縞馬は青い

縞馬は青い

映画とかドラマとか、好きなもの

カルチャーをむさぼり食らう(2019年8月号)

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8月が終わった。なんだか暑くてぼーっとしていたような記憶しか残っていない。お盆に実家に帰ったりすると、帰京するころには抜け殻になってしまったりするから厄介だ。間違いなく実家でしか食えない、冬瓜の酢の物的なやつ(ネットでそれっぽいの調べても出てこないからうちの母親しか作ってないんじゃないか)とかがぶちうますぎて、東京でひとりで生きていく生気を吸い取っていくのだ。それまでやっていたこと、思っていたことがリセットされてしまう感じがした。まぁ実家でも原稿を2本書いたりバリバリカルチャーモードでしたが。

ここ数か月ずっと、「本を読む」というのを目標に掲げては達成できない日々を過ごしている。とりわけ小説を読みたい、けれど今までそんなに読んでこなかったからどの作家にコミットすればいいのか、本屋に行っては逡巡する毎日。かといって映画をめちゃくちゃ観れてるかというとそうでもないし……*1。だんだんと未知のものに挑戦するのが億劫になってしまってるんだろう。ほんとうは古典的ハリウッド映画もヌーベルバーグの作品群も台湾ニューシネマも黒澤明村上春樹吉田修一山崎ナオコーラ柴崎友香も触れたくてしょうがないのだけれど、どうしても近くにあるものに手を伸ばしてしまう。そんな停滞期な8月のカルチャー日記は5つの印象的なカルチャー(作品・人・祭り)についての記録。

 

<映画- 中川龍太郎四月の永い夢』>

今気づいたけど、レンタルで観た『四月の永い夢』が紡ぐストーリー、抱いた感想は、上記の文に合致しすぎるものだった。そこはかとなくある、停滞感。

3年間ものあいだ「四月」に取り残された女性が、3年目の夏に経験するゆるやかな日常の変化によって現実に回帰してくるという、ちょっぴり幻想的でゴリゴリに詩的なお話。昨年の5月に公開されて、ずっと観たかったやつだ。期せずして夏の暑い日に実家で見ることができたのは、とてもラッキーなタイミングだったと思う。昨日行った服屋のお兄さんにも勧めたくらい、今夏のカルチャーといえばこれ!という映画(昨年公開ですけどね)。ほんとうは感想を長々と書きたいのだけど、全然うまく書けそうにないのでとりあえずDVD買って数か月に一回見返してやろうと思う。みんなが口々に大好きだと言う朝倉あきには一発で惚れ込んでしまったし、監督・中川龍太郎の次作『わたしは光をにぎっている』には期待しかない。なんたって主演は松本穂香で、主題歌はカネコアヤノなのだ。「光の方へ」はこの間ライブでも聞いていたし、今年を印象づける映画になることはすでに確定している。

ちょっとだけ心に刺さった部分を書こうか。一番は「手紙」の存在。そして、ラジオ、電話、音楽と、音が想いを運んでいく作劇の安心感。包容力。物語内でも大きな役割を果たしている赤い靴による主題歌「書を持ち僕は旅に出る」もすばらしい。

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<映画- 杉田協士『ひとつの歌』>

もう一本、映画の話を。今年の新作映画ベストワンにすでに内定している『ひかりの歌』の東京凱旋上映が月初めにあり、同時に監督の過去作の上映も行われていたので、前作の(と言っても9年前に撮られたものだけど)『ひとつの歌』を観に行った。東京都写真美術館にて。これが、自分がもし映画を撮るとしたらこういう方向性を志向するだろうなというタイプの作品だった。世界の切り取り方に感動したのだ。『ひとつの歌』では、セリフが極端に少なくて言ってしまえば開始10なん分くらいまで会話という会話が聞こえてこない。ずーっとある一人の男(の後ろ姿、だいたい)をカメラは追いかけていって、徐々に彼の日常の行動範囲が明らかになり、ある女性への特別な視線が浮き彫りになっていくという、まさに「映像がモノを言う」映画だった。これを観ていて素直に、映画ってこうあるべきなんじゃない?と思ったのだ。言葉なんかなくても、映像の連続だけで伝えうるものがあるということ。僕が『ブリッジ・オブ・スパイ』の冒頭なんかに惚れ込んでしまう要因がやっとわかってきた。登場人物がいきなり叫ぶやつとか嫌っしょ?会話劇はめちゃくちゃ好きだけど、映画で何かを語ろうとするならば、言葉なんていらないんじゃないか。

言葉がないと、必然的に映像の特性に目がいくことになるんだ。特に印象に残ったシーンはこんなふうに描かれる。

固定カメラが写す映像のなかに入ったり出たりしていく男、女。多用されているわけではないが、なんだか印象に残る。まだそこでカメラは男と女を同じ世界に収めることを許していないよう。そう思っていると、駅のホームで少し距離を空けて男女が並ぶシーンが訪れる。カメラは何度か左右に動き、男と女を交互に映す。女が男の存在に気づき、近づいていく。男が女にあるものを手渡し、固定カメラの射程のなかにすっかり収まるふたり。するとそこで、画面の左右両方から電車が勢いよくホームに侵入してくる。

映像のパン、人物のフレームイン/アウトを用いてささやかかつダイナミックに描き出す、男と女の心が通じ合う瞬間。開始30分くらいの場面にもかかわらず美しすぎて泣きそうになった。

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<アイドル- AbemaTV『火曜TheNight』/眉村ちあき

どういうタイミングだったか、たぶんYouTubeのレコメンドに流れてきたんだと思うけど、AbemaTVの『火曜TheNight』という番組を見る機会があった。矢口真里ピン芸人岡野陽一がパーソナリティを務めていて、ゲストに毎回アイドルがやってくるバラエティ番組。結構何年もやってるみたいなんだけどドルバラ好きの自分の触覚がうまく働いてなくてバッチリ初見。産休に入るやぐっちゃんの代わりに3か月だけ鈴木愛理がMCを務めるということでちょっと見始めたり過去放送を見たりしている。そこでみた眉村ちあきというアイドルにグサッと心を射抜かれ、一気にどハマってしまったのだ。

m.youtube.com

一体なにものなんだ。ゴッドタンを毎週見ている人なら知ってたんだろうけど、僕は全然知らなかった。喋りのバカっぽさと歌のうまさのギャップはもはや言うまでもないんだろうな。いやはや、YouTubeに転がっているどのライブ映像を見たって、その場所は多幸感であふれていて、求めていたのはこれかもしれないって思った。


2019/5/11 眉村ちあき@上野恩賜公園野外ステージ


<ドラマ- NHK『だから私は推しました』>

アイドルはそれなりにずっと好きだけど、お金を大量に落とすほどハマったことはない。映画への気持ちのほうがよっぽどオタク的かな。ただアイドルとか映画とか関係なく、好きなものに忠実に生きていたいと望むものにとってどうしても刺さってしまうドラマがこの『だから私は推しました』という作品だ。地下アイドルと女オタを描いたドラマだけれど、妄信的な恋愛感情のようなものまでがこの作品には落とし込まれていて、愛とどうしようもなさの表裏一体に引き込まれてしまう。毎話しんどくなりながらレビューを書いているのがその証左。

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<8.24-25 東京高円寺阿波おどり

まるでロックフェスのような阿波おどりの祭典。去年に引き続き、土日2日連続で観に行ってしまった。踊ってる人たちまじでみんなかっこいいし、浮かれきった祭りの雰囲気が最高なのだ。1日目は同じ高円寺に住んでる友だちと行ったのだけど、暑い暑いと言ってバテていたので彼をほっぽって夢中に推しの天水連をみる。2日目は1日目の夜になんやかんやあって知り合った女の子と見たり、途中で帰ってしまったりして(詳述はしないけど辛い思い出だった…)、まぁ結局は浮かれながら推しの舞蝶連と華純連をみた。なんかいろんな出会いがあった気がするけど別にその後につながるわけではなく、つなげようとしない自分も自分で、やっぱりあれは祭りだったんだなと懐かしむばかり。しかし、1年に1回だけでもすべてが吹っ切れる瞬間があると精神衛生上とてもいいと思うな。きっと1年後も僕は高円寺に住んでいる。

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〈他・雑記〉

黒木香の許可が取れてなかった云々で色々あった『全裸監督』。おもしろかった、という記憶を吹き飛ばしてしまうほどぐるぐる考えてしまったが、鑑賞中はとにかく楽しかった。満島真之介の存在に想いを馳せないわけにはいかなくて、彼と村西チームの紅一点である伊藤沙莉の存在によってバランスが取れていると感じた。モヤモヤした気持ちは忘れたくないな。ーー相変わらずおもしろいなテラスハウス。最近のおもしろさは、声が大きくなりすぎている山ちゃんによってつくられていると思う。言ってしまえばとっても悪質なコンテンツになり下がってきているのだ。この番組を見ていて例えば軽井沢編のゆいちゃんの件とかから気になっていたのは、スタジオメンバーがすぐに住人に対してレッテルを貼ってしまうこと。そしてまんまと視聴者である私たちもそれを間に受けてしまうこと。テラスハウスにはカメラが設置されているわけだけど、だからといって決して彼らのすべてが私たちに見えているわけではない。もしかしたら1%だって見えていないかもしれないのだ。にも関わらず変に期待したり蔑んだりして、住人がその妄想の逆方向に行けば非難する。とっても恐ろしい。だけどそんなものが成立するのは、生活をカメラが捉えているというそれ自体がいびつなこの構造だからこそのものだから、それも含めてやっぱりおもしろいのだ。リアルなのかシナリオがあるのかも含め、多層性/多面性に満ちた番組が今後も続いていくことを望むのみ。今はとにかく翔平くんと香織さんがかっこよくて困っている。仕事への取り組み方が参考にしかならない。ーー8月15日、終戦記念日に『ゆきゆきて神軍』を観た。ずっと観たかったドキュメンタリーがアップリンク吉祥寺でやっていたので。原一男監督と松崎健夫さんのトークショーがとてもよかった。ドキュメンタリーってあんまり観たことないけど、やっぱりあそこにも真実と虚構、本当に大切なものはなんなのかという視線があるんだよな。ーー『無限ファンデーション』という全編即興劇で綴られた映画を観てだいたい落胆した。南紗良さんの演技は飛び抜けてたけど、『幼な子われらに生まれ』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』には遠く及ばないよな〜とか。即興だからって演出サボってる気がしてならなかった。

8月は愚痴で終わりますね。

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*1:全然観てねぇな……と思ってたけどちゃんと調べたら17本も観てた。じゅうぶん。