縞馬は青い

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映画とかドラマとか、好きなもの

2020年のベストムービー20選

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今年観た映画。そう振り返ってみても、いまいちピンとこないのが正直なところだ。やっぱりどうしたって「これは2020年の作品たちだな」というまとまりがないというか。まだコロナがくる前、1月と2月、3月の前半くらいにとんでもなく傑作映画が集まっていたのを記憶してるけど、それが2020年という感覚すらももはやあまりないかもしれない。

コロナをまたいで制作されて、2020年中に公開された映画なんてものはほとんど存在しないだろう(知ってる限り大九明子監督の『私をくいとめて』くらい?)。だから少なくともコロナが映画の「内部」に与えた影響というのはほぼ無いに等しいのだけど、それでもやっぱり、映画の外部にあたる我々が、我々の住む世界が様変わりしてしまったからには、映画の側も変わらざるを得ないのであった。他の芸術・文化と同じく不要不急からつまはじきにされてしまった映画というカルチャー。ミニシアターはこの一年、ずっと生死の境をさまよっていたことだろうと思う。アップリンクやユジク阿佐ヶ谷ではパワハラ問題も取り沙汰され、まだもやもやと未解決なままだ。

今年もいつもと同じように20作品をベスト映画として選んだ。配信作品は9位のやつだけだから、数年後に振り返ってみてもコロナの影を感じづらい作品群であるだろうと思う。単純に好きな映画を並べたのに加えて何か共通のテーマを見いだすのならば、(これも例年とあまり変わらずだけど)「女性性」や「男性性」、「ジェンダー」や「年齢(子どもと大人)」といったテーマに心を惹かれた。それに加えて、「物語」や「スケール」などの大枠よりも、「感情の機微」といったものがどれだけ繊細に描かれているか、そこのところをより注目するようになった1年だったと思う。

 

  1. キム・ボラ『はちどり』
  2. 大森立嗣『星の子』
  3. 大九明子『甘いお酒でうがい』
  4. グザヴィエ・ドラン『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
  5. 住田崇『架空OL日記』
  6. ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』
  7. グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
  8. 大九明子『私をくいとめて』
  9. ピート・ドクター『ソウルフル・ワールド』
  10. ラ・ジリ『レ・ミゼラブル
  11. 岩井俊二『ラストレター』
  12. 山中瑶子『魚座どうし』
  13. 内藤瑛亮『許された子どもたち』
  14. セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
  15. 佐藤快磨『泣く子はいねぇが』
  16. 河瀨直美『朝が来る』
  17. 玉田真也『僕の好きな女の子』
  18. いまおかしんじ『れいこいるか』
  19. 坂本欣弘『もみの家』
  20. 渡辺紘文『わたしは元気』

新作鑑賞本数:84

 

20.渡辺紘文『わたしは元気』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180422j:image

インディー日本映画界では言わずと知れた、渡辺紘文監督の最新作。「大田原愚豚舎」というだいたい家族だけでスタッフをまわしている映画制作集団の、1年に1本ペースで制作される映画の新作。渡辺監督といえば、今泉力哉監督がかねてより「ライバル」と言っている存在だ(東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で何度も争い、負けているのだとか)。

いままではちょっとひねたような、暗く、滑稽で、常に主人公の男性(だいたい監督本人)が怒っていて、でもそれが可笑しくて、という作風だったのが一変。小学生の女の子を主人公に据え、『友だちのうちはどこ?』のパロディのような、しかしそれよりも圧倒的に爽やかで明るい作品を生み出してしまった。なんでも、これまでの作品にずっと出演していた(渡辺監督の)おばあちゃんが昨年102歳で亡くなり、再スタートとして新たなミューズを獲得したから作風がちょっと変わったのだそう。これからがとても楽しみな大田原愚豚舎の意欲作。

19.坂本欣弘『もみの家』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180455j:image

坂本監督の前作『真白の恋』もとても好きだった。同じく富山を舞台に、心を閉ざした少女が大自然と自立支援施設の人々と触れ合うなかで感情を開いていく様子が描かれていく。高校の教室や家の自室といった「閉ざされた空間」から富山の大きな空間へと解放され、その暮らしのなかで生命と季節のめぐりに敏感になっていく南沙良。循環のダイナミズムがしみじみと涙を誘う、力強い作品だったと思う。

18.いまおかしんじ『れいこいるか』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180552j:image

1995年の阪神淡路大震災で一人娘を亡くした母と父の、その後の20年強を描いた映画。超力作。こんな映画いままで観たことがなかった。いくらでもお涙頂戴にできるような題材を、物語性やフィクション性、ドラマチックさをゼロまで削ぎ落とし、それでいて、そこにいる人物を確かな眼差しで捉えているからめちゃくちゃ真に迫ってくる。なんとなく震災からの距離を遠く感じていた1995年兵庫県生まれの自分にとって、これだけ感情移入できる作品はおそらくないだろう。

17.玉田真也『僕の好きな女の子』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180622j:image

玉田企画『今が、オールタイムベスト』、脚本参加のNHKよるドラ『伝説のお母さん』も素晴らしかったけど、『あの日々の話』に続き玉田真也監督の長編2本目となる本作もとてもよかった。吉祥寺が舞台のほとんどを占めるので(原作の)又吉直樹風味もかなり漂っていて。とにかく奈緒さんがめちゃくちゃ素晴らしい。いままでの作品で見せてこなかった表情をしていて、一発で虜になってしまいました。なんでもない会話もうまくて、冒頭から引き込まれてしまう。

qjweb.jp

16.河瀨直美『朝が来る』

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辻村深月原作。ポスターや予告編を見る限りでは「愛か血縁か」的な、『そして父になる』『八日目の蝉』に近しい作品なのかと思っていたところ、全然違うくて驚いた案件だった。河瀨直美監督らしさと絶妙に合致しているといいますか、ふたりの女性の人生をある程度長い時間をかけて丁寧に捉えているパワフルな映画だった。役者の顔の表情に大きな信頼を置く河瀨監督と、それに応える蒔田彩珠らの執念が最後にみごと結実する。

15.佐藤快磨『泣く子はいねぇが』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180839j:image

男性性の脆弱さをとことん映像的な表現でむき出しにしまくった傑作。今年おおいに躍進した仲野太賀の、これがベストアクトであると断言したい。吉岡里帆の表情も感慨深い。

qjweb.jp

14.セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181150j:image

全ショットが美しく、脚本も精緻に組み立てられていて、ずっと気持ちのいい映画。なかなか言葉であらわせないので、ここは自分のレビューでなく高島鈴さんの素晴らしい映画評を載せておく。

www.cinra.net

13.内藤瑛亮『許された子どもたち』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181406j:image

鑑賞後すぐに書いたfilmarksのレビューを見返すと、かなり興奮していたのが伝わってくる。「いじめ」に関する監督の膨大な研究量(エンドロールで膨大な量の参考文献が出てくるのだ)と、その思考の先を映画で追究しようとする圧倒的な熱量に心をぶち抜かれてしまったのだ。日常生活であれば目をそらしてしまうかもしれない、映画館でしか観ることができない悪夢。

12.山中瑶子『魚座どうし』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180951j:image

『許された子どもたち』もそうだったけど、今年は本当に良質な「子どもの映画」が多かった。それはつまるところ、社会の暗部が子どもを描くことを強く要請しているということで、それ自体はとても絶望的なことではある。生成された毒物は下の方に、弱者の方に沈殿していくことを、シャブロル並みのサスペンスフルなタッチで描いてみせた。もしも山中瑶子監督が長編映画をコンスタントに撮ることができないのであればこの世界はクソすぎるし、僕はめちゃくちゃ絶望するだろう。

11.岩井俊二『ラストレター』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180906j:image

岩井俊二の映画の中で生きる森七菜が奇跡すぎた。彼女が歌う主題歌「カエルノウタ」もめちゃくちゃ聴いた。『リップヴァンウィンクルの花嫁』と同じく、「嘘と本当」というのがテーマになるだろうと思う。本当の正体を探るために岩井俊二はいつだって書くし、撮るのだろうと思わせられた。

10.ラ・ジリ『レ・ミゼラブルf:id:bsk00kw20-kohei:20201226181448j:image

これも子どもの映画 in フランス。紛れも無い社会派映画であり、しかし絶妙にエンタメ性もあって面白かった。神の視点のようなドローンが“上下”の感覚を呼び起こし、階段での攻防戦を誘引するまで、『パラサイト』などの現代映画のトレンドをここでも感じずにはいられない。

9.ピート・ドクター『ソウルフル・ワールド』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181309j:image

おったまげ精神論映画。夢を持つこと、人生に目的を持つことへのアンチテーゼを唱える、新しい価値観を伝えてくるピクサー最新作。鑑賞直後は今年ベストかもしれないと思うくらい衝撃を受けたけど、やっぱりこういう「大きな思考」が生き方を劇的に変えるのは難しく、それよりも、小さなコミュニケーションの話とかに興味を惹かれるよな、なんて思ったりもした。

8.大九明子『私をくいとめて』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181523j:image

男性でいてのんちゃん演じるみつ子に真に共感してしまうのは僕だけなのだろうか?身に覚えがある感情ばかりが描かれていて、『勝手にふるえてろ』よりもキューっと胸が締め付けられる瞬間が多かった。きっとこれからみつ子は大きな壁にぶつかっていくのだろうと思わせながらもスッキリと終わる、ラストがいい。

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7.グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181609j:image

ハリーポッター並みの美しくおとぎ話感のある大きな世界観で、主人公を中心に女性の感情の機微が細かに描かれていてはちゃめちゃに面白かった。もう元には戻らない時間と、その愛おしい過去を自らの言葉で語り直し、強く抱きしめていくジョー。「書く行為」に託された信念ーーある一方向に規定されない自由な人生の選択ーーのたくましさに、それを一応生業にしている僕としては心を鷲掴みにされてしまった部分もある。

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6.ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181700j:image

楽しい映画だと思う。鑑賞中は興奮が止まらないし、鑑賞後も思考が止まらない。ポン・ジュノの美的センスには一生ついていきたい。

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5.住田崇『架空OL日記』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181849j:image

まったく映画的な映画ではないけどそんなこと抜きにして最強のエンタメ作品だと思う。変わらない日常の繰り返しと、そのことの幸せと。言うなればこれが本当の『ソウルフル・ワールド』なのかもしれません。

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4.グザヴィエ・ドラン『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181915j:image

偏愛映画①。この映画について語り出すとすぐにエモい文章を書いてしまうし、それをするにはもう語彙力が尽きているので、とにかく「自分の映画だった」とだけ記しておきたい。

3.大九明子『甘いお酒でうがい』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181735j:image

偏愛映画②。まさか大九監督の映画が2本もベスト10に並ぶとは。もちろん『勝手にふるえてろ』も好きだったのだけど、本作を観て最重要監督になった。卒業制作の『意外と死なない』(サンクスシアターで見れる)もいいのだよなぁ。『甘いお酒でうがい』はなんとなく『デザイナー渋井直人の休日』と並べて人生のバイブルにしておきたい。これで30代と40代も幸せに暮らせそう。

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2.大森立嗣『星の子』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181817j:image

偏愛映画③。テーマ的にあまりにも刺さる部分が多い映画でした。まず、時系列を巧みに交差させる前半のスムーズな話運びがとてもよくできていたと思う。それでいて後半はピンポイントにテーマをぶつけてきていて。あとから読んだ原作がそもそもそうだったのだけど、後半にいくにつれ主人公の感情が読めなくなっていく構成になっているのがグッと引き込まれる要因なのだろう。芦田愛菜ちゃんが圧巻。

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1.キム・ボラ『はちどり』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226182003p:image

今年のベストは『はちどり』です。すばらしかった。

韓国、キム・ボラ監督の長編処女作。心の揺れ動きに触れる繊細さと時代を的確に映し出す大胆さがすでに共存してしまっていて、彼女が影響を受けたという『ヤンヤン 夏の想い出』『誰も知らない』なんかはもうとっくに飛び越えてしまっているんじゃないかとすら思った。

 

来年もすでに坂元裕二脚本『花束みたいな恋をした』、今泉監督の『あの頃。』と『街の上で』、クロエ・ジャオ『ノマドランド』、沖田修一監督×田島列島原作の『子供はわかってあげない』、小森はるか監督の『二重のまち/交代地のうたを編む』、昨年の東京国際映画祭で観たグランプリ作品『わたしの叔父さん』などなど傑作が確定されている映画がたくさんあるので、とにかく生きて、たくさん映画を観て、感想を書ければなと思う。個人的な映画関連の目標でいうと、2021年は『キネマ旬報』あたりの映画雑誌に寄稿してみたい。以上。