすぐにFilmarksの点数に左右されてしまうので…。*1さいきん資本主義の怖さがようやくわかってきたので『人新生の「資本論」』を買って読んでいる。
-『POP LIFE: The Podcast』#126 資本主義リアリズムを飛び越える西村ツチカ最新作
新年一発目、漫画回4連続エピソードの最終回。めちゃくちゃ面白かった。漫画回は語り自体が豊かすぎてほんとうにハズレがないし、実際にレコメンドされている漫画を読んでさらにホクホクできる。「いまの時代はギブ&テイクではなくギブ&ギブでしょ」という資本主義社会の欠陥もろもろを内包したようなタナソーの主張に妙に納得して、ひとまず吉田秋生の『ラヴァーズ・キス』と高松美咲『スキップとローファー』を買った。
- 濱口竜介『ハッピーアワー』
1月2日にイメージフォーラムで5時間の映画を観るという、25年生きてきたなかでいちばん贅沢な正月暮らし。『ハッピーアワー』自体は2度目の鑑賞だけど、1度目はCS放送で観たので劇場鑑賞ははじめて。大好きすぎてオールタイムベストに据えていた映画だ。
2度目を経ると、(あれ、こんなに後味の悪い映画だったっけなぁ)と驚いたり、(冒頭のワークショップちょっと退屈だなぁ)とかちょっとよくない印象も抱いたり。ひとえにそれは、1度目の『ハッピーアワー』鑑賞が充実しすぎていたからだと思うんですが。
もうどうにも元に戻らない崩壊を経験しないと、人間は深い関係を構築できないのか。それならばずいぶんと先行きが危ういなとちょっと人生が不安になりながら、濱口竜介の映画を観るといつもどおりその人間関係に強く憧れを抱いてしまうのでした。
1度目に観たときにFilmarksにメモした内容を読み直してふむふむ言った。
「“分かっている”、“繋がっている”と思いきや実は繋がっていないということが明らかになる。そしてそのことによって、急に足元がグラつきだす。
何度も何度も、正中線と言う名の「心」が対面する瞬間がある。それでも、その心を繋ぎとめておく能力は私たち人間には備わっていないから、いとも簡単に関係は浮遊する。心は彷徨いだす。」
- ユン・ガウン『わたしたち』
小学4年生の少女たちの、陰湿ないじめの発端を見るような微妙な関係性を描いた韓国映画。親からの愛を受けなかった転校生の少女と、友だちからの愛を受けなかった少女の邂逅から物語は始まる(その意味では『少女邂逅』に似ているか)。それは限りなく奇跡に近い輝きに満ちた出会いだったけど、ひとつにはやはり階層の差が、惨たらしくも彼女たちを離れ離れにしてしまう。
耳に当てられた拒絶のヘッドホンは首に落ちることで円をなし、やがて連帯のブレスレットを形成する。そうした端々の演出も繊細で、思わず少年時代の自分の記憶を喚起させられてしまった。ちょうどあの頃、似たような関係性になってしまった友だちがいたな…。傷を与え合うドッヂボールではなく、愛を与え合う対話を。それにはあとひとつだけの、自分からの愛と勇気が必要だ。
-『マヂカルラブリーno寄席』
1月2日の時点でTwitterのTLで4人くらいがツイートしていたので、気になって配信ライブを購入。いまではTLの半数が観ていそうなくらいバズっている。
みごとに新年初爆笑させてもらった。ガヤで完成するランジャタイの漫才がとにかく最高。「伊藤、友だちいないんだろ? そいつ(国崎)を手放せないんだろ?」に笑い、ふたりだけだった空間に言葉が投下され交わっていくようすに哀愁すら感じた。
-『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』
自分にこんな努力や対話や仕事や家事ができるのかと考えはじめると、結構つらいなと真面目に落ち込んでしまった。対話はとことんしたい、でもそれでは解決できないお金のなさに絶望する。年末最後までせっせとひとりで仕事する平匡さんの描写が苦しすぎた。あそこまで頑張っているのになぜ彼女たちは一緒に暮らすことができず、平匡さんは子どもの成長を見ることができないのか。
またこれは別の話だが、コロナ禍以降の描写が、「戦時下」的に描かれていることが気になった。みくりの「疎開」(劇中この言葉が出る)、前線で戦うかのような平匡の姿、そこからの緊急事態宣言。言うまでもないが、コロナ禍は「戦争」ではない。今現在私たちが経験しているのは、戦争でも戒厳令でもない
— コメカ (@comecaML) 2021年1月4日
TVODコメカさんがツイートしていたけど、「疎開」という言葉を使ったりコロナ禍を戦時下に被せるような描写があって非常に辛かった。彼女たちは一緒に暮らしていく方法を考えられなかったのか。あれでほんとうに満足しているのか。あれが現実なのかもしれないが、なんとかならないのか。選択的夫婦別姓などの話題がさすがにさらっと流されすぎていたとも思ったので、あと10話は祈りの物語が必要だ。
「男らしくあらねばならない、それもまた呪いかもね。」「誰かと一緒にいるときでも人は孤独を感じる生きものだよ… 」しかし野木脚本はやはりセリフが圧倒的に強いし、登場人物たちの意思が強いな。これはいい意味で。
- ピート・ドクター『ソウルフルワールド』
逃げ恥でちょっとしんどくなったのでこの人生大肯定映画をもう一度観て元気を出そうと思ったら、変な受け取り方をしてしまい元気を出すのに失敗した。目的をもつのは愚かだ!と逆にいままでの人生を否定されているような気がしてしまい…。でも本作が伝えるのはそういうことではないのだ。夢をもつこともすばらしいけど、人生のきらめきはそこかしこに散らばっているから、目的を見失っても人生を見失う必要はないのだよと伝えてくれていて。
タモリ「目標なんかなくていいんですよ。教育が悪いね。人間は何かの目標に向かって生きていかなあかんとか。なんのために生きるかとかね。どうででもいいですよね」/『タモリ×鶴瓶 新春SP2021』1/3
— 飲用 (@inyou_te) 2021年1月5日
結局はのちに観たこの言葉に救われた。本作で、生まれる前の魂たちが首にかけているペンダントがNizi Projectのそれに見えて仕方なかった。思えばあれも謎にランキングとかつけて競争心を刺激したりしていたけど、視聴者にとっては案外そんなのどうでもいいものだったんじゃないかなと、ペンダントも含め。その順位やキューブの数に惑わされないマユカやアカリの活躍にこそ、Nizi Projectの真価が現れていたと感じている。
-『千鳥vsかまいたち』
3日に放送された30分番組。24日からレギュラー放送がはじまるみたい。せやねんを観てきた関西人からしたら夢のような組み合わせだ。とにもかくにも「スーツプードル」の破壊力。VTRを観て「俺なら降りない」と言った山内のさすがの降りない力に惚れる。序盤はゆったりした進行でどうなるかと思ったけど、恒例になるようなとっかかりがギリギリ最後に出てよかった。その辺の予定調和のなさに優れたバラエティ味を感じる。まぁこの組み合わせで面白くならないわけがないよな。
-『愛の不時着』
年末年始で10話まで観た。観終わったら感想書くけど、さすがに長いと思っている…。
- 吉田秋生『ラヴァーズ・キス』
POP LIFEレコメンド漫画。とにかく生きていくにはそれしかないのだと言わんばかりに、登場人物みんなが人を愛することに夢中になっている。まさしくギブ&ギブ。1995年の作品で異性愛よりも同性愛の割合が多いことに単純な驚きを得たりするが、本作が身体の形よりも心の移り変わりに焦点を当てようとしているのだろうということは明白だった。出会ってしまったからには、別れを想像するよりも愛を与え続けなければ。孤独感を抱かない一番の方法は、愛されることを志すのではなく人を愛することなのかもしれない。
- 高松美咲『スキップとローファー』
POP LIFEレコメンド漫画②。4巻まで買い2巻まで読んだ。めちゃくちゃ面白い。最高。4巻読んでからちゃんと感想を書こうと思うけど、ぜんぶが人生の教訓になるような深い物語だし、『町田くんの世界』『のぼる小寺さん』、海外だと『幸福なラザロ』などの聖人主人公映画が好きな自分にはドンピシャだった。スクールカーストが融解していくところにアメリカティーンムービーのトレンドを重ねたり。
-『100分de萩尾望都』
100分de名著の新春スペシャル回。テーマは「萩尾望都の漫画」。
少女になく少年にはあった自由さ*2、母娘の難しい関係性、血や遺伝子に対抗する言葉によるコミュニケーション、生産至上主義へのアンチテーゼ。近ごろ考えていたテーマがたんまりでてきてめちゃくちゃ面白かった。萩尾望都作品も100分de名著という番組自体も初めて知ったんだけど…これは読まなければ観なければと思った。16日に再放送があるので録画して何度も見返したい。
-『人生最高の贈り物』
岡田惠和脚本のテレ東新春ドラマ。石原さとみと寺尾聰がちょっとぎこちない父娘を演じ、内容は余命モノ。演出は山田太一や倉本聰と仕事をしてきた石橋冠ということで、時期的なこととかなり昭和的なルックもあって、ちょっと年配向けのドラマな印象を受ける。
「お前にはできない」。そう父親にかけられた呪いを、最終的にその父親の言葉によって解いてもらう話、ざっくりと。いまの時代に家父長制に生きた父と娘の感動話を描くことにどれだけの意味があるのかを考えてしまう。『逃げ恥』を観たあとだとなおさら、さすがにおじさん的価値観のうえに作られすぎていてキツい。が、ドラマとしてはやはり岡田惠和脚本なので感動してしまう部分もあり。料理によって明らかになる「父親の価値観も少しずつ変わってる」という描写は注目してもいいかもしれない。
-『セブンルール』#180 目指せ演劇の甲子園!廃部寸前から全国2位に…離島演劇部の青春
ロロの擬似高校演劇は観たことがあったけど、ほんものを観ると無性に込み上げるものがあったな(観るといっても短いシークエンスだけだけど)。先生の「やっぱり部活動の顧問なので、青春を演出しないといけないから」という言葉がかっこよかった。
*1:ということで最近気になるテーマの一部を書いておく。/なぜいじめはなくならないのか、階層の差がコミュニケーションの間を開けるのか/2020年のに良質な子どもの映画が多く公開された背景/どうすれば頭で考えていることを正確に口にできるのか/なぜ家族は強固な絆で結ばれているのか、あるいは家族でないと真に遠慮のない親密さは得られないのか/生きてるだけで人生は美しい、それってほんと?理想論?/家父長制はどうすれば崩壊するのか/なぜ現代社会は資本主義を採用しているのか/資本主義社会を打ち崩すすべと、その先に希望の道筋はあるのか…
*2:宮崎駿は逆に、自らの作品に少女が多く登場することに関して「8歳の少年は悲劇的にならざるを得ないものを強く持っているからです。知らなければいけないことが山ほどありすぎ、身に付けなければいけない力はあまりにも足りなくて……つまり女の子たちとは違うのです。少女というのは現実の世にいますから、極めて自信たっぷりに生きていますけど、男の子たちはちょっと違うのだと思います。」https://www.itmedia.co.jp/makoto/spv/0811/28/news011.htmlと述べている。萩尾望都と全く逆でありながら全く一緒ともとれる思考回路。異性などに自由を投影してしまうというのは心理学的にも証明されていることなのかな、と疑問に思ったりした。
2020年のポップカルチャーベスト50《「先週食べたカルチャー」年末編》
bsk00kw20-kohei.hatenablog.com
2020年のベスト映画については別エントリーで書いたので、ここではポップカルチャー全般について振り返ります。
2019年の4月くらいから「ポップカルチャーをむさぼり食らう」というブログを月一で書いていたのだけど、ちょっとひと月のことを一気に振り返るのは時間がかかりすぎるなと思い、週一で更新することにしたのが2020年の6月ごろ。その頃はたぶんめちゃくちゃ暇だったしいろんなものを摂取する時間があったのだと思うのだけど、下半期はどんどん生活が元に戻るにつれあんまり更新ができなくなっていった。そこは残念なところ。来年もたぶん変わらないと思うけど…、面白かったものは瞬間的に記録していきたいところです。
前置き長くしたくないので、すぐに本題。
昨年、ポップカルチャー全体でベストを選出するこんな記事が上がっていて、僕もやりたいと思った次第。毎月、毎週、更新できなかった期間もあったけど振り返ってきたので、その統括的な記事にできればいいなと。一つひとつコメントしていくと長くてうっとおしいと思うので、コメントしたいやつだけ注釈に記載することにします。
そもそものポップカルチャーの定義はほとんどなく、映画、ドラマ、演劇、小説、マンガ、お笑い、音楽、アイドル、俳優、YouTube、webサイト、テレビバラエティなど超雑多なランキングになってます。ラジオだけほぼ聴いてないのでほぼゼロになっちゃいました。
それではさっそく50位から!
50.仲野太賀
49.「高円寺チャンネル」(YouTube)
48.ALTSLUM(テキストサイト)
47.『売野機子短編劇場』(マンガ)
44.田島列島『水は海に向かって流れる』(マンガ)
43.長久允『(死なない)憂国』(演劇)
42.ロロ『四角い2つのさみしい窓』(演劇)
41.NHK『リモートドラマ Living』(ドラマ)
40.月刊「根本宗子」第18号「もっとも大いなる愛へ」(演劇)
39.テレビ東京『あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜』(テレビ番組)
38.TBSテレビ『MIU404』(ドラマ)
37.ナカゴー『ひゅうちゃんほうろう-堀船の怪談-』(演劇)
36.山本美希『かしこくて勇気ある子ども』(マンガ)
35.NHK『心の傷を癒すということ』(ドラマ)
今泉力哉『有村架純の撮休』第6話:好きだから不安 - 縞馬は青い
33.グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(映画)
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』6月12日(金)全国順次ロードショー
外を覗くこと、扉を開くこと、書くこと……『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』雑感 - 縞馬は青い
32.東海オンエア
【ジョークですよ】1番スマートにてつやを「暗殺」できた奴の勝ち!
31.Juice=Juice
Juice=Juice『ポップミュージック』(Juice=Juice [Pop Music])(Promotion Edit)
【ハロ!ステ#356】Juice=Juice コンサート2020 ~続いていくSTORY~ 宮本佳林卒業スペシャル!ハロー!キッチン MC:野中美希&浅倉樹々
30.「しもふりチューブ」(YouTube)
粗品安田記念52万賭け!!せいやがレース完全再現【霜降り明星】
29.Netflix『クイーンズ・ギャンビット』(ドラマ)
28.セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』(映画)
27.『キングオブコント2020』
『キングオブコント決勝でやったネタ「野次ワクチン」をする奴』ジャルジャルのネタのタネ【JARUJARUTOWER】
26.NHK『不要不急の銀河』(ドラマ)
25.さとうもか『GLINTS』(音楽)
さとうもか - Glints sato moka Music Video
24.テレビ朝日『テレビ千鳥』(テレビ番組)
23.「THE FIRST TAKE」(YouTube)
YUI - TOKYO , CHE.R.RY / THE FIRST TAKE FES vol.2 supported by BRAVIA
22.私立恵比寿中学
21.ラ・ジリ『レ・ミゼラブル』(映画)
20.ピート・ドクター『ソウルフル・ワールド』(映画)
19.大九明子『私をくいとめて』(映画)
映画『私をくいとめて』本予告 〈12月18日全国ロードショー〉
18.『Nizi Project』
17.フワちゃん
16.和山やま『女の園の星』(マンガ)
15.藤井風『HELP EVER HURT NEVER』(音楽)
藤井 風(Fujii Kaze) - "もうええわ"(Mo-Eh-Wa) Official Video
14.玉田企画『今が、オールタイムベスト』(演劇)
13.『M-1グランプリ2020』
マヂカルラブリー【決勝ネタ】最終決戦〈ネタ順2〉M-1グランプリ2020
12.森七菜
11.ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』(映画)
第72回カンヌ国際映画祭で最高賞!『パラサイト 半地下の家族』予告編
10.遠野遥『破局』(小説)
9.近藤聡乃『A子さんの恋人』(マンガ)
8.小森はるか+瀬尾夏美『二重のまち/交代地のうたを編む』(映画)
7.大九明子『甘いお酒でうがい』(映画)
松雪泰子に清水尋也がそっとキス 平凡な40代女性の日常を描く映画「甘いお酒でうがい」予告 ナレーションは「3時のヒロイン」
6.住田崇『架空OL日記』(映画)
5.大森立嗣『星の子』(映画)
4.ニューヨーク
漂流芸人2020〜僕の相方が失踪して‥。ぱろぱろ解散の真相〜
3.宇佐見りん『推し、燃ゆ』(小説)
2.ABEMA『17.3 about a sex』(ドラマ)
1.キム・ボラ『はちどり』(映画)
*
人間は忘却することが得意な生き物だから、6月ごろに地の底まで落ちていた自分のカルチャーへの愛もすっかり再燃していることに今気づいてびっくりしたりしている。世界が大変であればあるこそ、面白いコンテンツが生み出されるのはこの世の摂理。だからその循環の中に身をまかせながら、カルチャーから受け取ったメッセージをしっかりパワーにして人生に立ち向かっていきたい。
2021年もよろしくお願いします!!
*1:50位、仲野太賀。びっくりするくらい太賀さんを観た一年だった。ほんとびっくりした。映画では『静かな雨』『生きちゃった』『泣く子はいねぇが』、ドラマでは『この恋あたためますか』『あのコの夢を見たんです。』など、すべてを挙げるのも困難なほど活躍していた。彼の存在感はやはり主演に向いている。『ゆとりですがなにか』の山岸が好きなので、これからもクズ男と優男の間を行き来してほしいところ。ずっと大好きな俳優。
*2:49位、「高円寺チャンネル」。“エンジ”在住のお笑い好きかつ、マヂラブ村上さんを通算5回くらい、刺身さんと鬼越酒井さんを1回ずつ街で見かけているので、見ないわけにはいかないYouTubeチャンネル。全動画見ている。
*3:48位、ALTSLUM。フリーライターの高島鈴さんの文章が好きで追っていたらワニウエイブさんとという方と素晴らしいWebサイトを立ち上げていた。CHAT! CHAT! CHAT!では、(毎度結論を出す必要はないと思うのだけど、)コミュニケーションによる思考の回路が可視化されていて楽しい。
*4:47位、『売野機子短編劇場』。下記サイトのインタビューを読んでから売野機子さんのマンガに興味を持ち、『ルポルタージュ』を読んでみた。好きすぎた。まじで好きすぎた。恋愛は哲学だーー。そして今年発売された短編集もとてもよかったです。「ロボット・シティ・オーフェンズ」「神さまの恋」あたりが好き。https://www.cinra.net/interview/202012-urinokiko_kngsh
*5:43位、『(死なない)憂国』。三島由紀夫の『憂国』は未読。東出昌大の本気を観た。
*6:32位、東海オンエア。正直ここ1年くらいずっと観るのを忘れていて、12月に入って久しぶりに観たら変わらずに面白くてびっくりしたのでした。動画一覧の再生回数を眺めてみると、ほぼ毎日投稿にも関わらずアベレージで200万再生というバケモノぶり。芸能人が多数参入して視聴者を取られるYouTuberも多いなか、東海オンエアだけは(本当に東海オンエアだけ)その特別な位置を確立している。2020年こそ評価すべきであろうと思いここにランクイン。
*7:27位、『キングオブコント2020』。個人的にはニッポンの社長と出会えたのがめちゃくちゃうれしかった。彼女が大好きなのでいずれ出会えていたと思うけど。彼らのネタについてはいつかブログに書きたい。
*8:26位、『不要不急の銀河』。コロナ禍の傑作ドラマ。コロナによって多大な影響を受けたエンタメ業界と夜の街関連の業界の苦悩と再生を前半でドキュメンタリーとして描き、後半は又吉直樹脚本によるスナックを舞台にした家族と青春にまつわるドラマが展開されていく。前半で実在のスナックのママが発する言葉の一つひとつが、後半のドラマを観るなかで心に染み込んでいく感覚があって構成として素晴らしいし、あられもなく光り輝く飲み屋やカルチャーの存在の愛おしさに涙してしまう。
*9:25位、『GLINTS』。ことしの夏はさとうもかの音楽とともにあった。
*10:24位、『テレビ千鳥』。人生ゲームで遊びたいんじゃ‼︎とかもう一度観たい。ゴールデンに進出してもまったく変わらない雰囲気が狂ってて最高。
*11:23位、「THE FIRST TAKE」。バケモノ番組の誕生。このYUIの復活に興奮し散らかした。これも大好きで何回も見てる→Creepy Nuts - 生業 / THE FIRST TAKE - YouTube
*12:22位、私立恵比寿中学。今年は本当にエビ中に助けられた。コロナ外出自粛中に出会い、一瞬ではまり倒してしまったアイドル。彼女たちはコロナ禍でも精力的に活動してくれていて、生きる支えになりました。昨年のファミえんのDVDも買ったし、オンラインライブもめっちゃ見てる。彼女たちの歌声はデトックス効果が抜群で、確実にコロナに効く。
*13:18位、『Nizi Project』。先日のMステでミイヒを含めたメンバー全員でのNiziUのパフォーマンスを観たとき、(観たかったのはこれだよ!)と唸った。足りなかったピースがやっとハマり、ついに動き出したNiziUの今後が楽しみ。
*14:17位、フワちゃん。クイックジャパンウェブで半年間くらい彼女の連載の構成を担当させてもらえたのは、とてもありがたく楽しかったです。フワちゃんはいつも、「小さな幸せこそを大事にしていきたいし、それを自分でも作り出すために頑張っている」というようなことを言っている。それって僕が好きな坂元裕二脚本のドラマとかにも通じるような、人生の生きる指針になっていることだし、それを極限にポップなタレント性で証明し続けているフワちゃんの姿は素晴らしいとしか言いようがない。毎回楽しい仕事だったな。
*15:16位、『女の園の星』。ともかくギャグセンが高くて、ケタケタ笑いながら登場人物たちの生態に興味を引かれながら一気に読んだ。
*16:14位、『今が、オールタイムベスト』。役者の個性がぶっ飛んでいた。玉田さんは映画の『僕の好きな女の子』もよかったけど、本作にも奈緒さんが出演していていい味出してたな。俳優たちが繰り出すアグレッシブな言葉とめまぐるしく変わる表情に何度も不意を突かれながら、どこまでいっても悪目立ちする“個”が、ときおり連鎖的なつながりを見せる瞬間にハッとしたりする。テニスコートの神谷さんに惚れたので、コントを観に行かなければ。
*17:13位、『M-1グランプリ2020』。真空ジェシカ、キュウのネタをしっかり観れたのがことしの大きな収穫だった。来年はたくさんライブで彼らを観たい。優勝は文句なしでマヂカルラブリー。かっこよかった。アナザーストーリーの野田さんには泣けるよな。
*18:12位、森七菜。2018年の野木亜紀子脚本ドラマ『獣になれない私たち』で、田中圭のお母さん役の学生時代を演じている彼女を観たとき、こりゃすげえわと思って確実に売れると期待していた森七菜が、そのときの素朴さ、突出した原石感を残したままここまで登りつめた。唯一無二の清爽な声をしていて歌声にも聴き惚れる。
*19:10位、『破局』。刺激的な読書体験。主人公の思考が鮮明に描かれすぎていて吐き気がするくらい気持ち悪かったけど、ところどころ共感の余地もあるし、同世代を捉えた作品としてこれほど解像度の高いものはないなと思いながら夢中になって読んだ一作。セリフの長さに頭がグワングワンする。
*20:9位、『A子さんの恋人』。10月についに完結したA子さん。一緒に生きていく方法をふたりで考えましょう、と手紙を送るA君とそれを手渡すA太郎の決心に泣いた。また最初から読み返したい。
*21:8位、『二重のまち/交代地のうたを編む』。2月に都写美の恵比寿映像祭で観たドキュメンタリー映画。東日本大震災の当事者でない人々が、被災者との対話を繰り返しながらその体験を「語り直す」までを追った作品。わたしたちは言葉にするときいつも何かを取りこぼしてしまうけれど、それでも語り直そうとするその意思こそが空白のなかを生きる唯一の手段なのではないかと考えさせられる。
*22:7位、『甘いお酒でうがい』。黒木華演じる主人公の同僚みたいな人がずっと幸せに生きていてさえくれればいいし、僕はそのために精魂を尽くしたいと思ったりした映画。
*23:6位、架空OL日記。「月曜日の憂鬱マイレージが貯まったらタヒチのボラボラ島に旅行へ行こう」という言葉こそがこの世の真実だと思う。
*24:5位、『星の子』。「それひと口ちょうだい」と言って水を飲み、「まずっ」と続けたなべちゃんの歩み寄り方こそがコミュニケーションにとって必要なことだ。
*25:4位、ニューヨーク。コロナ外出自粛中にどれだけ彼らの動画を見たんだろう。ほぼ毎日Zoomで配信をやってる印象が残っていて、とても救いになっていた。聞き役のうまさが傑出した最高の動画を貼っつけときました。
*26:3位、『推し、燃ゆ』。表現のなめらかさに骨抜きにされた。
*27:2位、『17.3 about a sex』。エンタメとユーモアで性の複雑さを包み込んだドラマ。見たほうがいいかもな、と1ミリでも思う人は何を置いても見たほうがいい。
*28:1位、『はちどり』。映画ベストと同じく今年ベストカルチャーはこちら。主人公・ウニの地団駄ダンスや母親を呼び止めて無視される場面などが頭から離れない。
2020年のベストムービー20選
今年観た映画。そう振り返ってみても、いまいちピンとこないのが正直なところだ。やっぱりどうしたって「これは2020年の作品たちだな」というまとまりがないというか。まだコロナがくる前、1月と2月、3月の前半くらいにとんでもなく傑作映画が集まっていたのを記憶してるけど、それが2020年という感覚すらももはやあまりないかもしれない。
コロナをまたいで制作されて、2020年中に公開された映画なんてものはほとんど存在しないだろう(知ってる限り大九明子監督の『私をくいとめて』くらい?)。だから少なくともコロナが映画の「内部」に与えた影響というのはほぼ無いに等しいのだけど、それでもやっぱり、映画の外部にあたる我々が、我々の住む世界が様変わりしてしまったからには、映画の側も変わらざるを得ないのであった。他の芸術・文化と同じく不要不急からつまはじきにされてしまった映画というカルチャー。ミニシアターはこの一年、ずっと生死の境をさまよっていたことだろうと思う。アップリンクやユジク阿佐ヶ谷ではパワハラ問題も取り沙汰され、まだもやもやと未解決なままだ。
今年もいつもと同じように20作品をベスト映画として選んだ。配信作品は9位のやつだけだから、数年後に振り返ってみてもコロナの影を感じづらい作品群であるだろうと思う。単純に好きな映画を並べたのに加えて何か共通のテーマを見いだすのならば、(これも例年とあまり変わらずだけど)「女性性」や「男性性」、「ジェンダー」や「年齢(子どもと大人)」といったテーマに心を惹かれた。それに加えて、「物語」や「スケール」などの大枠よりも、「感情の機微」といったものがどれだけ繊細に描かれているか、そこのところをより注目するようになった1年だったと思う。
- キム・ボラ『はちどり』
- 大森立嗣『星の子』
- 大九明子『甘いお酒でうがい』
- グザヴィエ・ドラン『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
- 住田崇『架空OL日記』
- ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』
- グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
- 大九明子『私をくいとめて』
- ピート・ドクター『ソウルフル・ワールド』
- ラ・ジリ『レ・ミゼラブル』
- 岩井俊二『ラストレター』
- 山中瑶子『魚座どうし』
- 内藤瑛亮『許された子どもたち』
- セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
- 佐藤快磨『泣く子はいねぇが』
- 河瀨直美『朝が来る』
- 玉田真也『僕の好きな女の子』
- いまおかしんじ『れいこいるか』
- 坂本欣弘『もみの家』
- 渡辺紘文『わたしは元気』
新作鑑賞本数:84
20.渡辺紘文『わたしは元気』
インディー日本映画界では言わずと知れた、渡辺紘文監督の最新作。「大田原愚豚舎」というだいたい家族だけでスタッフをまわしている映画制作集団の、1年に1本ペースで制作される映画の新作。渡辺監督といえば、今泉力哉監督がかねてより「ライバル」と言っている存在だ(東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で何度も争い、負けているのだとか)。
いままではちょっとひねたような、暗く、滑稽で、常に主人公の男性(だいたい監督本人)が怒っていて、でもそれが可笑しくて、という作風だったのが一変。小学生の女の子を主人公に据え、『友だちのうちはどこ?』のパロディのような、しかしそれよりも圧倒的に爽やかで明るい作品を生み出してしまった。なんでも、これまでの作品にずっと出演していた(渡辺監督の)おばあちゃんが昨年102歳で亡くなり、再スタートとして新たなミューズを獲得したから作風がちょっと変わったのだそう。これからがとても楽しみな大田原愚豚舎の意欲作。
19.坂本欣弘『もみの家』
坂本監督の前作『真白の恋』もとても好きだった。同じく富山を舞台に、心を閉ざした少女が大自然と自立支援施設の人々と触れ合うなかで感情を開いていく様子が描かれていく。高校の教室や家の自室といった「閉ざされた空間」から富山の大きな空間へと解放され、その暮らしのなかで生命と季節のめぐりに敏感になっていく南沙良。循環のダイナミズムがしみじみと涙を誘う、力強い作品だったと思う。
18.いまおかしんじ『れいこいるか』
1995年の阪神淡路大震災で一人娘を亡くした母と父の、その後の20年強を描いた映画。超力作。こんな映画いままで観たことがなかった。いくらでもお涙頂戴にできるような題材を、物語性やフィクション性、ドラマチックさをゼロまで削ぎ落とし、それでいて、そこにいる人物を確かな眼差しで捉えているからめちゃくちゃ真に迫ってくる。なんとなく震災からの距離を遠く感じていた1995年兵庫県生まれの自分にとって、これだけ感情移入できる作品はおそらくないだろう。
17.玉田真也『僕の好きな女の子』
玉田企画『今が、オールタイムベスト』、脚本参加のNHKよるドラ『伝説のお母さん』も素晴らしかったけど、『あの日々の話』に続き玉田真也監督の長編2本目となる本作もとてもよかった。吉祥寺が舞台のほとんどを占めるので(原作の)又吉直樹風味もかなり漂っていて。とにかく奈緒さんがめちゃくちゃ素晴らしい。いままでの作品で見せてこなかった表情をしていて、一発で虜になってしまいました。なんでもない会話もうまくて、冒頭から引き込まれてしまう。
16.河瀨直美『朝が来る』
辻村深月原作。ポスターや予告編を見る限りでは「愛か血縁か」的な、『そして父になる』『八日目の蝉』に近しい作品なのかと思っていたところ、全然違うくて驚いた案件だった。河瀨直美監督らしさと絶妙に合致しているといいますか、ふたりの女性の人生をある程度長い時間をかけて丁寧に捉えているパワフルな映画だった。役者の顔の表情に大きな信頼を置く河瀨監督と、それに応える蒔田彩珠らの執念が最後にみごと結実する。
15.佐藤快磨『泣く子はいねぇが』
男性性の脆弱さをとことん映像的な表現でむき出しにしまくった傑作。今年おおいに躍進した仲野太賀の、これがベストアクトであると断言したい。吉岡里帆の表情も感慨深い。
14.セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
全ショットが美しく、脚本も精緻に組み立てられていて、ずっと気持ちのいい映画。なかなか言葉であらわせないので、ここは自分のレビューでなく高島鈴さんの素晴らしい映画評を載せておく。
13.内藤瑛亮『許された子どもたち』
鑑賞後すぐに書いたfilmarksのレビューを見返すと、かなり興奮していたのが伝わってくる。「いじめ」に関する監督の膨大な研究量(エンドロールで膨大な量の参考文献が出てくるのだ)と、その思考の先を映画で追究しようとする圧倒的な熱量に心をぶち抜かれてしまったのだ。日常生活であれば目をそらしてしまうかもしれない、映画館でしか観ることができない悪夢。
12.山中瑶子『魚座どうし』
『許された子どもたち』もそうだったけど、今年は本当に良質な「子どもの映画」が多かった。それはつまるところ、社会の暗部が子どもを描くことを強く要請しているということで、それ自体はとても絶望的なことではある。生成された毒物は下の方に、弱者の方に沈殿していくことを、シャブロル並みのサスペンスフルなタッチで描いてみせた。もしも山中瑶子監督が長編映画をコンスタントに撮ることができないのであればこの世界はクソすぎるし、僕はめちゃくちゃ絶望するだろう。
11.岩井俊二『ラストレター』
岩井俊二の映画の中で生きる森七菜が奇跡すぎた。彼女が歌う主題歌「カエルノウタ」もめちゃくちゃ聴いた。『リップヴァンウィンクルの花嫁』と同じく、「嘘と本当」というのがテーマになるだろうと思う。本当の正体を探るために岩井俊二はいつだって書くし、撮るのだろうと思わせられた。
10.ラ・ジリ『レ・ミゼラブル』
これも子どもの映画 in フランス。紛れも無い社会派映画であり、しかし絶妙にエンタメ性もあって面白かった。神の視点のようなドローンが“上下”の感覚を呼び起こし、階段での攻防戦を誘引するまで、『パラサイト』などの現代映画のトレンドをここでも感じずにはいられない。
9.ピート・ドクター『ソウルフル・ワールド』
おったまげ精神論映画。夢を持つこと、人生に目的を持つことへのアンチテーゼを唱える、新しい価値観を伝えてくるピクサー最新作。鑑賞直後は今年ベストかもしれないと思うくらい衝撃を受けたけど、やっぱりこういう「大きな思考」が生き方を劇的に変えるのは難しく、それよりも、小さなコミュニケーションの話とかに興味を惹かれるよな、なんて思ったりもした。
8.大九明子『私をくいとめて』
男性でいてのんちゃん演じるみつ子に真に共感してしまうのは僕だけなのだろうか?身に覚えがある感情ばかりが描かれていて、『勝手にふるえてろ』よりもキューっと胸が締め付けられる瞬間が多かった。きっとこれからみつ子は大きな壁にぶつかっていくのだろうと思わせながらもスッキリと終わる、ラストがいい。
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7.グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
ハリーポッター並みの美しくおとぎ話感のある大きな世界観で、主人公を中心に女性の感情の機微が細かに描かれていてはちゃめちゃに面白かった。もう元には戻らない時間と、その愛おしい過去を自らの言葉で語り直し、強く抱きしめていくジョー。「書く行為」に託された信念ーーある一方向に規定されない自由な人生の選択ーーのたくましさに、それを一応生業にしている僕としては心を鷲掴みにされてしまった部分もある。
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6.ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』
楽しい映画だと思う。鑑賞中は興奮が止まらないし、鑑賞後も思考が止まらない。ポン・ジュノの美的センスには一生ついていきたい。
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5.住田崇『架空OL日記』
まったく映画的な映画ではないけどそんなこと抜きにして最強のエンタメ作品だと思う。変わらない日常の繰り返しと、そのことの幸せと。言うなればこれが本当の『ソウルフル・ワールド』なのかもしれません。
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4.グザヴィエ・ドラン『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
偏愛映画①。この映画について語り出すとすぐにエモい文章を書いてしまうし、それをするにはもう語彙力が尽きているので、とにかく「自分の映画だった」とだけ記しておきたい。
3.大九明子『甘いお酒でうがい』
偏愛映画②。まさか大九監督の映画が2本もベスト10に並ぶとは。もちろん『勝手にふるえてろ』も好きだったのだけど、本作を観て最重要監督になった。卒業制作の『意外と死なない』(サンクスシアターで見れる)もいいのだよなぁ。『甘いお酒でうがい』はなんとなく『デザイナー渋井直人の休日』と並べて人生のバイブルにしておきたい。これで30代と40代も幸せに暮らせそう。
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2.大森立嗣『星の子』
偏愛映画③。テーマ的にあまりにも刺さる部分が多い映画でした。まず、時系列を巧みに交差させる前半のスムーズな話運びがとてもよくできていたと思う。それでいて後半はピンポイントにテーマをぶつけてきていて。あとから読んだ原作がそもそもそうだったのだけど、後半にいくにつれ主人公の感情が読めなくなっていく構成になっているのがグッと引き込まれる要因なのだろう。芦田愛菜ちゃんが圧巻。
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1.キム・ボラ『はちどり』
今年のベストは『はちどり』です。すばらしかった。
韓国、キム・ボラ監督の長編処女作。心の揺れ動きに触れる繊細さと時代を的確に映し出す大胆さがすでに共存してしまっていて、彼女が影響を受けたという『ヤンヤン 夏の想い出』『誰も知らない』なんかはもうとっくに飛び越えてしまっているんじゃないかとすら思った。
*
来年もすでに坂元裕二脚本『花束みたいな恋をした』、今泉監督の『あの頃。』と『街の上で』、クロエ・ジャオ『ノマドランド』、沖田修一監督×田島列島原作の『子供はわかってあげない』、小森はるか監督の『二重のまち/交代地のうたを編む』、昨年の東京国際映画祭で観たグランプリ作品『わたしの叔父さん』などなど傑作が確定されている映画がたくさんあるので、とにかく生きて、たくさん映画を観て、感想を書ければなと思う。個人的な映画関連の目標でいうと、2021年は『キネマ旬報』あたりの映画雑誌に寄稿してみたい。以上。
先週食べたカルチャー(20年12月2週目)
先週摂取した映画、ライブ、ドラマ、演劇などの記録。
12月9日、CSテレ朝で生中継されていたアンジュルムの武道館公演をリアルタイムで観た。船木結さんの卒業コンサート(「アンジュルム コンサート2020 ~起承転結~ 船木結卒業スペシャル」)。「大好き」が魔法のように幾重にもこだまし、愛が積み重なっていくとても美しい時間だった。ふなっきがとにかくキューティーむすぶたんらしく仕上がりまくっていて、ヴィジュアルももちろんなのだけどとりわけ全くブレない歌唱とダンスに惚れ惚れする。とくにあの、メンバー一人ひとりと交わした16分ぶっ通しのメドレー。夏終わりに、あるアイドルの無観客ライブを観ていたとき「久しぶりのライブでさすがに息切れしてるな…辛そうだな…」と思ったことがあったから、この「完璧さ」が当たり前のものではないと理解しているつもりだ。当たり前のことなんてなにもない。ひとまず、半年の延期はあったものの卒コンを開催できてほんとによかったし、そこにベストコンディションを持ってきてくれたふなっきには感謝しかない。アンジュルムのライブを観ると「結局はLOVEでしょ(©︎46億年LOVE)」と最終的にそういう結論になってしまうけど、それでいいのだろう。りかこがふなっきに向かって最後に叫んだ「LOVE!」を僕はたぶん忘れない。
の、次の日は宮本佳林さんの卒コン(「Juice=Juice コンサート2020 ~続いていくSTORY~宮本佳林卒業スペシャル」)。この日は武道館へ行けた。ちょうど1年くらい前に代々木体育館のライブを観にいっていて、彼女たちにとっても自分にとっても大きな会場での単独はそれ以来。ライブ行く前の1週間くらいめっちゃ心躍っていたなぁ。久しぶりにライブを観れるうれしさ、ようやく彼女たちが全力でパフォーマンスを発揮できるときがきたんだという安堵感。Juice=Juiceについてはずっと応援していたわけではなくそれこそ1年前に初めてライブを観にいったのだけど、デビュー時からその軌跡はときおり楽曲と映像で追っていた。人数の増減を経ながらも、大きな問題はなく順調に着実に「最強のグループ」になっていった印象を抱いている。高い水準での安定感と、それでもずっと見せ続ける伸びしろと成長に何度も驚かされた。井上れいれいが加入し最初で最後の9人体制となった武道館公演も、1曲目の「ひとそれ」から布陣が強すぎて、なんだか戦隊モノを見てるみたいに興奮してしまった。れいれいがすっかりJuice=Juiceの一員になっていることに驚きを通り越して納得し(ビートと共鳴するボイパの重低音…)、タコちゃんは終始目で追ってしまう異様な存在感とダイナミックさがあったし、松永さんの堂々たる歌唱がめちゃくちゃ頼もしかった。特に目が離せなかったのがこの歴の浅い3人だったから、そりゃあJuice=Juice強えよなと。中心メンバーが卒業するっていうのにこんなに会場が安心感と純粋な送り出す雰囲気に包まれるステージになっていたのは、彼女たちの脂が乗りまくってるからだと思う。
この武道館公演で、Juice=Juiceの楽曲をちゃんと聴いてなかったことに改めて気づかされた。「この世界は捨てたもんじゃない」、あれ名曲すぎでしょ……。
為せば成る?
土砂降り、空振りだって ポジティブ全開
ほら、ピンチもチャンスも活(い)かせ Go!
太陽はみんなを照らす
雨雲散らした 風も味方だ
この世界は捨てたもんじゃない
スマホ失くしたし 彼に振られたし
メゲていたけど
バイト出かけたら イケメンお兄さんが
「君の?」って差し出したんだ
捨てる神に拾う神 一寸先は「光」かも
落ち込むヒマないさ 楽しめなきゃソンさ
私が創れるこの世でひとつの 物語、これから
為せば成れ!
赤裸々、あるままゆこう ひたむき全開
ほら、笑う角に君が Yes!
風向きはいつか変わる
世界は広いが 眺め尽くしたい
8番目の虹はどんな色?
「彼に振られたし」を「スマホ無くしたし」の前に持ってくるセンス、「ポジティブ全開」に負けない「ひたむき全開」というパワーワード、岡田脚本のドラマみたいな優しいストーリーテリング、クレイジーテンポなノリノリ最強リズム…。佳林ちゃんの歌い出しも素晴らしいよね〜、これから誰が歌うことになるのか楽しみ。「CHOICE&CHANCE」〜「ポップミュージック」〜「この世界は捨てたもんじゃない」の流れがとびきり明るくて心が溶けました。
『おちょやん』、観てます。2週目が終わったところ。3週目からはいよいよ杉咲花が登場する。それにしても2週目までの10話を牽引した子役の演技が素晴らしかったなあ。千代の幼少期(毎田暖乃)と一平の幼少期(中須翔真)のふたりがとてもよかった。おちょやんは岡安に来て最初の挨拶で親への嘘の愛を語り、一平は仮病をつかって舞台に立つことを拒否する。この両者の「嘘の芝居」が、第10話で発露される本物の感情に説得力と厚みを増していて、ほげぇとなった。両親の不在、喜劇への信頼、役者への憧れ。今後重要なテーマとなってきそうな事柄の土壌がつくられた第2週。朝ドラって「血縁家族」への執着が強い印象を勝手に(めちゃくちゃ勝手に)抱いているのだけど、本作は「親に捨てられた」主人公が奉公先で新たな関係性を見出していく話で、やっぱりそのあたり期待してしまう。
劇団かもめんたるの第10回公演『HOT』をオンライン配信で観劇。前回公演がとてもよかったと言っている知り合いがいたから、第5回公演『市民プールにピラニアが出た!!』以来久しぶりに観たのだけど、このちょっと気持ち悪い笑いの構造、無駄なことを永遠と語り続けている感じに、あぁ…好きです、けど特別面白いとも言えないなぁ…っていうどっちつかずな感情を抱いた。もうちょっと笑いに振り切ってくれたり、下衆さを全面に出してくれるとわかりやすく楽しめるんだろうなとも思うけど、これが劇団かもめんたるなんだからしょうがない。今年上演された玉田企画の『今が、オールタイムベスト』にう大さんが客演として参加していたわけだけど、やっぱり彼の最大の毒味を味わえるのは劇団かもめんたるしかないんだよな。
Netflix『クイーンズ・ギャンビット』すこーし時間がかかったけど見終えた。どんどんどんどんまるでアクション映画かスパイ映画を観ているような激しい劇伴が物語を覆っていくことに気づいてからは、このドラマが「アクション/リアクション」の反復によって成り立っていることに注意深くなった。チェスというのはまさしくその要素を最大限に司る媒体にほかならず。予定調和のない駒の運動には、リアクションが途絶える未来が運命づけられている。死を選んだ母親の真意、憂いに満ちていた義母、初めて愛した人に受けた痛み。このドラマにはいくつか宙ぶらりんにされる問題があって、そのリアクションなき現状への苦しみが主人公をどん底に突き落としていく。そんな彼女に対してもアクションを止めない多彩なキャラクターたちがいて。それに励まされながら、負けを恐れながらも最強の敵に立ち向かう勇姿。リアクション=アクションができないということがイコール負けになる世界で、それでも立ち向かっていく彼女の強さ。こういうアクション映画があってもいいよなって思った(映画ではないが)。初めて出会ったけどアニャ・テイラー=ジョイがとにかくめちゃくちゃ素晴らしい。
12月11日より上映されているラトビアのアニメーション映画『Away』をちょっと前にオンライン試写で観ていた。これ、めちゃくちゃ面白い。というか好きすぎるタイプの映画。全編セリフなしなので、ファンタジー感満載の映像から自分の想像力だけを頼りに物語を発展させていく感じ。そういう構造もそうだしストーリーや映像自体がそうなのだけど、とてもゲーム性のある作品だと思う。気になる方はあんまり情報をいれずに観てみてほしい。終始いろんな意味で楽しい映画だからおすすめできる。
またちょこちょこカルチャー日記書きます。