縞馬は青い

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映画とか、好きなもの

カルチャーをむさぼり食らう(2019年6月号)

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ユーロスペースのフライヤーが並ぶ壁面をおさめた画。ブレにブレてる。

好きな人に告白してフラれたりした6月。昔から、常に刺激を受けながら1分1秒も無駄にせず生きていきたいと思っていたり、人一倍好奇心が旺盛だと思っている自分ですが、東京に来てからというもの、それにますます拍車がかかっている気がする。今回の告白もある種、日々の暮らしへの刺激を求めたものだったのかもしれない。しかし相手のことを好きなのは事実なようで、それは手紙で告白して返事が来るまでの3週間、実に無気力に生活してしまったことに表れているように思う。1分1秒も無駄にしたくないのに、仕事終わり家に帰ったあと、毎日そわそわしてなにもできなかったのだ。そんな日々も、こうして文章にすることで何か意味あるものに昇華されると思うとうれしいな。日々は続き、あの子との関係も何事もなかったように続いていくのだろう。6月はいい映画をたくさん観て、同時に、いっぱい映画を観なければと決意し、映画にどっぷり浸かることを決めた月。映画について書くことがますます楽しくなってきた。

映画

6月1日の映画の日に映画を3本観た。余談ですが、1900円に値上げしてからというもの、TOHOや新宿のシネコンにまじで行かなくなってしまった。絶対に1900円は出してやらないぞという意地があるのだろう。いつも割引いてくれるミニシアターちゃんにゾッコンだから、わざわざシネコン野郎に高い金を払ってやる義理はまったくない。そうすると結果的にゴジラのような大作映画とかアニメ映画とかは間引かれていく。それはそれで悪くないかもな。で、3本観たのだけど1本のことしか覚えてない。その一本が傑作すぎて。塩田明彦『さよならくちびる』。最高だった。次の日も観に行った。もっと最高だった。いかにも映画好きが好きそうな映画という感じで、Twitterでは「演出がすごい!」とか、「言葉ではなく表情や動きで登場人物の関係性を表現してるのがすごい!」とかいう絶賛レビューで溢れかえっていたのだけど、演出を語り出すなんておまえは映画評論家かよと思ったりもした。でも気づいたら自分もこの映画の演出面のおもしろさについてブログを書いてしまっていたのだ。一面的には退屈な映画ではあるし、音楽映画にしては音楽もそこまでいいわけではないのだけど、その背面に流れるささやかな描写の積み重ねに心をつかまれてしまう。うるさいやい!と突っ込まれそうだけどそういう「映画の奥底に潜む楽しさ」について文章を書きましたのでぜひ。おもしろくないと思った人にこそ読んでほしいな。

対して、表のストーリーがしっかりしすぎていると感じたのが『長いお別れ』。『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督作。僕が大好きな“家族映画”のジャンルに長けた監督の映画だけど前作も含めてちょっと好きじゃないんだよな。毎回“ちょっと”好きじゃない。話がよくできすぎているところに、魅力ではなく嫌味を感じるのだと思う。家族映画はうまく締められてしまうとおもしろくない(あくまでも個人的に)。『クレイマークレイマー』『お引越し』『歩いても歩いても』『トウキョウソナタ』『そして父になる』『幼な子われらに生まれ』『永い言い訳』などなど、崩壊した家族が「努力」をもってして現実に向き合うスタート地点にやっと立つまでの描写にハッとするのだ。赤黄青緑の色分けで家族4人の家族の中でのポジションを表し続ける映画なんておもしろくない。崩壊しない安心感などいらない。スクラップアンドビルド万歳!ーーその夜というか翌早朝チャンピオンズリーグ決勝、あえなく敗戦した我らがトッテナムホットスパーの雄姿を見て勇気づけられた。今はさほど興奮してないけど応援しはじめた7年前くらいの中学生の自分に伝えたら飛び跳ねてドギマギするだろうな。勝ち負けとかまじでどうでもいいのよ(でも勝ってほしかった)。ーーテラスハウスはやっぱりおもしろい。なんでカメラがそこかしこに設置されている家で平然と生活ができるのか、家賃・食費などはどうしているのか、みんなあの豪邸や高級外車に似合う最良ルックスすぎはしないか、などなど疑問点はいっぱいあるものの、それも含めてあれこれ考えるのが楽しいのだ。東京編の圧倒的スピード感について考えていたら、家の構造による作用や大きな分類として3つの性格の人物が住んでいることに気づいた。ストレートにものを言う性格に発破をかけるしきりのない家。東京オリンピックまでの間におもしろい事件がいっぱい起こる気がする。そんな内容の振り返りコラム(4話ごとの更新)を担当しています。

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このあたりで手紙の返事が来てふわっとふられた。それからというもの映画を週に3本レンタルするようになったり、映画本を読んだりとても充実している。3年間友達関係でいた子に告白したタイミングで、ちょうど『月極オトコトモダチ』という映画を観た。男女の友情は成立するのか、ってな感じのやつ。自分の場合、下心がないと深く接しようとは思わない(というか接し方が下手)から親友になったとしても今回みたいな結末を迎えるのだろうと思う。それもこれもテラスハウスのせいだ。ーーオールタイムベスト級に心をえぐられた映画『町田くんの世界』。なにかを大声で叫びたいくらい好き。なんだ。レビューのなかに書きそびれたところでいうと、やっぱり前田あっちゃんの圧倒的な存在感だろうか。おっさんにしか見えない大賀の私服デートもいい。今年ベストは『ひかりの歌』という映画で当確しているのだけど、2位はこの作品で内定しました。DVD買って見倒してやるし漫画も買うぞ。ついでに6月が終わったので2019年上半期の新作映画ベストを記そう。①ひかりの歌 ②町田くんの世界 ③愛がなんだ ④さよならくちびる ⑤アベンジャーズ/エンドゲーム ⑥僕たちは希望という名の列車に乗った ⑦岬の兄弟 ⑧疑惑とダンス ⑨凪待ち ⑩チワワちゃんーーほぼ日本映画ですね。去年の『ファントム・スレッド』みたいな衝撃的な外国映画にはまだ出会っていない。

神保町花月で鎌田順也作・演出の『予言者たち』を観劇。ナカゴー/ほりぶんの主催である鎌田さんが、よしもとの芸人・ライスやサルゴリラらとともにつくった演劇、という捉え方でいいだろうか。(近作しか観てないけど)近作にも頻出した「予言者」がインフレ状態で多数出てきて(ていうか登場人物全員予言者で)、笑いを次々に生み出す構図。この吉本新喜劇的にトレースし続ける作劇にほんのちょっとだけ飽きてきたかもしれない。今回のストーリーはいつもと比べても薄味で、なんだか物足りなく感じてしまった。ナカゴー『まだ出会っていないだけ』、ほりぶん『飛鳥山』が傑作すぎたのだろうな。でも、毎回チケット代2500円でこのクオリティは本当にお得なので観られる方はぜひとも。その週には『旅のおわり世界のはじまり』、『小さな恋のうた』、『町田くんの世界』(2回目)を観た。やっぱり町田くんの世界がおもしろいな。2回目にもかかわらずボロボロと泣いてしまった。ご存知モンパチの楽曲をモチーフにした映画『小さな恋のうた』は開始数分で予想外の展開へ移行して驚かされたものの、境界を超える/超えないを主軸ストーリーとしたとても観やすい青春映画だったと思う。旧作レンタルの映画にも琴線にふれるものがたくさんあった。なかでもおもしろかったのは岩井俊二四月物語』、成瀬巳喜男乱れ雲』、市川準『会社物語』、マイク・ニコルズ『卒業』。『四月物語』は主演の松たか子がフレッシュすぎて愛おしい。本編67分。これくらいの尺感でラストにどきりとさせられる映画が好きだ。f:id:bsk00kw20-kohei:20190622093851j:image

大傑作『乱れる』の発展系のようでいて結局最後に“ヤルセナキオ”が顔を出す成瀬の遺作『乱れ雲』。「超えられない」こと(その描写)にこれだけ執着する監督もおもしろい。無理とはわかっていながらも「越えようとする」ということに大きな意味を見出しているのだと思うし、その不器用かつテクニシャンな感じがとても好み。f:id:bsk00kw20-kohei:20190622093902j:image

定年退職を間近に控える中年男性の走馬灯的悲喜劇の『会社物語』は中盤以降からの徐々な盛り上がりにやられた。妙な「悲しさ」が全編を覆っているけれど、そのなかにも希望を見つけて拾わせてくれる。市川準の映画はこの素朴さがクセになる。女性キャストたちとワンポイントリリーフのイッセー尾形が魅力を放っていた。f:id:bsk00kw20-kohei:20190622093914p:image

ラストシーンがあまりにも有名すぎる『卒業』はやっぱりそのラストシーンがおもしろい。『プロポーズ大作戦』と『太陽と海の教室』が好きなドラマベスト2なのだけど、その2作品がこの映画を通して強くつながっていることに気づいて驚いた。「The Sound of Silence」がこんなに何回も流れるとは思ってなかった。f:id:bsk00kw20-kohei:20190622093922j:image

アイドル

6月4周目はハロープロジェクト好きにとっては大きな変革の時期だった。Juice=Juiceの宮崎由加さんとアンジュルム和田彩花さんの卒業公演が連日武道館で。武道館はもちろん行けなかったしフジテレビTWOが見れる環境にあるにも関わらず見逃してしまった。やはりヲタクとは言えないレベルでずっと推移している。そうは言っても和田さんとは握手をしたこともあるので、感慨深い気持ちでいっぱい。YouTubeで公開されたJuice=Juiceのライブ風景の一部。これの『「ひとりで生きられそう」ってそれってねぇ褒めているの?』という楽曲がよすぎて鳥肌立ちまくった。段原さんの落ちサビがまじ半端ないのよ。


【ハロ!ステ#294】Juice=Juice ツアーFINAL 宮崎由加卒業スペシャル!MC:譜久村聖

最近のジュースジュースはスキルのある兵隊たちがどんどん入っていくシステムのグループと化していて、先日もハロプロ研修生から優秀な2名が配属されたのだけど、どんどん生でライブを観たいという思いが強まっている。その数日後、モーニング娘。’19にも新メンバーが3人加入した。生配信で行われた新メンバーお披露目。2人目に登場した北川莉央さんという女の子が出てきたときに、これはきた!と直感的にビビっときた。明らかに歌がうまい声質のよさ(実際得意らしい)と鞘師里保の面影を感じる滲み出るエースの風格。もうほんとうに、漏れ出ちゃってるの、なにかが。いやぁ、ライブ行きたいっすね。f:id:bsk00kw20-kohei:20190623224217j:image

4週目の週末は期せずしてフランス映画を劇場で5本(うち2本は短編)も観ることになった。それが、なにから話したらいいのかわからないくらい全部びっくりするぐらいおもしろかった。フランス映画には前々から苦手意識があったからなおさらだ。観た全作に共通しているのは、愛おしい日常描写と悲劇的な事件が交錯して描かれていて、その様を身近に(自分ごとであると)感じながら観てしまったこと。とりわけ素晴らしかったのはギヨーム・ブラックの『女っ気なし』という映画。この映画との出会い方もある種劇的で、同じ監督の『7月の物語』を観終わった後にその空気感が心地よすぎて次回上映のそれに飛び込んでしまったという流れ。とくに東京に来てからは予約しないで飛び込みで映画を観ることなんて全くなかったから、運命的な出会いに感じている。30代中盤くらいのデブでハゲで自信なさげな主人公男性(でもフランス人だから色気もにじみ出てる)が、バカンスにやってきた女ふたり親子と悲喜こもごもな日々を過ごす話。簡単に書くとそんな感じ。どこかわからないのだけどバカンスに訪れるくらいだから舞台は観光地かなにかで、それが微妙に退廃している雰囲気なのがとてもグッときてしまった。熱海的な位置づけの場所なんだろうと想像しながら、そこに住む鬱屈した中年男性の生活に癒されたり苦しめられたり笑ったりする。なかなか日本映画なんかでは見ないけど確実に存在している人種の男が描かれていて、妙に共感してしまったものだ。こういう映画が世界にあふれていてほしい。残念ながら東京での上映は終わってしまったけどアップリンク吉祥寺あたりが拾ってくれると思うのでぜひ見てほしい〜。僕も『やさしい人』を観れば一気に全作コンプリートだ。f:id:bsk00kw20-kohei:20190628233531j:image『月曜から金曜の男子高校生』という漫画をLINEマンガでちまちま読んでいる。とても癒されるストーリー。スクールカーストでいうと一番下のランクにいる男子たちが、恋をしたり部活に打ち込んだり、とにかく生き生きと日々を過ごしている情景。最近、こういった学園もののカルチャー作品で“スクールカースト”というものが描かれなくなってきたように感じている。それは別に学園内格差が無くなったというわけではなく、それを描く意義の喪失を意味しているのだろう、とか想像して。例えば成瀬や小津のように「境界を超えられないこと」や「わかりあえなさ」を表出してきた古典邦画が、近作で言うと『さよならくちびる』のように「曖昧な関係のままでもいいじゃん」と示しているように。「分断」を認識したあとに描くべきことは、それでも互いに歩み寄ろうとする意志に違いない。毎週リアルサウンドでまとめコラムを書いていた『俺のスカート、どこ行った?』にしても、第1話では明らかな上下関係が存在していた明智(永瀬廉)と若林(長尾謙杜)というふたりが最終話には親友かのように並んでいる、そういう描写に心を掴まれたものだ。いじめる/いじめられるという関係にあったふたりが和解する瞬間は描かれていたものの、その後の距離の縮まりをこのドラマは省略していて、いきなり仲良しになっている。NHKよるドラの『腐女子、うっかりゲイに告る』や『町田くんの世界』も、まるでスクールカーストなど存在しないかのような世界が描かれていた。スクールカースト以上に語るべき問題があるということでもあるのだろう。

月曜から金曜の男子高校生1巻 (LINEコミックス)

月曜から金曜の男子高校生1巻 (LINEコミックス)

 

 『日向坂で会いましょう』が毎回とんでもなくおもしろい。とりわけ6月24日放送の春日とロケする回はハンパなかった。どんなバラエティよりも笑えるし、加えて無尽蔵に癒されてしまうのだから、これほどいい番組はないと思う。イヤモニをした加藤史帆に指示を出す若林の姿(とても楽しそう)を見ていたら、バカリズムがMCを務めていた伝説的なアイドル番組『アイドリング』を思い出した。アイドルをひな壇に座らせMCを芸人が務めるというこの雛形を生んだパイオニアのような番組(『あさやん』やおニャン子クラブが出てた番組がどんななのか知らないので適当にパイオニアと言ってます)。このアイドルバラエティという番組の形式が僕は大好きで、アイドリングからAKBINGO、乃木どこ・乃木中、けやかけ、日向坂と(途中にもいろいろあった気がするけど)駆けてきたわけだが、ふとその魅力の本質について考えてみたくなる。アイドルの魅力や本性があぶり出される(あるいはまったくあぶり出されない子もいる)この番組スタイルの未知のパワーについてや、MC芸人との必ず合致する奇妙な相性、関西芸人が起用されづらい理由(なぜだろう)、バラドル養成機関としてのそれについてなどなど。だれか論じてくれないだろうか。『アイドリング』には「バカリズムは誰だ?」という最強のコーナーがあって、バカリズムがアイドルに無茶ぶりの指示を出しまくってそれはおもしろかったのだけど、日向坂のそれ(加藤史帆や松田好花)を見ていると明らかにアップデートされてると感じるのだ。ノリのよさにいやらしさがまるでない(アイドリングはなんか売れてやろう感がめっちゃあっていやらしかった)、余裕のあるボケ、笑い。乃木坂、欅坂、日向坂と、個人的には毎回新番組がはじまる度に興味が移ってしまっていたそのクオリティの上昇気流について、とても気になるところだ。そういう番組を幸か不幸かもっていないハロープロジェクトのことをアイドルのなかで一番推しているのだから、これもまた奇妙。坂道系のライブにはこれまでもこれからも行かないだろうから、まったく別物として見てるのだろうな。とにかく『日向坂で会いましょう』は最高。f:id:bsk00kw20-kohei:20190628232457j:image

フランス映画、というかギヨーム・ブラックの話に逆戻りします。特集上映のすべりこみで『やさしい人』を観ることができた。『女っ気なし』と比べるとかなり狂気的な展開が待ち受けていて驚いてしまったけど、根底にはもちろん同じものが流れているなと感じる。そして同じ雰囲気を纏うものとして、エドワード・ヤン坂元裕二の作品のことが思い起こされた。愛おしい日常と、それに付随する崩壊への不安感・狂気、逃れようのない転機、そしてラストに待ち受ける微細な光。街ーーとりわけ地方都市の風景を撮ることに熱心で、それと同時にそこにいる人々のドラマ、日常を紡ごうとする姿勢は、とても大好き。『ひかりの歌』にもちょっと似てるかも。杉田協士監督と同じくらい、ギヨーム・ブラックのことも知れてよかった。f:id:bsk00kw20-kohei:20190628233544j:image

ボーイもガールも

6月27日、OKAMOTO’Sの武道館ライブに行った。かっこいい以外の言葉が思い浮かばない。印象的なのは「BOYから大人への転換点だと思い、アルバムタイトルを“BOY”にした。でもツアーをやってるうちに俺たちはいつまでも“BOY”の気持ちを無くすことはないと気づいた」というオカモトショウの言葉。BOYとは無邪気に夢を見て、純粋に追い求める姿。それは女の子であってもおじいさんであっても、誰の心にも存在するものであると、そう彼は言っていた。ふと、生粋のアンジュルムオタクである蒼井優と菊池亜希子がW編集長を務めた『アンジュルムック』というアーティストブックに刻み込まれたキャッチコピーを思い出す。「ファンもオタもボーイもガールも」という文言。そしてまたふと思い出す。昨年の東京国際映画祭で『21世紀の女の子』を観たときに参加監督14人が登壇した挨拶でそのひとり山中瑶子監督が発していた言葉。女の子という言葉がタイトルに入っていて女の子しか出てこない映画だけれど、きっとおじさんにも届くはずの話であると。めっちゃ記憶が曖昧で監督の言葉も論旨が微妙にぶれていた気はするものの、つまるところ誰の心にも女の子はいるということを伝えたいのだろうと感じたものだ。こういう発言を聞くたびに、なんだか救われた気分になる。“BOY”や“女の子”というイメージの固定されているような言葉を用いながらも、その逆説を示すことで私たちの心は繋がっている、あるいは繋がっているはずだとみんなが甲高に主張するのだ。私たちは強く繋がっていけるに違いない。f:id:bsk00kw20-kohei:20190628234155j:image『21世紀の女の子』の総監督でもある山戸結希の新作『ホットギミック ガールミーツボーイ』を観た。たまにはキラキラ映画を観るのも悪くないなと開始10分くらいはのんきに鑑賞。しかし、「ガールミーツボーイ」という副題でありながらもヒロイン(堀未央奈)が3人の男性の間で揺れ、いろいろなものを奪われ、自立していかない様を90分くらい見せられるので、だんだんと焦ってくる。でも山戸結希だからという安心感はあった。長らく青春時代における恋(あるいは青春映画)の代名詞として使われてきた「ボーイミーツガール」という定型。それはそのままの意味で、男の子が女の子と出会い、苦楽を共にする物語を紡いでいくことによって「男の子が成長する」という作劇だったのかもしれない。そうしたものの対義として、もしくは少女漫画における、かっこいい男の子に身を捧げる少女のストーリーとは違うものを提示するという監督の意志として「ガールミーツボーイ」という副題は掲げられているのだろう。冒頭のタイトルバックにて「ボーイ」という字と「ガール」という字が入れ替わる瞬間を私たちは確認することで、この映画はガールのための映画であると認識させられる。しかしその前提のままではこの映画は終わらなかった。90分くらいで山戸作品特有の映像の密の濃さに疲れて(このタイミングで一旦映画が静かになったことも影響してる)集中力が切れて、それから105分くらいまで展開がないように感じてしんどかったのだけどラスト15分くらいがとてもよかったと思う。『溺れるナイフ』とかはそこまで好みではないのだけどそれとも違う本作での山戸作品の成長は、ヒロインが劇的な変化を遂げるのと同じ速度でまわりの男の子たちも成長していくところ。互いに影響を及ぼしあうことで、どんどんこの世界は複雑であると魅せてくる演出も見事だった。ロケーションとキャスティングが抜群にいい映画。無機質なマンションが高低差のある空間での声の往来によって生き生きとしてくるのが魅力的です。f:id:bsk00kw20-kohei:20190630193125j:image

『21世紀の女の子』で山戸結希がつくった短編映画のタイトルは『離れ離れの花々へ』。その名前にも似たロロの新作公演『はなればなれたち』を観劇。これまで劇場では青春劇「いつ高シリーズ」しか観たことがなかったので新鮮な気持ちでフルスケールの本公演に挑んだ。気持ちよさそうに発声し、からだを動かし、地面に寝転がる登場人物たち。彼らの姿はいつだって楽しさで満ち溢れていて、観るだけでこちらも元気になってしまう。映像では2年前くらいの本公演『父母姉僕弟君』も観たことがあったけど、正直これまで何度かロロの演劇を観てきてストーリーが深く心に刺さることはなかった。受け取るか受け取らないかの狭間で、物語が僕の脇をするりと通り抜けていく感じ。でも楽しいからなんとなく観ていたのだけど本作はなかなかに受容することができたと思う。舞台上と観客席との境界がたびたび破られるのがいい。確実にそこに「あった」と語る望月綾乃さんの力強さにやられた。森本華さんもめちゃくちゃキュート。板橋さんはめっちゃ声出てた。よかったなぁ。

f:id:bsk00kw20-kohei:20190630193048j:image東京芸術劇場アピチャッポン・ウィーラセタクンの『フィーバー・ルーム』をみた。いちおう演劇だと思って観に行ったから全然人出てこないしそんなことよりすごすぎるものを見せられて度肝抜いた。監督はこれを映画だと言っているが明らかに映像表現の域を超えたものだ。これから観る人のために詳述するのは避けたいのだけど、2Dの映像が段階的に拡張されていき、最終的に自分に迫ってくるーー文字にすると意味のわからない体験型の映像作品。夢の中をさまよっているのか、宇宙を放流しているのか、どうとでもとれる規模感の世界に投げ出され、プリミティブな感覚を得る。母親のお腹に中にいたときの感覚すらもが思い出せそうな、特異的な空間/時間芸術だった。インタビューとかの載ったパンフレットを無料でくれるのが嬉しみ深し。ーー夢に関する映画と言えば、Netflixで公開された『ANIMA』もすばらしい。『ファントム・スレッド』のPTA御大による新作短編映画。トム・ヨークの音楽もそれぞれのダンスも感覚を刺激するものばかりで、ずっと見ていたい夢の様相を見事に形作っている。あと乗り物に乗って終わる映画が大好きなんだよな〜。

そんなこんなで今月は結構濃いカルチャー生活でした。あと退屈なときは基本的にYouTubeをみてるのでそこに触れておくと、QuizKnockというチャンネルと(相変わらず)東海オンエアがすごくおもしろい。前者は企画力が高すぎて明らかにクイズ番組を更新していると感じる頭のいいチャンネル。後者はとにかくバカなチャンネル(逆説的に頭もいい)。リーダーのてつやが5、60万くらいのガチラブドールを買ったというのが最近のビッグトピックで、その行く末がとっても気になってる。是枝監督の『空気人形』を思い出してしまう、独特の空気感が流れ出していて楽しいんだわ。


てつやくんの家にラブドールが届きました