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今泉力哉『街の上で』ーー下北沢という街に生きる人間たちの、“ストレートな想い”の物語

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10月13日(日)に開催された下北沢映画祭にて、今泉力哉監督の長編映画最新作『街の上で』がワールドプレミア上映を迎えた。台風によって開催も危ぶまれたなか、一本の映画は堂々と産声を上げながら誕生し、会場に響き渡っていた笑い声や感嘆の声から察すれば間違いなく、下北沢の街に祝福されていた*1

主演は『愛がなんだ』の仲原青役が記憶に新しい若葉竜也。その脇を穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚といった新進女優が固め、あの人気俳優や人気アーティスト*2の突然の登場も作品に彩りを加える。共同脚本には漫画家の大橋裕之。振り返ってみれば、群像劇によって登場人物と街の身体が浮かび上がる様は、彼の代表作『シティライツ』のようでもあった。

シティライツ 完全版上巻

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まず最初に言っておくと、俳優がまじでみんないい。よすぎるんだよ。今泉監督がよくおこなう“役者への当て書き”の効用もあってのことか、みんながみんな、生き生きとしているのだ。下北沢の街にほんとうに住んでいそう、歩いていそうな気がしてしまう人ばかりがそこに映っていた。観たあとに誰もが必ず心を奪われてしまうだろう女優もいて、中田青渚さんという方なのだけど……。『3月のライオン』や『ミスミソウ』に出ているらしいのだけどどちらも未見だったのですぐ見てみたいと思います。これに関しては公開後のみんなの反応がすごく楽しみ。

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『街の上で』は、下北沢を舞台にして撮られた、まさしく“下北沢という街の映画”であり、“下北沢にいる人間たちの映画”である。「下北沢映画祭」からのオファーによって誕生したこの映画は、下北沢を舞台にしていれば物語の内容など他の部分は今泉監督にお任せするということだったらしく、監督自身「好き勝手に撮らせてもらった」と舞台挨拶で言っていた。『愛がなんだ』、『アイネクライネナハトムジーク』と、原作があったり大きめの配給会社が付いていたりと近作にはある程度しばりがあっただろうから、これぞ今泉映画!というものを観られるのは久しぶりかもしれない。そうして出来上がった本作は、『こっぴどい猫』や『サッドティー』のような拗らせた雰囲気も少しは感じつつ、しかし今までに観たことがない作品になっていたから、純粋に驚き、素直に感心してしまった。

今泉力哉監督が撮る映画の登場人物たち(おもに主人公)は、みな一様に何かに対して“疑問”を浮かべている」三浦春馬×多部未華子『アイネクライネナハトムジーク』の小さな魔法 今泉監督が投げかける疑問とは|Real Sound|リアルサウンド 映画部

これは『アイネクライネナハトムジーク』の作品評を書いたときに僕が言及したこと。「好きになるってどういうこと?」をはじめとした、普通に生活していれば通り過ぎてしまいそうなことに登場人物たちが“疑問”を持つことで、普通の日常が「映画」となる。そしてときに、普通からは逸脱しているからこそ、今泉映画に登場する人間たちはちょっとこじらせているようにも見える。いや、完全にこじらせている、と観る人が大半なのだろう。『パンバス』のふみ(深川麻衣)は好きな人がいながらもその人に対して「好きにならないで」と言ってみたり、『愛がなんだ』のテルコ(岸井ゆきの)は、振り向いてくれないと内心ではわかっていながらマモちゃんを追うことを止められない。仲原くんと葉子の関係性の歪さを問い詰めながらも、同じことをしてしまったりする。「どうしてだろう。私はいまだに田中守の恋人ではない」。

そうした“こじらせ”をときにコミカルに表出してきた今泉作品ではあるものの、『街の上で』のおもしろさはそれとはある種、正反対のところにあると思っている。今泉映画の新境地とも言えるかもしれないそれは、今までの“配線がこんがらかった感じ”ではなく、“ストレートな想い”によって紡がれていくのだ。

『街の上で』には、ストレートな愛やリスペクトの数々がそこかしこに点在している。カルチャー、人物、場所、そして街。それぞれを挙げれば長くなってしまうが、映画や音楽、漫画といった文化に対するリスペクト、実在する人物のカッコ良さに直接言及するシーンもあるほど、そうしたものへのストレートな想いにあふれている。下北沢という街らしく、この映画には「何を生業にして生きているかわからない人」という人物も出てきたりするのだけど、彼らへの目線がとりわけやさしい。そもそもが、スーツを着た人がほぼいない街。カルチャーが根付く街ならではの生の表出はやはり新鮮だ。カット割も極端に少なく、超がつくほどの長回しばかり。一筆書きで想いを伝えようとする今泉監督の決意を感じる。

登場人物もけっこうハッキリしている人が多い。例えば、“2股をかけてしまう人”というのが今泉映画の過去作品ではよく出てくるけど本作のある人物はきっぱりと別れようとする。ある人物はダメなものは切り捨てようとするし、またある人物は、モヤモヤした感情から脱しようとする。今泉映画にしては、なんだか誠実な人間の割合が多い(笑)。それだとちょっとおもしろくないんじゃないの? と思われるかもしれないけど、そこはご安心ください。ちゃんと(?)こじらせてる人も出てくるし、ハッキリしてる人も数ミリだけこじらせ成分を見せてきたりしてるから。そして、そのハッキリした性格のなかのこじらせというギャップが、自然なコミカルさ、笑いを生み出しているので。ほんとうに笑える場面ばかりで、元気になる映画だ。

前述したように役者が全員すばらしく、人間が魅力的に映っているがゆえに、下北沢という街全体もひときわ愛らしく映る。僕は似たような街でも高円寺に住んでいる人間だから、ちょっと嫉妬してしまったりもした。シモキタよすぎでしょ。たまに行く「hickory 」という古着屋が主人公の勤め先だったり、みん亭、下北沢トリウッドや古書ビビビ、THREEが舞台となっていたり、下北沢好きにもたまらない映画になっているはず。劇場公開される運びになったらまたゴリゴリにネタバレありの感想も書きますが、ひとまずは公開されるのを待つことにしましょう。最後に、若葉竜也が演じた主人公・荒川青の人物造形が絶妙で、これは自分の映画だ、と思ったことを記しておきます。はやくみんなのもとに届きますように。

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*1:思えば、東京国際映画祭で『愛がなんだ』のプレミア上映を観たのがちょうど1年前くらい。そのときも今泉監督と若葉竜也さんがいた。

*2:今泉監督のツイートには名前出てたけどどこまで出していいかわからないのでとりあえず伏せときましょう。