シシガシラが敗者復活から勝ち上がって令和ロマンが優勝するという数日前の出来事にまだホクホクしている年の瀬(に書き始めた)です。その2組とカナメストーン、忘れる。、サスペンダーズが出ていた「あんあん寄席」というライブの光景は確かに覚えておきたい。
年末なので、今年観た映画とたくさん心を温めてくれたカルチャーについて書こうと思う。自主制作で『VACANCES バカンス』というZINEを友人と作っていて、今年2冊出したそれぞれの主題は「やさしいともだち」と「(自分たちの側にいる)おばけ」だった。この1年は、生活の中で大事にしたい身近な他者の存在と、自分には見えていないものがあるという感覚を大事にしていた1年だったように思う。それは奇しくも、観たものや読んだものにも現れていました。記憶力が乏しいから一つひとつの感想の熱量は低めだけど、自分にとってとっても大事な作品たち。映画ベストから。
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10.金子由里奈『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』一筋縄ではいかないやさしさを描き出す大前粟生さんの原作も素晴らしいのだけど、金子さんの映像もまた違う世界を見せてくれて面白かった。幽霊を描く監督だから、ちゃんとぬいぐるみ視点がある。大きなぬいぐるみが主人公七森の耳を塞ぐ場面、そしてぬいサーのみんなが大きなぬいぐるみを洗っている場面が特に記憶に残ってる。最後に言葉を発するあの人物のやさしさを、私たちが見ているという構造がとても好き。
9.キティ・グリーン『アシスタント』やりがい搾取というのは自分の中でも一番身近にある暴力であって、映画業界の闇を映画で描いていることにまずは脱帽。どの業界にもいる、アシスタントという不可視化されやすい存在。おばけにも通じる。そしてこの映像がとんでもなく洗練されていてミニマルに刺してくるから、面白いのと同時に怖い。こういう良質な映画を配給してくれるサンリスフィルムさんに改めて大感謝。
8.今泉力哉『ちひろさん』『大豆田とわ子と三人の元夫』でも存在感を発揮していた豊嶋花さん演じるオカジがとてもよくて、彼女がちひろさんに憧れながら自分のための言葉や人生を切り拓いていく姿が勇ましかった。
7.ホン・サンス『小説家の映画』描かれているものは少ないのに、なーんでこんなに面白いんだろうね。この映画は確実にホラー映画みたいにも撮られていて、冒頭の怒鳴り声とラストの展開は特に怖い。他者との親密さの表現と絶対的な「わからなさ」の表現。
6.ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』これは最近観たので割とほくほく。日本を舞台にトイレ掃除の仕事をしている人を美化してドラマチックに描く映画だなと思って序盤は警戒して観ていたのだけど、主人公平山の仕事終わりのルーティンとか、決して聖人ではない人間らしい姿とかを見ていると気づいたら泣いてた。君と僕とは別の世界にいる人間なんだと端の上で語る平山と姪っ子。あのあわいの空間を描けるのが映画であって、トイレの◯×も駅の居酒屋も木漏れ日の下の昼食もそのささやかな越境に感慨を覚える。
5.加藤拓也『ほつれる』人から発せられる言葉や行動がぜんぶいい意味で腑に落ちなくて、ずっと曖昧な表現を漂っているのが凄まじい。リアリティ…というかなんでこんな脚本が書けて映像が撮れるんだろう。90分いかない尺で、物語を欲張ってなくて、登場人物が少なくて、音楽も少なくて、すべてのシーンにハリがある。こういう映画を私はたくさん観たい。
4.二ノ宮隆太郎『逃げきれた夢』『デザイナー渋井直人の休日』しかり、光石研さんが演じるおじさんが無性に好き。この映画は当て書きらしいから、光石さんの魅力が最大限に発揮されているのだと思う。二ノ宮監督の見せてくれる映像と物語にも信頼しかない。「おじさんの有害性」ばかりが注目されるこの世で、ほんとうの顔はここにあると思う。
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3.サム・メンデス『エンパイア・オブ・ライト』映画館で映画館についての映画を観れる喜びを噛み締めていた。いつか人と離れ離れになる瞬間が来るように、映画や映画館とも一生いっしょにいれるとは思ってない。それでもいま私は暗闇のなかでまばゆいばかりの光を浴びていて、そのあたたかさにいつも支えられている。映画は現実逃避ではなく、夢を待つ現実の体験。暗闇の中に投影される光は、目の前の道筋を照らしうる灯火。この哀しみも愛おしさも、すべて光になればいい。
2.アキ・カウリスマキ『枯れ葉』シンプルイズベスト。いや、シンプルに見えて実は複雑なのかも。偶然の出会い、視線の交差、すれ違い、邂逅、すれ違い、再会、すれ違い、再会。トレンディドラマのようなアナログな恋のすれ違いドラマが、デジタル機器をほとんど登場させないカウリスマキの世界にはまだ息づいている。でもこの映画が描いているのは「2022年」。ラジオから永遠に流れてくるウクライナ侵攻のニュース。心を痛め、怒り、ラジオのスイッチを切る。その圧倒的な現実の絶望感に対して、人と人の出会いには何ができるのだろう。アナログだからこそ、この映画には「待つ」とか「委ねる」といった人間の美しい所作があって、ここに僕は可能性を見出していた。待つというのは能動と受動の間。戦争が終わることも、誰かが自分のもとへやってくることも、祈りながら待ってる。映画を観るのもまさに「待つ」こと。
1.ルカ・グァダニーノ『ボーンズ アンド オール』
地球の裏側まで続きそうな地平線の真ん中に、マレンとリーは寄り添いながら座ってる。人間を食べなければ生きていけない性を抱えたふたり。彼女たちがキスをしているとき、互いを食ってしまうのではないかという緊張感と、互いの存在があることの安堵感とが同居しているように見えて美しかった(ラストの光景を見ていればどちらかでしかないのだけど)。3回くらい観たけど、この映画をどう解釈していいかよくわかってない部分もある。惨いものと美しいものが共存してる。ただただこの映画を観ている時間が好きで、オールタイムベストにも入れたい。ちなみに映像と素晴らしくマッチしていた音楽を手がけたのは『エンパイア・オブ・ライト』と同じトレント・レズナー&アッティカス・ロスだった。ついていきます…。ちなみにちなみに、上位3つに選出した映画には「映画館で映画を観る」シーンが登場する。
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改めてベスト10+他に好きだった11作品
- ルカ・グァダニーノ『ボーンズ アンド オール』
- アキ・カウリスマキ『枯れ葉』
- サム・メンデス『エンパイア・オブ・ライト』
- 二ノ宮隆太郎『逃げきれた夢』
- 加藤拓也『ほつれる』
- ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』
- ホン・サンス『小説家の映画』
- 今泉力哉『ちひろさん』
- キティ・グリーン『アシスタント』
- 金子由里奈『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
+α
- エメラルド・フェネル『Saltburn』
- ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『不安は魂を食いつくす』
- 宮﨑駿『君たちはどう生きるか』
- マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』
- ミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』
- ミア・ハンセン=ラヴ『それでも私は生きていく』
- ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ『トリとロキタ』
- ケリー・ライカート『ショーイング・アップ』
- 石井裕也『愛にイナズマ』
- マリー・クロイツァー『エリザベート 1878』
- 岩崎敢志『うってつけの日』(FILMEX)
ミカエル・アースやミア・ハンセン=ラヴ、ケリー・ライカートなどなど大好きな監督たちの新作をたくさん観られた1年だったんだなという気持ちと、上の3つに選んだルカ・グァダニーノ、アキ・カウリスマキ、サム・メンデスは自分に合う監督だと思ってなかったからびっくりの気持ちと、その両方がある。大晦日に配信で観た『Saltburn』もエメラルド・フェネルは前作そんなにハマってなかったから予想外の最高映画すぎて驚いた。好きな監督が増えるというのは幸せなこと。2024年の気になる映画3本は、ビクトル・エリセ『瞳をとじて』、三宅唱『夜明けのすべて』、濱口竜介『悪は存在しない』。
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◼︎よかった書籍(小説やマンガ、エッセイ、歌集)
- 伊藤亜紗・村瀬孝生『ぼけと利他』
- 中島岳志『思いがけず利他』
- 乗代雄介『それは誠』
- 高瀬隼子『いい子のあくび』
- エリザ・スア・デュサパン『ソクチョの冬』
- 児玉雨子『##NAME##』(「新潮」2023年夏季号)
- 小原晩『これが生活なのかしらん』
- 初谷むい『わたしの嫌いな桃源郷』
- 菊竹胡乃美『心は胸のふくらみの中』
- 田沼朝『四十九日のお終いに 田沼朝作品集』
- panpanya『商店街のあゆみ』
- 松本大洋『東京ヒゴロ』3巻
『東京ヒゴロ』は素晴らしい幕引き。本づくりの指針にしていきたいマンガ。小原晩さんの『これが生活なのかしらん』は今まで読んだエッセイのなかで一番しっくり馴染んだ。小説は『それは誠』にうっとりして、『##NAME##』の芸能とアイドルと少女の描き方にハッとした。
◼︎よかったライブや演劇
- 爍綽と vol.1 『デンジャラス・ドア』
- チョコレートプラネット『財津啓司オフィレジデンスOCCミーティンガー』
- ダウ90000 単独ライブ「20000」
- 週刊ダウ通信presentsダウ90000 夏の八演会
- コントライブ『夜衝2』
- EBISU BATICA 12th ANNIVERSARY『グレイモヤ』
- シシガシラ単独ライブ『一張羅』
- 第十四回 街裏ぴんく漫談独演会『六人のマーチ』
- パンプキンポテトフライ × ケビンス ツーマンライブ『ぽん酢ラーメン』
- Juice=Juice 10th Anniversary Concert Tour 2023 Final ~Juicetory~
- 柴田聡子のひとりぼっち'23 Day2 -外出-
◼︎よかったドラマ
- 野島伸司『何曜日に生まれたの』テレ朝
- バカリズム『ブラッシュアップライフ』日テレ
- 渡邉真子『こっち向いてよ向井くん』日テレ
- 是枝裕和『舞妓さんちのまかないさん』Netflix
『何曜日に生まれたの』はぶっ飛んでるけど最高…。『ラブシャッフル』以来の野島伸司だったけど、脚本がうますぎるしずっと展開があってハラハラしっぱなしだった。10年経っても進化してない部分もあったけど、それでも野島伸司のドラマは総合点で圧倒してくれる。
◼︎よかったZINEや自主制作マンガ(23年は文フリや個人書店さんでたくさんいいZINEに出会いました)
- カウ・リバー『そういう人』
- 夕暮宇宙船『ひとり暮らし』
- Chew Magazine『chew2』
- Sakumag Collective『We Act! #3 男性特権について話そう』
- 麦島汐美編『アケルマン・ストーリーズ』
- 岡澤浩太郎編『mahora 第5号』
- タバブックス『怒りZINE』
- まつもと・はら『街の声』
- 岡本真帆・丸山るい『奇遇』
- 葉山莉子『ノージョブ・ユートピア』
- 碇雪恵『日記と呼ぶには』
- もりみ『あの子の日記-夜-』
年末は日プにもはまった。それではまた1年。