縞馬は青い

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映画とか、好きなもの

2020年のポップカルチャーベスト50《「先週食べたカルチャー」年末編》

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bsk00kw20-kohei.hatenablog.com

2020年のベスト映画については別エントリーで書いたので、ここではポップカルチャー全般について振り返ります。 

2019年の4月くらいから「ポップカルチャーをむさぼり食らう」というブログを月一で書いていたのだけど、ちょっとひと月のことを一気に振り返るのは時間がかかりすぎるなと思い、週一で更新することにしたのが2020年の6月ごろ。その頃はたぶんめちゃくちゃ暇だったしいろんなものを摂取する時間があったのだと思うのだけど、下半期はどんどん生活が元に戻るにつれあんまり更新ができなくなっていった。そこは残念なところ。来年もたぶん変わらないと思うけど…、面白かったものは瞬間的に記録していきたいところです。

前置き長くしたくないので、すぐに本題。

powerpop.hatenablog.com

昨年、ポップカルチャー全体でベストを選出するこんな記事が上がっていて、僕もやりたいと思った次第。毎月、毎週、更新できなかった期間もあったけど振り返ってきたので、その統括的な記事にできればいいなと。一つひとつコメントしていくと長くてうっとおしいと思うので、コメントしたいやつだけ注釈に記載することにします。

そもそものポップカルチャーの定義はほとんどなく、映画、ドラマ、演劇、小説、マンガ、お笑い、音楽、アイドル、俳優、YouTube、webサイト、テレビバラエティなど超雑多なランキングになってます。ラジオだけほぼ聴いてないのでほぼゼロになっちゃいました。

それではさっそく50位から!

 

50.仲野太賀

静かな雨

静かな雨

  • 発売日: 2020/07/22
  • メディア: Prime Video
 

www.youtube.com

*1

49.「高円寺チャンネル」(YouTube


【音鶏家】マヂカルラブリー村上が足繁く通う店

*2

48.ALTSLUM(テキストサイト

altslum.com

*3

47.『売野機子短編劇場』(マンガ)

売野機子短篇劇場 (ビームコミックス)

売野機子短篇劇場 (ビームコミックス)

  • 作者:売野 機子
  • 発売日: 2020/09/12
  • メディア: コミック
 

*4

46.NHK岸辺露伴は動かない』(ドラマ)

www.nhk.jp


人気コミック「岸辺露伴は動かない」スペシャル企画

 

45.Netflix呪怨:呪いの家』(ドラマ)

www.youtube.com

 

44.田島列島『水は海に向かって流れる』(マンガ)

 

43.長久允『(死なない)憂国』(演劇)

natalie.mu

*5

 

42.ロロ『四角い2つのさみしい窓』(演劇)

natalie.mu

 

41.NHK『リモートドラマ Living』(ドラマ)

www.nhk.jp

 

40.月刊「根本宗子」第18号「もっとも大いなる愛へ」(演劇)

natalie.mu

 

39.テレビ東京『あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜』(テレビ番組)

www.tv-tokyo.co.jp

 

38.TBSテレビ『MIU404』(ドラマ)

MIU404 ディレクターズカット版 Blu-ray BOX
 

 

37.ナカゴー『ひゅうちゃんほうろう-堀船の怪談-』(演劇)

natalie.mu

 

36.山本美希『かしこくて勇気ある子ども』(マンガ)

to-ti.in

 

35.NHK『心の傷を癒すということ』(ドラマ)

www.nhk.or.jp

 

34.WOWOW有村架純の撮休』(ドラマ)

filmarks.com

今泉力哉『有村架純の撮休』第6話:好きだから不安 - 縞馬は青い

 

33.グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(映画)


『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』6月12日(金)全国順次ロードショー

外を覗くこと、扉を開くこと、書くこと……『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』雑感 - 縞馬は青い

 

32.東海オンエア


【ジョークですよ】1番スマートにてつやを「暗殺」できた奴の勝ち!

*6

 

31.Juice=Juice


Juice=Juice『ポップミュージック』(Juice=Juice [Pop Music])(Promotion Edit)


【ハロ!ステ#356】Juice=Juice コンサート2020 ~続いていくSTORY~ 宮本佳林卒業スペシャル!ハロー!キッチン MC:野中美希&浅倉樹々

 

30.「しもふりチューブ」(YouTube


粗品安田記念52万賭け!!せいやがレース完全再現【霜降り明星】

 

29.Netflix『クイーンズ・ギャンビット』(ドラマ)

www.youtube.com

 

28.セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』(映画)


【公式】映画『燃ゆる女の肖像』本予告 12/4公開

 

27.『キングオブコント2020』


『キングオブコント決勝でやったネタ「野次ワクチン」をする奴』ジャルジャルのネタのタネ【JARUJARUTOWER】

*7

 

26.NHK『不要不急の銀河』(ドラマ)

www.nhk.jp

*8

 

25.さとうもか『GLINTS』(音楽)


さとうもか - Glints sato moka Music Video

*9

 

24.テレビ朝日『テレビ千鳥』(テレビ番組)

www.tv-asahi.co.jp

*10

 

23.「THE FIRST TAKE」(YouTube


YUI - TOKYO , CHE.R.RY / THE FIRST TAKE FES vol.2 supported by BRAVIA

*11

 

22.私立恵比寿中学


私立恵比寿中学 『23回目のサマーナイト』MV

*12

 

21.ラ・ジリ『レ・ミゼラブル』(映画)


映画『レ・ミゼラブル』予告編

 

20.ピート・ドクター『ソウルフル・ワールド』(映画)


ディズニー&ピクサー新作『ソウルフル・ワールド』本予告編

 

19.大九明子『私をくいとめて』(映画)


映画『私をくいとめて』本予告 〈12月18日全国ロードショー〉

 

18.『Nizi Project』


[Nizi Project] Part 2 #1-1

*13

 

17.フワちゃん

qjweb.jp

*14

 

16.和山やま『女の園の星』(マンガ)

*15

 

15.藤井風『HELP EVER HURT NEVER』(音楽)


藤井 風(Fujii Kaze) - "もうええわ"(Mo-Eh-Wa) Official Video

 

14.玉田企画『今が、オールタイムベスト』(演劇)

www.geigeki.jp

*16

 

13.『M-1グランプリ2020』


マヂカルラブリー【決勝ネタ】最終決戦〈ネタ順2〉M-1グランプリ2020

*17

 

12.森七菜


森七菜 スマイル Music Video

*18

 

11.ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』(映画)


第72回カンヌ国際映画祭で最高賞!『パラサイト 半地下の家族』予告編

 

10.遠野遥『破局』(小説)

破局

破局

 

*19 

 

9.近藤聡乃『A子さんの恋人』(マンガ)

A子さんの恋人 7巻 (HARTA COMIX)

A子さんの恋人 7巻 (HARTA COMIX)

 

 *20

 

8.小森はるか+瀬尾夏美『二重のまち/交代地のうたを編む』(映画)

www.yebizo.com

*21

 

7.大九明子『甘いお酒でうがい』(映画)


松雪泰子に清水尋也がそっとキス 平凡な40代女性の日常を描く映画「甘いお酒でうがい」予告 ナレーションは「3時のヒロイン」

*22 

 

6.住田崇『架空OL日記』(映画)


映画『架空OL日記』予告編(第二弾)

*23

 

5.大森立嗣『星の子』(映画)


『星の子』本編映像

*24 

 

4.ニューヨーク


漂流芸人2020〜僕の相方が失踪して‥。ぱろぱろ解散の真相〜

*25

 

3.宇佐見りん『推し、燃ゆ』(小説)

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

*26 

 

2.ABEMA『17.3 about a sex』(ドラマ)

abema.tv

*27

 

1.キム・ボラ『はちどり』(映画)


世界各国で50冠以上!韓国映画『はちどり』予告編

*28

 

人間は忘却することが得意な生き物だから、6月ごろに地の底まで落ちていた自分のカルチャーへの愛もすっかり再燃していることに今気づいてびっくりしたりしている。世界が大変であればあるこそ、面白いコンテンツが生み出されるのはこの世の摂理。だからその循環の中に身をまかせながら、カルチャーから受け取ったメッセージをしっかりパワーにして人生に立ち向かっていきたい。

2021年もよろしくお願いします!!

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*1:50位、仲野太賀。びっくりするくらい太賀さんを観た一年だった。ほんとびっくりした。映画では『静かな雨』『生きちゃった』『泣く子はいねぇが』、ドラマでは『この恋あたためますか』『あのコの夢を見たんです。』など、すべてを挙げるのも困難なほど活躍していた。彼の存在感はやはり主演に向いている。『ゆとりですがなにか』の山岸が好きなので、これからもクズ男と優男の間を行き来してほしいところ。ずっと大好きな俳優。

*2:49位、「高円寺チャンネル」。“エンジ”在住のお笑い好きかつ、マヂラブ村上さんを通算5回くらい、刺身さんと鬼越酒井さんを1回ずつ街で見かけているので、見ないわけにはいかないYouTubeチャンネル。全動画見ている。

*3:48位、ALTSLUM。フリーライターの高島鈴さんの文章が好きで追っていたらワニウエイブさんとという方と素晴らしいWebサイトを立ち上げていた。CHAT! CHAT! CHAT!では、(毎度結論を出す必要はないと思うのだけど、)コミュニケーションによる思考の回路が可視化されていて楽しい。

*4:47位、『売野機子短編劇場』。下記サイトのインタビューを読んでから売野機子さんのマンガに興味を持ち、『ルポルタージュ』を読んでみた。好きすぎた。まじで好きすぎた。恋愛は哲学だーー。そして今年発売された短編集もとてもよかったです。「ロボット・シティ・オーフェンズ」「神さまの恋」あたりが好き。https://www.cinra.net/interview/202012-urinokiko_kngsh

*5:43位、『(死なない)憂国』。三島由紀夫の『憂国』は未読。東出昌大の本気を観た。

*6:32位、東海オンエア。正直ここ1年くらいずっと観るのを忘れていて、12月に入って久しぶりに観たら変わらずに面白くてびっくりしたのでした。動画一覧の再生回数を眺めてみると、ほぼ毎日投稿にも関わらずアベレージで200万再生というバケモノぶり。芸能人が多数参入して視聴者を取られるYouTuberも多いなか、東海オンエアだけは(本当に東海オンエアだけ)その特別な位置を確立している。2020年こそ評価すべきであろうと思いここにランクイン。

*7:27位、『キングオブコント2020』。個人的にはニッポンの社長と出会えたのがめちゃくちゃうれしかった。彼女が大好きなのでいずれ出会えていたと思うけど。彼らのネタについてはいつかブログに書きたい。

*8:26位、『不要不急の銀河』。コロナ禍の傑作ドラマ。コロナによって多大な影響を受けたエンタメ業界と夜の街関連の業界の苦悩と再生を前半でドキュメンタリーとして描き、後半は又吉直樹脚本によるスナックを舞台にした家族と青春にまつわるドラマが展開されていく。前半で実在のスナックのママが発する言葉の一つひとつが、後半のドラマを観るなかで心に染み込んでいく感覚があって構成として素晴らしいし、あられもなく光り輝く飲み屋やカルチャーの存在の愛おしさに涙してしまう。

*9:25位、『GLINTS』。ことしの夏はさとうもかの音楽とともにあった。

*10:24位、『テレビ千鳥』。人生ゲームで遊びたいんじゃ‼︎とかもう一度観たい。ゴールデンに進出してもまったく変わらない雰囲気が狂ってて最高。

*11:23位、「THE FIRST TAKE」。バケモノ番組の誕生。このYUIの復活に興奮し散らかした。これも大好きで何回も見てる→Creepy Nuts - 生業 / THE FIRST TAKE - YouTube

*12:22位、私立恵比寿中学。今年は本当にエビ中に助けられた。コロナ外出自粛中に出会い、一瞬ではまり倒してしまったアイドル。彼女たちはコロナ禍でも精力的に活動してくれていて、生きる支えになりました。昨年のファミえんのDVDも買ったし、オンラインライブもめっちゃ見てる。彼女たちの歌声はデトックス効果が抜群で、確実にコロナに効く。

*13:18位、『Nizi Project』。先日のMステでミイヒを含めたメンバー全員でのNiziUのパフォーマンスを観たとき、(観たかったのはこれだよ!)と唸った。足りなかったピースがやっとハマり、ついに動き出したNiziUの今後が楽しみ。

*14:17位、フワちゃん。クイックジャパンウェブで半年間くらい彼女の連載の構成を担当させてもらえたのは、とてもありがたく楽しかったです。フワちゃんはいつも、「小さな幸せこそを大事にしていきたいし、それを自分でも作り出すために頑張っている」というようなことを言っている。それって僕が好きな坂元裕二脚本のドラマとかにも通じるような、人生の生きる指針になっていることだし、それを極限にポップなタレント性で証明し続けているフワちゃんの姿は素晴らしいとしか言いようがない。毎回楽しい仕事だったな。

*15:16位、『女の園の星』。ともかくギャグセンが高くて、ケタケタ笑いながら登場人物たちの生態に興味を引かれながら一気に読んだ。

*16:14位、『今が、オールタイムベスト』。役者の個性がぶっ飛んでいた。玉田さんは映画の『僕の好きな女の子』もよかったけど、本作にも奈緒さんが出演していていい味出してたな。俳優たちが繰り出すアグレッシブな言葉とめまぐるしく変わる表情に何度も不意を突かれながら、どこまでいっても悪目立ちする“個”が、ときおり連鎖的なつながりを見せる瞬間にハッとしたりする。テニスコートの神谷さんに惚れたので、コントを観に行かなければ。

*17:13位、『M-1グランプリ2020』。真空ジェシカ、キュウのネタをしっかり観れたのがことしの大きな収穫だった。来年はたくさんライブで彼らを観たい。優勝は文句なしでマヂカルラブリー。かっこよかった。アナザーストーリーの野田さんには泣けるよな。

*18:12位、森七菜。2018年の野木亜紀子脚本ドラマ『獣になれない私たち』で、田中圭のお母さん役の学生時代を演じている彼女を観たとき、こりゃすげえわと思って確実に売れると期待していた森七菜が、そのときの素朴さ、突出した原石感を残したままここまで登りつめた。唯一無二の清爽な声をしていて歌声にも聴き惚れる。

*19:10位、『破局』。刺激的な読書体験。主人公の思考が鮮明に描かれすぎていて吐き気がするくらい気持ち悪かったけど、ところどころ共感の余地もあるし、同世代を捉えた作品としてこれほど解像度の高いものはないなと思いながら夢中になって読んだ一作。セリフの長さに頭がグワングワンする。

*20:9位、『A子さんの恋人』。10月についに完結したA子さん。一緒に生きていく方法をふたりで考えましょう、と手紙を送るA君とそれを手渡すA太郎の決心に泣いた。また最初から読み返したい。

*21:8位、『二重のまち/交代地のうたを編む』。2月に都写美の恵比寿映像祭で観たドキュメンタリー映画東日本大震災の当事者でない人々が、被災者との対話を繰り返しながらその体験を「語り直す」までを追った作品。わたしたちは言葉にするときいつも何かを取りこぼしてしまうけれど、それでも語り直そうとするその意思こそが空白のなかを生きる唯一の手段なのではないかと考えさせられる。

*22:7位、『甘いお酒でうがい』。黒木華演じる主人公の同僚みたいな人がずっと幸せに生きていてさえくれればいいし、僕はそのために精魂を尽くしたいと思ったりした映画。

*23:6位、架空OL日記。「月曜日の憂鬱マイレージが貯まったらタヒチボラボラ島に旅行へ行こう」という言葉こそがこの世の真実だと思う。

*24:5位、『星の子』。「それひと口ちょうだい」と言って水を飲み、「まずっ」と続けたなべちゃんの歩み寄り方こそがコミュニケーションにとって必要なことだ。

*25:4位、ニューヨーク。コロナ外出自粛中にどれだけ彼らの動画を見たんだろう。ほぼ毎日Zoomで配信をやってる印象が残っていて、とても救いになっていた。聞き役のうまさが傑出した最高の動画を貼っつけときました。

*26:3位、『推し、燃ゆ』。表現のなめらかさに骨抜きにされた。

*27:2位、『17.3 about a sex』。エンタメとユーモアで性の複雑さを包み込んだドラマ。見たほうがいいかもな、と1ミリでも思う人は何を置いても見たほうがいい。

*28:1位、『はちどり』。映画ベストと同じく今年ベストカルチャーはこちら。主人公・ウニの地団駄ダンスや母親を呼び止めて無視される場面などが頭から離れない。

2020年のベストムービー20選

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今年観た映画。そう振り返ってみても、いまいちピンとこないのが正直なところだ。やっぱりどうしたって「これは2020年の作品たちだな」というまとまりがないというか。まだコロナがくる前、1月と2月、3月の前半くらいにとんでもなく傑作映画が集まっていたのを記憶してるけど、それが2020年という感覚すらももはやあまりないかもしれない。

コロナをまたいで制作されて、2020年中に公開された映画なんてものはほとんど存在しないだろう(知ってる限り大九明子監督の『私をくいとめて』くらい?)。だから少なくともコロナが映画の「内部」に与えた影響というのはほぼ無いに等しいのだけど、それでもやっぱり、映画の外部にあたる我々が、我々の住む世界が様変わりしてしまったからには、映画の側も変わらざるを得ないのであった。他の芸術・文化と同じく不要不急からつまはじきにされてしまった映画というカルチャー。ミニシアターはこの一年、ずっと生死の境をさまよっていたことだろうと思う。アップリンクやユジク阿佐ヶ谷ではパワハラ問題も取り沙汰され、まだもやもやと未解決なままだ。

今年もいつもと同じように20作品をベスト映画として選んだ。配信作品は9位のやつだけだから、数年後に振り返ってみてもコロナの影を感じづらい作品群であるだろうと思う。単純に好きな映画を並べたのに加えて何か共通のテーマを見いだすのならば、(これも例年とあまり変わらずだけど)「女性性」や「男性性」、「ジェンダー」や「年齢(子どもと大人)」といったテーマに心を惹かれた。それに加えて、「物語」や「スケール」などの大枠よりも、「感情の機微」といったものがどれだけ繊細に描かれているか、そこのところをより注目するようになった1年だったと思う。

 

  1. キム・ボラ『はちどり』
  2. 大森立嗣『星の子』
  3. 大九明子『甘いお酒でうがい』
  4. グザヴィエ・ドラン『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
  5. 住田崇『架空OL日記』
  6. ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』
  7. グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
  8. 大九明子『私をくいとめて』
  9. ピート・ドクター『ソウルフル・ワールド』
  10. ラ・ジリ『レ・ミゼラブル
  11. 岩井俊二『ラストレター』
  12. 山中瑶子『魚座どうし』
  13. 内藤瑛亮『許された子どもたち』
  14. セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
  15. 佐藤快磨『泣く子はいねぇが』
  16. 河瀨直美『朝が来る』
  17. 玉田真也『僕の好きな女の子』
  18. いまおかしんじ『れいこいるか』
  19. 坂本欣弘『もみの家』
  20. 渡辺紘文『わたしは元気』

新作鑑賞本数:84

 

20.渡辺紘文『わたしは元気』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180422j:image

インディー日本映画界では言わずと知れた、渡辺紘文監督の最新作。「大田原愚豚舎」というだいたい家族だけでスタッフをまわしている映画制作集団の、1年に1本ペースで制作される映画の新作。渡辺監督といえば、今泉力哉監督がかねてより「ライバル」と言っている存在だ(東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で何度も争い、負けているのだとか)。

いままではちょっとひねたような、暗く、滑稽で、常に主人公の男性(だいたい監督本人)が怒っていて、でもそれが可笑しくて、という作風だったのが一変。小学生の女の子を主人公に据え、『友だちのうちはどこ?』のパロディのような、しかしそれよりも圧倒的に爽やかで明るい作品を生み出してしまった。なんでも、これまでの作品にずっと出演していた(渡辺監督の)おばあちゃんが昨年102歳で亡くなり、再スタートとして新たなミューズを獲得したから作風がちょっと変わったのだそう。これからがとても楽しみな大田原愚豚舎の意欲作。

19.坂本欣弘『もみの家』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180455j:image

坂本監督の前作『真白の恋』もとても好きだった。同じく富山を舞台に、心を閉ざした少女が大自然と自立支援施設の人々と触れ合うなかで感情を開いていく様子が描かれていく。高校の教室や家の自室といった「閉ざされた空間」から富山の大きな空間へと解放され、その暮らしのなかで生命と季節のめぐりに敏感になっていく南沙良。循環のダイナミズムがしみじみと涙を誘う、力強い作品だったと思う。

18.いまおかしんじ『れいこいるか』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180552j:image

1995年の阪神淡路大震災で一人娘を亡くした母と父の、その後の20年強を描いた映画。超力作。こんな映画いままで観たことがなかった。いくらでもお涙頂戴にできるような題材を、物語性やフィクション性、ドラマチックさをゼロまで削ぎ落とし、それでいて、そこにいる人物を確かな眼差しで捉えているからめちゃくちゃ真に迫ってくる。なんとなく震災からの距離を遠く感じていた1995年兵庫県生まれの自分にとって、これだけ感情移入できる作品はおそらくないだろう。

17.玉田真也『僕の好きな女の子』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180622j:image

玉田企画『今が、オールタイムベスト』、脚本参加のNHKよるドラ『伝説のお母さん』も素晴らしかったけど、『あの日々の話』に続き玉田真也監督の長編2本目となる本作もとてもよかった。吉祥寺が舞台のほとんどを占めるので(原作の)又吉直樹風味もかなり漂っていて。とにかく奈緒さんがめちゃくちゃ素晴らしい。いままでの作品で見せてこなかった表情をしていて、一発で虜になってしまいました。なんでもない会話もうまくて、冒頭から引き込まれてしまう。

qjweb.jp

16.河瀨直美『朝が来る』

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辻村深月原作。ポスターや予告編を見る限りでは「愛か血縁か」的な、『そして父になる』『八日目の蝉』に近しい作品なのかと思っていたところ、全然違うくて驚いた案件だった。河瀨直美監督らしさと絶妙に合致しているといいますか、ふたりの女性の人生をある程度長い時間をかけて丁寧に捉えているパワフルな映画だった。役者の顔の表情に大きな信頼を置く河瀨監督と、それに応える蒔田彩珠らの執念が最後にみごと結実する。

15.佐藤快磨『泣く子はいねぇが』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180839j:image

男性性の脆弱さをとことん映像的な表現でむき出しにしまくった傑作。今年おおいに躍進した仲野太賀の、これがベストアクトであると断言したい。吉岡里帆の表情も感慨深い。

qjweb.jp

14.セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181150j:image

全ショットが美しく、脚本も精緻に組み立てられていて、ずっと気持ちのいい映画。なかなか言葉であらわせないので、ここは自分のレビューでなく高島鈴さんの素晴らしい映画評を載せておく。

www.cinra.net

13.内藤瑛亮『許された子どもたち』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181406j:image

鑑賞後すぐに書いたfilmarksのレビューを見返すと、かなり興奮していたのが伝わってくる。「いじめ」に関する監督の膨大な研究量(エンドロールで膨大な量の参考文献が出てくるのだ)と、その思考の先を映画で追究しようとする圧倒的な熱量に心をぶち抜かれてしまったのだ。日常生活であれば目をそらしてしまうかもしれない、映画館でしか観ることができない悪夢。

12.山中瑶子『魚座どうし』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180951j:image

『許された子どもたち』もそうだったけど、今年は本当に良質な「子どもの映画」が多かった。それはつまるところ、社会の暗部が子どもを描くことを強く要請しているということで、それ自体はとても絶望的なことではある。生成された毒物は下の方に、弱者の方に沈殿していくことを、シャブロル並みのサスペンスフルなタッチで描いてみせた。もしも山中瑶子監督が長編映画をコンスタントに撮ることができないのであればこの世界はクソすぎるし、僕はめちゃくちゃ絶望するだろう。

11.岩井俊二『ラストレター』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226180906j:image

岩井俊二の映画の中で生きる森七菜が奇跡すぎた。彼女が歌う主題歌「カエルノウタ」もめちゃくちゃ聴いた。『リップヴァンウィンクルの花嫁』と同じく、「嘘と本当」というのがテーマになるだろうと思う。本当の正体を探るために岩井俊二はいつだって書くし、撮るのだろうと思わせられた。

10.ラ・ジリ『レ・ミゼラブルf:id:bsk00kw20-kohei:20201226181448j:image

これも子どもの映画 in フランス。紛れも無い社会派映画であり、しかし絶妙にエンタメ性もあって面白かった。神の視点のようなドローンが“上下”の感覚を呼び起こし、階段での攻防戦を誘引するまで、『パラサイト』などの現代映画のトレンドをここでも感じずにはいられない。

9.ピート・ドクター『ソウルフル・ワールド』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181309j:image

おったまげ精神論映画。夢を持つこと、人生に目的を持つことへのアンチテーゼを唱える、新しい価値観を伝えてくるピクサー最新作。鑑賞直後は今年ベストかもしれないと思うくらい衝撃を受けたけど、やっぱりこういう「大きな思考」が生き方を劇的に変えるのは難しく、それよりも、小さなコミュニケーションの話とかに興味を惹かれるよな、なんて思ったりもした。

8.大九明子『私をくいとめて』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181523j:image

男性でいてのんちゃん演じるみつ子に真に共感してしまうのは僕だけなのだろうか?身に覚えがある感情ばかりが描かれていて、『勝手にふるえてろ』よりもキューっと胸が締め付けられる瞬間が多かった。きっとこれからみつ子は大きな壁にぶつかっていくのだろうと思わせながらもスッキリと終わる、ラストがいい。

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7.グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181609j:image

ハリーポッター並みの美しくおとぎ話感のある大きな世界観で、主人公を中心に女性の感情の機微が細かに描かれていてはちゃめちゃに面白かった。もう元には戻らない時間と、その愛おしい過去を自らの言葉で語り直し、強く抱きしめていくジョー。「書く行為」に託された信念ーーある一方向に規定されない自由な人生の選択ーーのたくましさに、それを一応生業にしている僕としては心を鷲掴みにされてしまった部分もある。

bsk00kw20-kohei.hatenablog.com

6.ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181700j:image

楽しい映画だと思う。鑑賞中は興奮が止まらないし、鑑賞後も思考が止まらない。ポン・ジュノの美的センスには一生ついていきたい。

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5.住田崇『架空OL日記』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181849j:image

まったく映画的な映画ではないけどそんなこと抜きにして最強のエンタメ作品だと思う。変わらない日常の繰り返しと、そのことの幸せと。言うなればこれが本当の『ソウルフル・ワールド』なのかもしれません。

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4.グザヴィエ・ドラン『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181915j:image

偏愛映画①。この映画について語り出すとすぐにエモい文章を書いてしまうし、それをするにはもう語彙力が尽きているので、とにかく「自分の映画だった」とだけ記しておきたい。

3.大九明子『甘いお酒でうがい』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181735j:image

偏愛映画②。まさか大九監督の映画が2本もベスト10に並ぶとは。もちろん『勝手にふるえてろ』も好きだったのだけど、本作を観て最重要監督になった。卒業制作の『意外と死なない』(サンクスシアターで見れる)もいいのだよなぁ。『甘いお酒でうがい』はなんとなく『デザイナー渋井直人の休日』と並べて人生のバイブルにしておきたい。これで30代と40代も幸せに暮らせそう。

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2.大森立嗣『星の子』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226181817j:image

偏愛映画③。テーマ的にあまりにも刺さる部分が多い映画でした。まず、時系列を巧みに交差させる前半のスムーズな話運びがとてもよくできていたと思う。それでいて後半はピンポイントにテーマをぶつけてきていて。あとから読んだ原作がそもそもそうだったのだけど、後半にいくにつれ主人公の感情が読めなくなっていく構成になっているのがグッと引き込まれる要因なのだろう。芦田愛菜ちゃんが圧巻。

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1.キム・ボラ『はちどり』f:id:bsk00kw20-kohei:20201226182003p:image

今年のベストは『はちどり』です。すばらしかった。

韓国、キム・ボラ監督の長編処女作。心の揺れ動きに触れる繊細さと時代を的確に映し出す大胆さがすでに共存してしまっていて、彼女が影響を受けたという『ヤンヤン 夏の想い出』『誰も知らない』なんかはもうとっくに飛び越えてしまっているんじゃないかとすら思った。

 

来年もすでに坂元裕二脚本『花束みたいな恋をした』、今泉監督の『あの頃。』と『街の上で』、クロエ・ジャオ『ノマドランド』、沖田修一監督×田島列島原作の『子供はわかってあげない』、小森はるか監督の『二重のまち/交代地のうたを編む』、昨年の東京国際映画祭で観たグランプリ作品『わたしの叔父さん』などなど傑作が確定されている映画がたくさんあるので、とにかく生きて、たくさん映画を観て、感想を書ければなと思う。個人的な映画関連の目標でいうと、2021年は『キネマ旬報』あたりの映画雑誌に寄稿してみたい。以上。

先週食べたカルチャー(20年12月2週目)

先週摂取した映画、ライブ、ドラマ、演劇などの記録。

12月9日、CSテレ朝で生中継されていたアンジュルムの武道館公演をリアルタイムで観た。船木結さんの卒業コンサートアンジュルム コンサート2020 ~起承転結~ 船木結卒業スペシャル」)。「大好き」が魔法のように幾重にもこだまし、愛が積み重なっていくとても美しい時間だった。ふなっきがとにかくキューティーむすぶたんらしく仕上がりまくっていて、ヴィジュアルももちろんなのだけどとりわけ全くブレない歌唱とダンスに惚れ惚れする。とくにあの、メンバー一人ひとりと交わした16分ぶっ通しのメドレー。夏終わりに、あるアイドルの無観客ライブを観ていたとき「久しぶりのライブでさすがに息切れしてるな…辛そうだな…」と思ったことがあったから、この「完璧さ」が当たり前のものではないと理解しているつもりだ。当たり前のことなんてなにもない。ひとまず、半年の延期はあったものの卒コンを開催できてほんとによかったし、そこにベストコンディションを持ってきてくれたふなっきには感謝しかない。アンジュルムのライブを観ると「結局はLOVEでしょ(©︎46億年LOVE)」と最終的にそういう結論になってしまうけど、それでいいのだろう。りかこがふなっきに向かって最後に叫んだ「LOVE!」を僕はたぶん忘れない。

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の、次の日は宮本佳林さんの卒コン(「Juice=Juice コンサート2020 ~続いていくSTORY~宮本佳林卒業スペシャル」)。この日は武道館へ行けた。ちょうど1年くらい前に代々木体育館のライブを観にいっていて、彼女たちにとっても自分にとっても大きな会場での単独はそれ以来。ライブ行く前の1週間くらいめっちゃ心躍っていたなぁ。久しぶりにライブを観れるうれしさ、ようやく彼女たちが全力でパフォーマンスを発揮できるときがきたんだという安堵感。Juice=Juiceについてはずっと応援していたわけではなくそれこそ1年前に初めてライブを観にいったのだけど、デビュー時からその軌跡はときおり楽曲と映像で追っていた。人数の増減を経ながらも、大きな問題はなく順調に着実に「最強のグループ」になっていった印象を抱いている。高い水準での安定感と、それでもずっと見せ続ける伸びしろと成長に何度も驚かされた。井上れいれいが加入し最初で最後の9人体制となった武道館公演も、1曲目の「ひとそれ」から布陣が強すぎて、なんだか戦隊モノを見てるみたいに興奮してしまった。れいれいがすっかりJuice=Juiceの一員になっていることに驚きを通り越して納得し(ビートと共鳴するボイパの重低音…)、タコちゃんは終始目で追ってしまう異様な存在感とダイナミックさがあったし、松永さんの堂々たる歌唱がめちゃくちゃ頼もしかった。特に目が離せなかったのがこの歴の浅い3人だったから、そりゃあJuice=Juice強えよなと。中心メンバーが卒業するっていうのにこんなに会場が安心感と純粋な送り出す雰囲気に包まれるステージになっていたのは、彼女たちの脂が乗りまくってるからだと思う。

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この武道館公演で、Juice=Juiceの楽曲をちゃんと聴いてなかったことに改めて気づかされた。「この世界は捨てたもんじゃない」、あれ名曲すぎでしょ……。

為せば成る?

土砂降り、空振りだって ポジティブ全開

ほら、ピンチもチャンスも活(い)かせ Go!

太陽はみんなを照らす

雨雲散らした 風も味方だ

この世界は捨てたもんじゃない

スマホ失くしたし 彼に振られたし

メゲていたけど

バイト出かけたら イケメンお兄さんが

「君の?」って差し出したんだ

捨てる神に拾う神 一寸先は「光」かも

落ち込むヒマないさ 楽しめなきゃソンさ

私が創れるこの世でひとつの 物語、これから

為せば成れ!

赤裸々、あるままゆこう ひたむき全開

ほら、笑う角に君が Yes!

風向きはいつか変わる

世界は広いが 眺め尽くしたい

8番目の虹はどんな色?

「彼に振られたし」を「スマホ無くしたし」の前に持ってくるセンス、「ポジティブ全開」に負けない「ひたむき全開」というパワーワード、岡田脚本のドラマみたいな優しいストーリーテリング、クレイジーテンポなノリノリ最強リズム…。佳林ちゃんの歌い出しも素晴らしいよね〜、これから誰が歌うことになるのか楽しみ。「CHOICE&CHANCE」〜「ポップミュージック」〜「この世界は捨てたもんじゃない」の流れがとびきり明るくて心が溶けました。

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『おちょやん』、観てます。2週目が終わったところ。3週目からはいよいよ杉咲花が登場する。それにしても2週目までの10話を牽引した子役の演技が素晴らしかったなあ。千代の幼少期(毎田暖乃)と一平の幼少期(中須翔真)のふたりがとてもよかった。おちょやんは岡安に来て最初の挨拶で親への嘘の愛を語り、一平は仮病をつかって舞台に立つことを拒否する。この両者の「嘘の芝居」が、第10話で発露される本物の感情に説得力と厚みを増していて、ほげぇとなった。両親の不在、喜劇への信頼、役者への憧れ。今後重要なテーマとなってきそうな事柄の土壌がつくられた第2週。朝ドラって「血縁家族」への執着が強い印象を勝手に(めちゃくちゃ勝手に)抱いているのだけど、本作は「親に捨てられた」主人公が奉公先で新たな関係性を見出していく話で、やっぱりそのあたり期待してしまう。

劇団かもめんたるの第10回公演『HOT』をオンライン配信で観劇。前回公演がとてもよかったと言っている知り合いがいたから、第5回公演『市民プールにピラニアが出た!!』以来久しぶりに観たのだけど、このちょっと気持ち悪い笑いの構造、無駄なことを永遠と語り続けている感じに、あぁ…好きです、けど特別面白いとも言えないなぁ…っていうどっちつかずな感情を抱いた。もうちょっと笑いに振り切ってくれたり、下衆さを全面に出してくれるとわかりやすく楽しめるんだろうなとも思うけど、これが劇団かもめんたるなんだからしょうがない。今年上演された玉田企画の『今が、オールタイムベスト』にう大さんが客演として参加していたわけだけど、やっぱり彼の最大の毒味を味わえるのは劇団かもめんたるしかないんだよな。

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Netflix『クイーンズ・ギャンビット』すこーし時間がかかったけど見終えた。どんどんどんどんまるでアクション映画かスパイ映画を観ているような激しい劇伴が物語を覆っていくことに気づいてからは、このドラマが「アクション/リアクション」の反復によって成り立っていることに注意深くなった。チェスというのはまさしくその要素を最大限に司る媒体にほかならず。予定調和のない駒の運動には、リアクションが途絶える未来が運命づけられている。死を選んだ母親の真意、憂いに満ちていた義母、初めて愛した人に受けた痛み。このドラマにはいくつか宙ぶらりんにされる問題があって、そのリアクションなき現状への苦しみが主人公をどん底に突き落としていく。そんな彼女に対してもアクションを止めない多彩なキャラクターたちがいて。それに励まされながら、負けを恐れながらも最強の敵に立ち向かう勇姿。リアクション=アクションができないということがイコール負けになる世界で、それでも立ち向かっていく彼女の強さ。こういうアクション映画があってもいいよなって思った(映画ではないが)。初めて出会ったけどアニャ・テイラー=ジョイがとにかくめちゃくちゃ素晴らしい。

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12月11日より上映されているラトビアのアニメーション映画『Away』をちょっと前にオンライン試写で観ていた。これ、めちゃくちゃ面白い。というか好きすぎるタイプの映画。全編セリフなしなので、ファンタジー感満載の映像から自分の想像力だけを頼りに物語を発展させていく感じ。そういう構造もそうだしストーリーや映像自体がそうなのだけど、とてもゲーム性のある作品だと思う。気になる方はあんまり情報をいれずに観てみてほしい。終始いろんな意味で楽しい映画だからおすすめできる。

 

またちょこちょこカルチャー日記書きます。

大九明子×じろう『甘いお酒でうがい』- 履き潰した靴に敬意を込めて

数週間前からスニーカーの先っぽに穴が空いていることに気づいていた。しかも右足と左足の両方に。もっというと1年くらい前から空いていた気がするけど、黒い靴に空いた穴を黒い糸で塞いだりしてなんとかやりすごしていた。目立つようなあれじゃないので誰も気づいてないだろうなとは思いながら、毎朝自分だけはその穴を見ていた。日に日に穴が大きくなっているような気がして、さすがに気持ち悪くなってきた。靴下ならばすぐに捨てるのに、黒い靴下を履けば目立たないという理由で買い替えてなかったのはすごく不思議だ。靴屋で見つけたほぼ同じ形のスニーカーを手に取り、履いていた靴を廃棄してもらってその場で履き替える。履きはじめはちょっと違和感があったけど、1日歩けば慣れてしまう。ほぼ同じ靴を買ってしまったんだな、と振り返ってふと思った。

電車を乗り継いで東京の少し南のほうにあるキネカ大森へ向かう。よく覚えていないのだけど、東京へ上京してからはこの場所に訪れてなかった気がする。だとすればおよそ3年ぶりくらいだろうか。大学4年生の就職活動のとき、説明会や選考のために東京へやってきては、夜行バスまでの時間をここで過ごしていた。東京にはたくさん映画館があるのに、なぜかいつもキネカ大森だった。東京らしからぬ場末感が妙に記憶に焼きついている。

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『甘いお酒でうがい』を観た。9月ごろに公開されていたけど観られてなかった映画。東京国際映画祭で同じ大九明子監督の『私をくいとめて』を観て、観逃していたことに気づいたのだった。2番館的な役割であるキネカ大森はこういうときに頼りになる。実は、同じシソンヌじろうさんとのタッグ作である『美人が婚活してみたら』があんまりだったので、スルーしかけていた。あたりまえだけど、観てよかったという感情は実際に観てみないと得ることはできない。

細部の描き方がすばらしく繊細で、主人公が生きる世界を追体験するのが容易だった。足と手への並々ならぬ執着は大九作品ではもはや見慣れた景色だけど、その指先のころころ変わる表情が、自分の心の奥底にある琴線を揺さぶってくる。小気味よく、心地よく、主人公のことやそのまわりにいる人たちのこと、それを包む世界のすべてが好きになってくる。こんな映画なかなか出会えないだろうな、幸せだな、と思った。観てる最中も観たあとも、好きな人のことを大切にしたいという感情がずうっとめぐる。

僕にとって40代とは未知の領域だった。どんどんボロボロに剥がれ落ちていくんじゃなかろうかという怖さがあった。でも『甘いお酒でうがい』と、同じく大好きなおじさんドラマ『デザイナー 渋井直人の休日』というバイブルがあれば、きっと安心して生きられると思う。

今日、電車に乗っている途中でイヤホンの右耳が聴こえなくなった。映画を待つ間ドトール綿矢りささんの『私をくいとめて』を読んでいたら、しおりがないことに気づいた。不便だけど、たぶんしばらくの間はこのままでいる気がする。

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*1:若林ちゃんみたいな人が幸せでいてくれればそれでいいと思う。黒木華がほんと〜に最高。

痛みと連帯の同時接続/大九明子『私をくいとめて』

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昨日観て抱いた最大限の興奮を忘れないようにここに書いているだけなので、本作が気になっている人はこの後ろは読まずに公開を楽しみにしていただきたい。『勝手にふるえてろ』に続く綿矢りさ原作×大九明子監督の再タッグ作である本作は、刺さる人には刺さりすぎてしまう大九節炸裂のパワーみなぎる大共感映画です。コロナ禍をまたいでつくられた『私をくいとめて』には、こんな心細い世界でもそれでも生きる価値はあると強く抱きしめてくれる包容力がある。キャラクターがまるっと全員いとおしいので、スクリーン上を動き回る彼女たちの多様な生き方をとくとご覧あれ。

経験上、たぶん2度観たあとのほうがいい感想が書けそうなんだけど、1年に2度くらいしか訪れない「ちょっとなんか書いとかないといけないんじゃないっすか!!」な変なテンションが暴発してしまう映画だったので、本作への愛をつらつらと書き連ねてみる。上映前の舞台挨拶に登壇していた橋本愛さんが、コメントの最後にこんなことを言っていた。それは「みつ子はある幸せを見つけるんですけど、それはみつ子にとってのひとつの幸せの形なだけであって、その幸せがこの世のすべての女性にとっての幸せだって謳っている映画ではなく…」的な発言だった。要するに、みつ子のような選択がある一方でまた違った選択もありえること、そのどれもが等しく肯定されるべきものだというエクキューズを彼女はしておきたかったのだろうと思う。これが本当に重要な意味をなす言葉だったと観賞後かなり身にしみた。本作の大枠のテーマのひとつとしてこの「選択」が横たわっており、みつ子は自分の意志にしたがって小さいようで大きな一歩を踏み出す。繰り返すけれど、しかしそのあるひとつの選択が普遍的な正解というわけではない。大事なのは「自分の意志にしたがって」というほう。『私をくいとめて』の面白さは、その自分の意志を主人公が何度も見失ったり見つけたりする少し哀れで不安定な様を、映像的にとことん描写しているところにある。音楽でしか聴いたことがない表現だけど、本作は明らかに何度か「転調」してキーを上げたり下げたりしてみせる。映像、ストーリー、みつ子の表情、そのすべてに変化を超えた変化のようなものが訪れるのだ。思えば大九監督は『勝手にふるえてろ』でも、突然のミュージカル演出の挿入などによって主人公の心情をジェットコースター的に描いていた。人の心というのは突然天まで高揚したり、地獄まで落ち込んだりする。“おひとりさま”に慣れきったみつ子が人と深くつながりそうになるとき、大滝詠一を聴きながら洗濯機を回していた平穏な日常が、寄せては返す波のように激しく揺れ動きはじめる。その無抵抗に行き来する心情の反復行動が、揺れ動き続けるカメラ、明暗を決定づける照明、そしてみつ子を体現するのんさんの一挙手一投足によって「転調」という形で丁寧かつ大胆に綴られていく。孤独な主人公が「相談役“A”」という仮想の人物を脳内につくり上げてしまうという設定の時点から決まっていることだけど、本作はモノローグならざる心情の吐露が極めて多く、だいたいのことをわかりやすい映像表現や言葉で片付けてしまう、もしかしたら映画としては語りすぎなのかもしれない側面が多々ある。その映画としての(わかりやすさという意味での)未熟さを差し置いても、やっぱり映画にしかできないことをあらゆる手法を用いて伝えてくる「映画」だと思う。ちょうど同時期に公開され、心の中に会話相手を見つけてしまう『おらおらでひとりいぐも』(沖田修一監督)と同じく、単純な“ひとりごと”ではない「自分との会話」という描写は、あんがい映画だけに許された特権だとも思うのだ。僕みたいに1日の半分くらい心のなかで自分と対話してるような人間もおそらくいて、でもそれは可視化されることも文章化されることもないわけで。その映像化によって際立つ「私」という存在。このまま私といたほうが楽だけど、誰かと何かを分け合ってみたい。たぶんそういう意志を持ったのだろうみつ子は、近所で偶然すれ違った取引相手の多田くん(林遣都)と奇妙な「交換/交感」をはじめるようになる。料理を分け与えるみつ子に、必ず代わりに何かを差し出してくれる多田くん。そのささやかな交換がやがて感情の交感へとつながり、人生の一部を分かち合うまでへと発展する。そこに向かうまでには幾度とない感情の転調があった。他人と人生を共有するためには、いくらかの痛みを伴うことになる。しかし考えてみれば、孤独な人生にも痛みはつきものだった。セクハラ、優秀な上司、親友との別れ。その痛みさえも分かち合うことができたら…もしかしたら少しだけ楽になれるのかもしれない。いや、楽になれないとしても、それと引き換えに「連帯」を受け取ることができれば、この世界の心細さに少しは対抗できるのかもしれない。そうやってみつ子は自分の一部を多田くんに預けて苦手な空を飛んでみたのだ。痛みと連帯を同時接続させながら。30代目前の人生の選択を精緻に描写した漫画『A子さんの恋人』ともとても共時性のある物語だと思う。偶然だけど、本作にも大事な場面で「海」と「東京タワー」が登場し、自分を形作ってきた“A“についての物語が描かれる。“A”に慣れ親しんできたことの心地よさと、“A”を手放すことの痛みと妙な温かさと。新しい電球をくるっと回すみたいに、閉ざされた暗い部屋に電気をつけてみるのもいいかもしれない。その電球が何を照らしてくれるか、それはやってみないとわからないよね。

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https://m.youtube.com/watch?feature=youtu.be&v=Dq74Xwk4Pmg

*1

*1:感激すぎて言葉にできないけど、のんさんも林遣都さんも橋本愛さんもめちゃくちゃ輝いていて眩しかった。林遣都さんが「明日も元気でお過ごしください」と爽やかに舞台挨拶を締めておられて、この映画を公開初日にまた観るまでは生きてられるなって思えた。

流れる涙はほんものだろうか/大森立嗣『星の子』

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南先生(岡田将生)の車で家まで送ってもらった夜、ちひろ芦田愛菜)と親友のなべちゃん、その彼氏を含む同乗した4人はちひろの両親たちがしていた“ある光景”を目撃することになる。それを観て南先生は、「不審者が“2匹”いる」「完全に狂ってるな」と冷酷に言葉を吐き捨てた。南先生に恋をしていて、そして両親のことも当然のように愛して止まないちひろはひどく動転し、「どうしようどうしよう……」と呟きながら家とは逆方向に走る。涙を流しながら、走る、走る。そこで映像はシームレスにアニメーションへと転換し、美しい星空のもとで空を舞うちひろの姿を描写していく。天高く舞いながら、ちひろは「まーちゃん(姉/蒔田彩珠)助けて…」とどこにも吐き出せない思いを詰まらせる。



これだけショッキングな場面が映画として他に存在するだろうか、とすら思った。大好きな人と大好きな人の思いが一致しないことがこんなに悲しいだなんて。

南先生が数学の授業で黒板に書き記している内容ーー同類項をまとめれば√を計算することができる、あるいは相似形をなす図形の証明ーーの示す同質性や相似性に相反して、映画で徹底的に描かれるのはこの“差異”のほうだったのだ。

僕は本作を家族映画の傑作であると思っているのだけど、例えば同じ「家族」を描く現代の名匠・是枝裕和監督の映画において「(擬似家族を含む広義の)家族の同質性の描写」がとことん重視される*1のと比較して、『星の子』では「個々の差異」こそがどんどん浮き彫りになっていく*2

「水」と「コーヒー」という対比される飲み物はもっともわかりやすくそれを表していて、4人が一緒に食卓を囲むシーンも(ほとんど?)なく、ちひろが両親の着る緑のジャージのにおいを気にしたり、帰ってきたまーちゃんの生ゴミみたいなにおいを気にしたり(その後お風呂に入ったまーちゃんが自分と同じ“いいにおい”になるという描写はあるが、それも一時的なものである)、「まーちゃんが好きだから」と母親が買っていた棒パンをまーちゃんではなくちーちゃんが食べていたりと、随所に家族のうまくいかなさがちらつく。しかし本来的に家族とは、そういう一面もはらんでいる共同体だと思う。

林家の決定的な差異とは、「金星のめぐみ」という宇宙のエネルギーが流れる水を「信じるか/信じないか」に収斂されるだろう。ここでなぜ「水で救われた」という同じ体験をしたはずの家族間で差異が生じるかというと、「自分の確たる成功体験として認識しているか/していないか」の認識違いが生じているからだ。すがるようになんでも試した両親は、その水を肌の弱い愛する娘に染み渡らせ回復する姿をその目で見た。しかしまーちゃんはそれをハタから傍観していただけで、ちひろ自身も赤ちゃんのころのことだからもちろん覚えていない。だから娘たちにとって信じる要素とは、両親の態度にしか見出すことができなかったのである。それは僕自身の実体験としてもすごくよく「わかる」。両親のことは信じ続けたくても、徐々にいろんな負の要素が浮かび上がってきてしまう。家の貧しさ、友人の目、一面的ではない世界、好きな人からの全否定……。

そういう崩壊する家族間の差異が浮き彫りになるのに反して、宗教団体の人たちの同質性が際立つのも憎らしい事実だ。彼らは「水」と「成功体験」を通して家族以上のつながりを創り出してしまっている。だからあれだけ楽しみにしていた「海路さんのつくる焼きそば」を最終的に食べることがなかったちひろの姿にこそ、その同質性からの離脱が示唆されているように思う。『星の子』はちひろの迷いを描く。なんども両親を信じようとして、でも決定的な差異になんども足元をすくわれる。

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「面喰い」であるちひろの美醜にまつわるサブストーリーや徐々に苦いコーヒーに慣れ親しんでいく姿は、ひとえに15歳の少女の「世界の濁り」への対面を表現するものなのだろう。世界はそんなにきれいにできてはいないし、正解がひとつではないことも知ってしまった。かっこいいと思っていた人のひどい一面も見てしまう。「あなたの意思とは関係なしにこの場所に導かれているのよ」と昇子さん(黒木華)は言うけれど*3、それはほんとうなのだろうか。というか、それでいいのだろうか。“ほんもの”がなにかはわからないけれど、それは自分の目で見極めるしかないんじゃないか。なべちゃんが「それ(水)ひと口ちょうだい」と言って「まずっ」と続けたこと、その歩み寄り方。いろんな悪い見聞に対して「でも噂でしょ?」と劇中で2度発するちひろの、疑わない思考停止さ。

かゆみで泣き叫ぶ赤子を目の前にして、一緒においおいと泣く両親とまーちゃん。物事はすべて一面的ではないからこそ、決してわかりえない部分と同じだけ、きっとわかりあえる部分も存在してる。今は見えないかもしれないけど、あの夜ひとりぼっちで流した涙も、流れ星になって私たちの目の前を覆うときがきっとくる。流れる涙だけはほんもので、それ以外は今はまだわからない。

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*1:それは食卓、身なり、クセ、喋り方、動き、生活のルーティンなど広範囲にわたって描かれる。

*2:作家性を捉えづらい大森立嗣監督のフィルモグラフィーのなかでも、特に近作『タロウのバカ』『MOTHER マザー』を観ていて思ったのは“徹底的に共感性を排除している”ということだった。大森監督は、観客が登場人物へと共感するようには役者を撮らない。本作のちひろにおいてもきっちりと観客とキャラクターのあいだに“距離”があり、それがむしろ当事者意識のある僕にとっては共感へとつながった。

*3:「自由意志」と「決定論」の話はノーランの映画みたいですね。

*4:あとがき:芦田愛菜ちゃんの泣きの演技の切実さ、複合的な感情表現の素晴らしさもさることながら、姉役の蒔田彩珠さんがとてもよかった。これを観たあとにぜひ『朝が来る』の鑑賞もおすすめしたい。そして世武裕子さん(『生きてるだけで、愛。』『心の傷を癒すということ』など)の劇伴がいつもながらめちゃくちゃ染みた。Spotifyにもサウンドトラックがあがっていて音楽作品として単体でも聴きたくなる、作家性の浮き出た音楽。上に挙げた作品たちと同じ世界を共有しているように感じさせてくれる。

先週食べたカルチャー(20年9月2週目)

涼しい風にさらされると「外でのみてえ」としか思えなくなった。別に悲観的に言ってるわけではなくて、むしろ逆。夜風にあたりながら呑む酒ほど気持ちいいものはない。実はお酒の味って初めて呑んだときからずっと変わらず好きじゃないのに割といっぱい呑むタイプなのだけど、夜風×酒(レモンサワー)はいつだってとろけそうになる。でもやっぱり涼しい風にさらされて酒のことしか浮かばないのは嫌だ。大人って感じがするから。きっと高円寺に住んでるせいだ。この街はもうコロナなんて過ぎ去ったみたいに駅前ロータリーには酒呑みが群をなし、大将という大衆居酒屋の路上席ではあふれんばかりの大人が酒を酌み交わしてどちゃどちゃ騒いでいる。それを横目に「ああ俺も酒のみてえな」と思いながら家路につくのが最近のルーティン。家で呑む酒の量は一時期より極端に減ったけど、事務所が三軒茶屋に移転したせいでずっと料理がつくれない。今週末は待望のノーラン新作『TENET』が公開される。映画館の席に着いたときのドキドキを僕は10数年前に無くしてしまったのだけど、ノーランの映画だけはまだそれが体験できる。いつからかマーベルの新作に飛びつかなくなったのも大人になってしまったからだろうか。期待することがなくなってしまったし、過去に抱いたあのドキドキを超えられるものはないと気づいてしまった。でもノーランにだけは期待している。ムビチケは2枚買った。初日に観て頭こんがらがせながら何とか理解して、また週末に彼女と観るのだ。これはああであれはこうだったんだよ、とか説明しながら。

ということで先週みた映画、演劇、漫画、小説などの記録です。

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ポレポレ東中野『眠る虫』を観た。幽霊の声に耳を傾け続けていたら、その死者の音と映像を目から照射できるようになった女の子の話(だいぶ雑なあらすじ)。停留所から停留所へ走行するバスの映像が大半を占める一種のロードムービー。その車内を3駅分くらいまるまる長回すシーンと、降りようとして降りれない1駅分を長回すシーンが強く印象に残った。それが世界にとって必要な時間なのかはわからないけど、映画にとってはとても有意義な時間だったと思う。

昔撮られたおばあちゃんの映像を観たときに、過去に置き去りにされたはずの彼女の声(音)が現在の電気信号を伝って私の耳に届いてることに恐怖を感じて、それが創作の起点

舞台挨拶でそんなふうに金子監督は話してたけど、「恐怖」が創作意欲につながるその思考回路がとても気になる。僕は怖いものにはできるだけ近づきたくない。

Netflixオリジナルの映画『もう終わりにしよう。』は、そういう怖いものには蓋をしたい系の作品だった。本作でいう「怖いもの」とは人生そのもの。彼氏の親に会うために彼氏と田舎を訪れる主人公の女性は、「まじで会いたくねえ」「死にたい」くらいのテンションでいながら彼氏に車で連れていかれたその家で、まぁ摩訶不思議な体験に見舞われていく。ホラーではないのだけど、圧倒的不気味。でも引き込まれてしまう謎の魅力もある。映画側が観客に大きな分断を敷いてるせいでこれは理解不能だ〜とお手上げになるも、Filmarksである人の解釈を読んだらすっかり腑に落ちた。そしてもしかしたらそんなに人生の絶望を描いた映画ではないのかもなんて思ったり。冒頭で「映画を観るなんてクソだ」的な発言があるので、そこで心が折れてしまった人は先を観ないほうがいい。

『推し、燃ゆ』を読むために『文藝2020秋号』を買った。「覚醒するシスターフッド」という特集テーマにも興味があったので。この小説がとんでもなく面白かった。どうしたって意識してしまう著者の21歳という若さ。昨年ハタチで文藝賞を受賞したという前作も読みたくなった。『推し、燃ゆ』はいわゆる“女オタク”を題材にした作品で、主人公の女子高生はあるアイドルグループのメンバーを熱烈に「推す」ことを生きがいにしている。“生きがい”と言うと大げさに聞こえるかもしれないけど、家族や勉強やアルバイトや生活といった世界の事象すべてに生きづらさを感じている彼女には、その「推し」が生きる糧であることは明らかだった。文中の言葉を引用すると、彼女にとって推しとは身体を立ち上げるための「背骨」だったのだ。そんな推しが急にいなくなってしまったら……?という、推しを推すことの幸福とその後の“余生”を丹念に綴っている作品。

同じ年に文藝賞を受賞したもうひとりの作家、遠野遥の『破局』を読むと「今の若者観」というか、ちょっと共時性を感じる部分があった。それは、自分自身の内側にあるものではなく、外側にある“なにか圧倒的なもの”に生が吸いついている感覚。『破局』では社会の定める倫理観に、『推し、燃ゆ』では推しに。そのどちらも物語は急激に破滅へと導かれていく。『明け方の若者たち』など立て続けに20代作家の小説に触れてきたわけだけど、同世代の作家が書いた小説をもっと読みたいなと思う。

CINRAにあった『眠る虫』の映画評と『文藝』のシスターフッドを扇動する力強い文章に立て続けに接し、高島鈴さんというライターにかなり心を持っていかれている今日この頃。eke-kingで連載なさっている「There are many many alternatives. 道なら腐るほどある」がどのテキストもアクロバティックで面白くて大事に一個一個読んでいる。第1回の「現象になりたい」、第5回の「反誕生日会主義」、第10回のパラサイト評(評ではないか)がとくに好き。全言葉に共感しているというよりは、こういうパーソナルな部分をステイトメントや映画評として昇華できることに単純に憧れ感心している。同い年のライターさん、彼女には内面から湧き上がる強さのようなものが見えて、なんでも書けてしまうんだろうなって思ってしまう。別にそんな超人ではないだろうけど。

『水は海に向かって流れる』の最終第3巻、素晴らしかった。全キャラクターが憎めなくて愛らしくて、幸せになってほしいなって切に願わせられる奥行きの説得力がすごい。今月発売されるなんて思ってなくて、ちょうど友だちに1、2巻を貸してしまったところだった。できるなら3巻続けて読んで世界観に浸りたい。そういえば沖田修一監督で映画化する『子供はわかってあげない』の公開日どこいった…?

昨年公開されて邦画シネフィル界ですごく評判のよかった『王国(あるいはその家について)』新文芸坐でやってたので観に行こうと思ったけど気づいたときにはほぼ満席だったのでオンライン視聴に回った。この映画は自宅で観るべきでなかったし、途中休憩を挟むべきでなかった。映画館で観てたらきっと自分自身も“王国の内側に入っていく”ような感覚が得られたのだろうと思う。試みもわかるしストーリーもめっちゃ面白かったので、今度はぜひ映画館で観たい(あらすじにはぜんぜん触れないスタイル)。

ロロのいつ高「心置きなく屋上で」神奈川芸術劇場で。この規模感で観るいつ高、すごい贅沢感。でもぜんぜん持て余してはいなくて、屋上にはぴったりの開放感だった。旧校舎には×、新校舎には◯が書かれていて、魔法陣だと勘違いしてどんどん◯側に人が集まっていくとびきりの幸福さ、青春。たしかに学校の屋上ってものに一度は登ってみたかった(小中高どこにも屋上というものは存在しなかった)。花粉症だと嘘をついて涙。太郎に好きだと詰め寄られてフリたい海荷。誰かに答えられるために存在しているクイズ。書いてないのに自分が書いたみたいな手紙。校舎越し太郎の1番好きな歌に気づく海荷。すべてよかった。

このロロを観たあとに思い立ってIMAXインターステラーを観たから、実はちょっとだけいつ高の繊細さな面白さが吹っ飛んでしまっている。インターステラーは洋画にハマったきっかけみたいな映画でDVDでは何回か観てるけど、映画館では観たことがなかった。それをあのIMAXの大画面・大音響で。もうmajiでgodなfilmだった。「最高」という言葉はこういうときのために普段から出し惜しみしておくべき。伸び縮みする時間の感覚がどうしたって涙を誘い、離れるにつれ近づいていく空間のパラドックスに圧倒される。コロナが明けたら新宿ゴールデン街にある一度だけ何かの弾みで吸い込まれた“ガルガンチュア”というバーにまた行きたい。