縞馬は青い

縞馬は青い

映画とかドラマとか、好きなもの

踊るしかないこんな夜は/二宮健『疑惑とダンス』

2019.3.3/3.10 ユーロスペース

『チワワちゃん』で岡崎京子の原作をセンセーショナルに現代へとアップデートしてみせた平成生まれの天才監督・二宮健がまたやってくれた。あくまでも個人的な意見だけど、2018年の日本映画界が濱口竜介三宅唱の1年だったとすれば、2019年は二宮健と今泉力哉の1年になるんではないかと思ってる。最近いろいろニュースがあって嫌になっちゃうけど、それでも日本映画界の今と未来は常に明るいはずだ。

 

f:id:bsk00kw20-kohei:20190315002847j:image

 

この53分中編映画のストーリーはものすごくシンプルで、登場人物は、結婚を控えるカンナ(徳永えり)とマサオ(木口健太)に、彼らの結婚を祝福するカンナの大学時代のダンスサークル仲間4人(コムラ・サトシ・サナ・ツバキ)。映画がはじまってすぐに童貞感の強いコムラが「カンナと昔、一夜だけ関係を持ったことがある」とマサオに口を滑らすことを契機に動き出す「ヤッたかヤッてないか」をめぐる(むしろそれしかめぐらない)いびつな密室会話劇だ。

 

f:id:bsk00kw20-kohei:20190315002622j:image

もう呆れるほどにお話はめちゃくちゃくだらない、でも異常なほどに笑える。すごい落ちこんでて最近笑えてないなーとかいう人を無理やりユーロスペースのなかに押し込んでやりたいくらいに、見たら絶対元気になれる映画だと確信してる。ハードルの上げすぎはよくないけどね。映画を観て驚いたのは、二宮監督が『チワワちゃん』とは全く違うアプローチをしながらも、シネフィルもそうでない人も全員が楽しめる映画を作ってきたこと。「映画で遊ぶ」が本作のコンセプトらしいのだけど、監督も役者も遊びまくってるなーってヒシヒシ感じながら、決して内輪ネタにならない感じがとてもいい。みんな全力を尽くして遊び、ちゃんと観客の姿を見据えているのが伝わってくる大きな熱量を感じる映画だ。


熱量といえば、この映画はユーロスペースでしか上映してないのだけど上映後のアフタートークに全力を注いでいるのがおもしろい。毎日アフタートークをやってるんだけどそのゲストが半端なくて、有村架純戸田恵梨香門脇麦松本穂香、ディーンフジオカなどなどゲストで客を呼ぼうとしてる感じがすごい伝わってくる布陣(笑)。実際この映画を一回見てしまうとハマってしまうのはほぼ確定なので、内容が内容だけに、あの俳優がこの映画をどう見たんだろうとか気になって仕方なくなるんだよな。僕も門脇麦さんが登壇していたやつに行ってから1週間経って、出演者がほぼ勢揃いしてる回にまた行ってしまった。今のところリピーターがすごい多い映画だと思うのだけど、これはホント、1回見てしまうと沼ですよ、沼。安易におすすめしてはいけないかもしれない。

 

f:id:bsk00kw20-kohei:20190315002711j:image

 

なぜそんなにおもしろいのか。カンナを中心において、他の登場人物たちはほぼ全員カンナのことが好きなのだ。Likeではなく、がっつりLoveなほうで。だからマサオと結婚することを祝いながらも、内心は嫉妬でいっぱい。二宮監督は、冒頭から小道具を使ってその関係性を演出してたりもする。それは例えば、コムラがマサオの結婚を祝ってハグするときにコムラが片手にハサミを持っていたり(不穏な展開を予感させ、マサオを破滅させに向かっているとも取れる描写)、遅れてきたカンナが「おみやげ」といってコムラに「けん玉」を、ほか3人のダンスサークル仲間には「フリスビー」をプレゼントしたり。「けん玉」というのは、今後コムラが「カンナと過去にヤッたということしか話さないマシーン」になることを表象しているし、「フリスビー」というのはもう、投げたカンナのもとに愛という名の攻撃が返ってくることのメタファーにもなっている。人々の愛憎が渦巻き、真実は不明瞭で、カンナとマサオは彼らの望み通りに破滅しそうになる。


『疑惑とダンス』という題名が示唆するように、この映画にとってダンスはかなり重要。ちょっとネタバレになるけど、彼ら2人はダンスをすることで何とか心と心を繋ぎ止めることに成功する。ラストのダンスシーン以外、この映画は徹底的にディスコミュニケーションを描きながら、最後にはダンスをすることで、わかりあえないことを受け入れながらも何とか通じ合ってハグをする。その切実さに、普通に泣きそうになる。


本作は、シナリオと登場人物のキャラクターは監督がある程度考えているものの、脚本はないのでセリフは全部役者のアドリブで構成されているという。そんな映画観たことがなかったからどう言葉に表していいかわからないのだけど、「あ~俳優ってめっちゃ好きやわ~」と再確認できた53分だったように思う。かっこよすぎる。ほぼフルキャストが登壇していたアフタートークでは、「ヤッたことを覚えてない」と言い張るカンナ役の徳永えりさんは「実はヤッたことを覚えていながらも嘘を突き通そう」とキャラクター設定をしていたと語っていたり、サナ役の福田麻由子さんは「虚言癖のレズビアン」という設定で望んだとか、マサオ役の木口健太さんはとにかくカンナに真相究明していくことを胸に誓って徳永さんに嫌われるのを恐れながらも厳しい言葉を投げかけようと頑張ったとか語っていて、すごくおもしろかった。それと同時にその与えられた小さな設定だけでここまで見応えのある会話劇が仕上がっていることに驚きでいっぱいだった。

 

f:id:bsk00kw20-kohei:20190315002657j:image

 

低予算な映画だと思うけど、会話劇というジャンルのいろいろな可能性(人間関係の難しさをあぶり出したり、役者の本気が見えたり)が垣間見えた作品だった。僕は、映画で遊ぶ彼らがもっと観たい。