縞馬は青い

縞馬は青い

映画とか、好きなもの

焦らずゆっくりと私たちの家族を作ろう/中谷まゆみ『隣の家族は青く見える/第1話』

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無知こそが要らぬ偏見や差別を生むんですよ

これは、松山ケンイチ演じる五十嵐大器が、後輩社員の矢野朋也(須賀健太)に説教されるシーンで発せられる台詞である*1。本作が伝えようとしているのはまさにこのことではないだろうか。偏見や差別は無知から生まれ、わたしたちはその"無知"から目を逸らしているということ。不妊症や同性愛、DINKsや外面を気にする家族が"ひとつ屋根の下"で息づいているこのドラマが描くのは、私たちが生きているこの世界の多様性と、それを知って(見て)考えることの重要性であろう。

 

この世界に生きる人々の多様性。それは例えば子作りに対する考えの違い。

小宮山深雪(真飛聖):いろんな考え方があっても、子どもを欲しいっていう思いは女性共通の願いよ。やっぱり女は子どもを産んでこそ一人前だもの〜
五十嵐奈々(深田恭子):いろんな価値観があるんで子どもを持つことが女性の全てとは思いませんが、わたしは欲しいと思ってます

子どもを産むことが幸せだと考える人がいれば、欲しくないと考える人もいる。また、色々な事情で子どもを産みたくても産めない人もいる。このように「子作り」という一つの事象を取ってみても人によって考え方は様々なのだ。本作のストーリーメイクには、物事に潜む多様性をできるだけ多角的な視点から、できるだけ注意深く描き出そうという試みが垣間見える。

 

"多様性"がこの作品の深いトーンであるから、上記のセリフによって毒のある女性という側面を覗かせた深雪にも、娘を気遣い愛情を与える母親の側面や、インスタに興じ隣人のバッグを気にする女性としての側面が共存している。また、多様性というのは人物の性格だけではなく様々な事象にも現れる。

大器:うちの家族ってほんとうるさいよなぁ。言いにくいこともガンガン言ってくるし、遠慮がないっつーかなんつーかさぁ
奈々:うーん。そこが良いんだよぉ。ああいう賑やかな食卓には憧れてたんだぁ。大ちゃん家の家族は理想だよ

「孫の顔を見たい」と言う五十嵐聡子(高畑淳子)に、「それはセクハラだよ」と注意する娘の琴音(伊藤沙莉)。この会話によって、フィルターにかけることをせずに何でも言ってしまうこの家族関係に一度は警鐘を鳴らすも、それに対して奈々は優しく肯定してみせる。このようにして物事や人物に対する否定と肯定を繰り返しながら、人や物事には2つ以上の面が存在しているということを、このドラマは丁寧に描き出そうとしている。

少し気になるのは、この「多様性」という語りが心なしか説教じみていて、男性をはじめとして見るのが辛いと思う人も結構いるのではないかなぁということ。しかしこのドラマにおいて素晴らしいと思ったのは、そういった真面目な論を掲示しながらも、男性同士のロマンスが語る愛の美しさや娘へと向けられる笑顔の優しさ、恋人の前で本音を吐き出す純朴さなど、ラブコメディの群像劇としてドラマをいい意味で軽くしている点だ。

 

大器のつった足を伸ばす奈々、という描写から始まる第1話では「焦り」と「引き延ばし」という動きが顕著に現れていた。「僕の子どもを産んでください」といきなりの告白をする大器に、焦らずゆっくりやりましょうと言わんばかりの笑顔を浮かべ足を伸ばしてあげる奈々。この収縮と弛緩という動きは、「子作り」の話になると逆転し、「もう35歳だし…」と焦る奈々に大器は「まだ大丈夫じゃない」とお餅を食べながら引き延ばそうとする。子ども好きな大器がこう言うのは、自らの恐怖に乗じてのことだけではないだろう。私には、焦らずマイペースでやっていこうという自由さと、奈々に降りかかるかもしれない困難を跳ね除けようとする優しさに見えたのです。問題を先送りにしているという側面ももちろんあるのだろうけど…。
まぁ何が言いたいかというと、足りないものをお互いに補い合うというのが夫婦なのではないのか、ということである。一方が与えてばかりなのではなく、互いに与え合うことの重要性。

夫婦関係や家族関係の難しさ。ぴったりとパズルのようにハマっていると思っていたはずが、徐々にズレが生じてくるということ。その違和感や気持ち悪さを本作では「不妊症」という事象を用いて現してはいるけれど、何もそれだけに限ったことではないと、この作品は伝えようとしているのではないか。4つの家族が紡ぎ出すこの世界の真理に、注意深く目を凝らしていきたい。

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*1:職場の年少者が年長者に対してある種格言めいた言葉を発するという手法は映画『永い言い訳』を思い出しました。あまり説教臭くならずに本旨を伝えられるのが良いですね。

"サイコーな君"のとなりで、/Netflix『このサイテーな世界の終わり』

f:id:bsk00kw20-kohei:20180109001257j:imageThe End of the F***ing World | Netflix Official Site

Netflixで1月5日に公開された『このサイテーな世界の終わり』が最高に面白かった。同じ公開日の『Devilman』が予想どおりヘヴィーな作品だったので、その箸休めとして本作を観たはずだったのですが、こっちの方を一気見してさきに見終わってしまうという、それはそれで嬉しい誤算でした。

「海外ドラマ」がポップカルチャー界での高い地位を獲得していっている昨今、私自身、1話50分とかのドラマは中々見づらくて敬遠してしまっている状況なんだけど、本作は20分×8話なので気軽に見れるし、ポンポン話が進んでいくのでテンポも良く、また、その短さの割にキャラクターもストーリーも凄く立っていて大満足してしまった。コンビニエントでクオリティの高い作品なんて最高としか言いようがないですよね。f:id:bsk00kw20-kohei:20180110132618j:image

さて本作の内容なんですが、単純に言えばサイコパスな少年・ジェームスと不良少女・アリッサの「ボーイミーツガール」ものでした。孤独で何か"闇"を抱えている2人が、このサイテーな世界でなんとか生きていこうと奮闘する姿が描かれます。

本作における一番のハイライトは、第4話から第5話にかけて描かれる「孤独→ふたり」という画面の動きでしょう。もとよりこの2人は、「大事な人を失っている」あるいは「大事な人に見捨てられている」という点で"孤独"という相似形を共有していました。そんな彼らはひとりではなく「ふたり」で生きていくことによって生きる意味を見出していく。

第4話が大きな転換点であり、ロードムービーとしてどこか平和ボケしたような最初の1、2話からは一転し、生きていくことの難しさを教えるようなシビアな状況に物語は進んでいく。「ふたり」になった彼らが再び「孤独」へと回帰する場面です。孤独になった彼らの行動や言葉を見るうちに視聴者である私たちは、はじめて彼らが「孤独」だったのだと知ることになります。そしてそれは彼ら自身が「わたしは孤独だったんだ」と知る場面にも重なっていく。

その日 静寂に音があることを知った
耳をつんざく音

ジェームスは「母親」という大事なものを11年前に失っている。そしてその別れはあまりにも突然で衝撃的なものでした。池に沈んでいく自動車の、数分前までは助手席に乗っていたはずなのに、母親と自分の空間はその瞬間に完全に分断されてしまう。そこから彼は(そして彼のお父さんも)「隣にいたはずの人」を失くした状態で生きていくことになります。この、自動車を使った「ふたり→孤独」という画面の動きは、そのままアリッサと出会ったあとのドライヴにおける「孤独→ふたり」という展開にも使われるのだけど、第4話において再びジェームスは孤独になってしまう。

しかし17歳のジェームスは、11年前に母親を失ったときの彼からは変わっていました。それは「静寂に音があること」を知ってしまっているからです。耳をつんざく音。また同時に「"ふたり"に音があること」にも気づいたことでしょう。それは、ときにアリッサの叫び声や怒鳴り声、汚い言葉たちだったかもしれない。しかしその音を「愛おしい」と感じてしまう"感情"がジェームスには芽生えていたのです。

第5話において再び孤独がふたりへと変わる。本作では、ジェームスとアリッサが横に並んで同じ方向を見ているというシーンが多いのだけど、第5話の再会のシーンでもそれは例外ではありませんでした。机を挟んで向き合うというよりも同じ方向を向いて同じ方向に進んでいくこと、自動車の座席に座っているようなその感覚が、彼らには必要だったのでしょう。

あまりにも衝撃的なラストでしたが、これほど胸がざわついたことはありませんでした。となりにいたはずの人を失ったアリッサもジェームスのように立ち直ることができるのだろうか。

悲しくも愛おしい物語。

残酷でしかし美しすぎる、愛の物語です。f:id:bsk00kw20-kohei:20180110132637j:image

(追記)

シーズン2が決定してるみたいだ。ということは…?

君はここから出られないのだ、夏!/長久允『そうして私たちはプールに金魚を、』

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見てくださいよ、この少女たちの煌めきを。かっこよすぎるでしょ…。

本作『そうして私たちはプールに金魚を、』は、第33回サンダンス映画祭の短編部門でグランプリを受賞した作品。この映画祭もその栄冠もどれくらい凄いのか判断しかねるんですが、なんでもこの映画祭によってタランティーノデイミアン・チャゼルが発掘されたらしいです。まぁそんな付随品はどうでもいいのでこの映画を見ていただきたい。ファーストインプレッションは相米監督の『台風クラブ』で、それほどに衝撃的で青々しくてグッときた。

この映画、演出も脚本もルックもハイクオリティでエキサイティング。27分という短さで40以上ものシーンが繰り出さられていくのでドライブ感もリズム感もすごく良くて、もはやグルーヴすら感じてしまうほど。音楽を消費するように気軽に何度も再生させてしまう恐ろしい映画です。

www.youtube.com

舞台は埼玉県狭山市。4人の少女たちは「海」が無くて「狭い」という文字が堂々と入り込んでいるこの町のことが大嫌いで、でも一生ここからは出られないという諦めを感じながらその"閉塞感"と日々格闘している。

どうせ出られないのだこのダンジョン
奇跡が起きないと鍵が開かないシステムなんだ
例えばさ
14と15の間に新種の数字を発見するとか
ちょうど3時に猫に会うとか
服がたまたま信号機とか
トイレの天井にチワワの霊を見つけるとか
朝日と同時にC7鳴らすとか
そういう奇跡がいくつか続いてやっと鍵が外れる
ハードモードのダンジョンなのだ

そう、この世はダンジョンなのだ。よっぽどの奇跡が起きないとここからは出られない。「海」がない町で水泳部に所属しているという彼女たちの姿が象徴しているように、彼女たちは大きな海へと続くことのない小さなプールで泳いでいるしかない。しかしそれでも彼女たちはこの世界の外に出るという一縷の望みを捨てないでいて、本作でのそれは「ゴミ箱」や「コップ」、「金魚すくい」など、「穴を覗く」という画でもって象徴的に描かれていく。この世界のどこかに異世界へと繋がる入り口はないものか、あるいはダンジョンを抜け出る出口はないものか。この狭山市という小さな町は、『ストレンジャー・シングス』のような世界とリンクしていき、彼女たちは「裏世界」を抜け出したいウィルやウィルを探し続けるマイクたちのように「脱出」(もしくは「生還」)を求め続ける。

そういった「脱出」のイメージが最後、「プールに金魚を」放つという行動に巧みに繋がっていくのである。もちろん金魚というのは彼女たち自身に他ならない。金魚すくいのポイでは一匹も掬(救)ってやれないけれど、どうにかして異世界を見せてあげたい。この行動は、彼女たちのそういった執念が生み出した最大限の挑戦であった。しかしその決意をもってしても「結局」彼女たちの人生は何も変わらない。

私たちはいつも「結局」だ
「結局」真っ暗で
「結局」綺麗な金魚は見れなかった。
「結局」次の日には事件になっちゃって
「結局」バレて怒られて停学になった。
「結局」そんで夏は終わった。
「結局」受験もそこそこにやって
「結局」そのままどうでもいい高校に入る。
「結局」私たちはこの町から出ないだろう。
「結局」何も変わらない。
「結局」私たちがやったことに
意味なんて一つもない。
「結局」…

本作では「穴を覗く」というイメージに加えて「赤と白」が執拗に映し出されている。それは、カルピスに刺さる赤いストローや居酒屋である笑笑の看板、ボウリングのピンなどであるが、このイメージは果たしてどこに繋がっていくのか。前述した『台風クラブ』があのような形で幕引きするように、本来「赤と白」というイメージで白が制服となると赤には「血」や「死」というものを連想させる。ところが本作で彼女たち(白)に対応するのは「血」ではなく「金魚」の赤だ。自殺でも殺人でもなく、「金魚400匹窃盗事件」である。

本作の主題歌は1971年にリリースされた南沙織の「17才」をアレンジした曲である。この歌の「わたしは今生きている」という歌詞が鮮烈で本作でも少女たちがこの歌を歌うシーンが印象的な画でもって描かれている。彼女たちに渦巻く感情は恐怖、退屈、葛藤、挑戦、反抗など様々だ。そのような感情を抱きながらしかし驚くくらい「生きている」ことを実感していく彼女たちの姿は美しい。

自殺ではなく金魚を、。
そう。人生なんて「結局」なのかもしれない。しかしそれでも世界を変えようとする彼女たちなりの「生」の渇望と強く輝く瑞々しさに胸を撃たれてしまった。f:id:bsk00kw20-kohei:20180103194933j:image

p.s. 少女たち4人の演技がすんばらしかったです。心を動かす演技とはこのことだ。

 

追記f:id:bsk00kw20-kohei:20180103212234p:image以上がこの作品に影響を及ぼした映画みたいです。映画見過ぎだし盛り込みすぎですね。最高っす。

Vol.2 サンダンス映画祭グランプリ作『そうして私たちはプールに金魚を、』を完全解剖!<前編> ゲスト:長久 允監督 | OTAMIRAMSのクリエイターに効く映画学 | Shuffle by COMMERCIAL PHOTO より引用

2017年ベスト映画&ドラマのお話

f:id:bsk00kw20-kohei:20171225205131j:imageはい。(いつも通り)映画漬けの一年でした。せっかくブログというものを始めたので大々的に記録しておきたいと思います。今年映画館で観た新作映画の数は67本。加えてNetflixで限定公開された映画を2本、見逃した映画をレンタルで2本観たので、合計71本(邦31、洋40)!2年連続で最高記録更新しました!というわけでここからベストを選出。10本に絞って選考理由はこうだ!と言えてしまえば最高にクールなんですが、どこにもそのような技量は見当たらなかったのでそれでも頑張って絞り込んだ映画20本を記しておきたいと思います(おまけでドラマ10選も)。『ツインピークス』を入れ込んだ「カイエドゥシネマ」の年間ベストみたいに、ドラマも映画と同列に考えて同じランキングに組み込むことができればこれまた最高にクールですよね。まぁそんなこともできない(一介の映画好きがそんなことをする必要も感じない)ので以下別々に羅列していきます。

 

【2017 BEST MOVIE 20】

 

20. 黒澤清散歩する侵略者f:id:bsk00kw20-kohei:20171218221832j:image

19. ケン・ローチ『わたしは、ダニエル・ブレイク』f:id:bsk00kw20-kohei:20171218221828j:image

18. 東伸児『しゃぼん玉』f:id:bsk00kw20-kohei:20171218221824j:image

17. 矢口史靖『サバイバルファミリー』f:id:bsk00kw20-kohei:20171218221821j:image

16. ケネス・ロナーガンマンチェスター・バイ・ザ・シーf:id:bsk00kw20-kohei:20171211214832p:image

15. 冨永昌敬南瓜とマヨネーズf:id:bsk00kw20-kohei:20171212125906j:image

14. 小林勇貴全員死刑f:id:bsk00kw20-kohei:20171212125918j:image

13. ニコラス・ウィンディング・レフンネオン・デーモンf:id:bsk00kw20-kohei:20171212125942j:image

12. ノア・バームバック『マイヤーウィッツ家の人々』f:id:bsk00kw20-kohei:20171212130003p:image

11. 大九明子勝手にふるえてろf:id:bsk00kw20-kohei:20171225203456j:image

10. 荻上直子『彼らが本気で編むときは、』f:id:bsk00kw20-kohei:20171212130022j:image

9. ナ・ホンジン『哭声 コクソン』f:id:bsk00kw20-kohei:20171212130120j:image

8. 白石和彌彼女がその名を知らない鳥たちf:id:bsk00kw20-kohei:20171212130134j:image

7. デイミアン・チャゼルラ・ラ・ランドf:id:bsk00kw20-kohei:20171212130153p:image

6. エドガー・ライトベイビー・ドライバーf:id:bsk00kw20-kohei:20171212130222g:image

 

5. クリストファー・ノーランダンケルクf:id:bsk00kw20-kohei:20171212130942j:image

 

4. ポン・ジュノ『オクジャ』f:id:bsk00kw20-kohei:20171212130316p:image

 

3. トム・フォードノクターナル・アニマルズf:id:bsk00kw20-kohei:20171212130951j:image

 

2. 三島有紀子『幼な子われらに生まれ』f:id:bsk00kw20-kohei:20171212131004j:image

 

1. ドゥニ・ヴィルヌーヴ『メッセージ』f:id:bsk00kw20-kohei:20171231180432j:image

  1. メッセージ
  2. 幼な子われらに生まれ
  3. ノクターナル・アニマルズ
  4. オクジャ/okja
  5. ダンケルク
  6. ベイビー・ドライバー
  7. ラ・ラ・ランド
  8. 彼女がその名を知らない鳥たち
  9. 哭声 コクソン
  10. 彼らが本気で編むときは、
  11. 勝手にふるえてろ
  12. マイヤーウィッツ家の人々
  13. ネオン・デーモン
  14. 全員死刑
  15. 南瓜とマヨネーズ
  16. マンチェスター・バイ・ザ・シー
  17. サバイバルファミリー
  18. しゃぼん玉
  19. わたしは、ダニエル・ブレイク
  20. 散歩する侵略者

これがマイベストです!我ながら多様なジャンルを抑えていて感心ですね。今年は、昨年の『君の名は。』や『シンゴジラ』のような誰もが知っていてその年の印象を決定づけるようなヒット作は出ませんでしたが、「わたしたちの日常」と多くの接点がある映画が沢山公開されたことが印象的でした。邦画の上3つには「われら」「彼女」「彼ら」と代名詞が並びますが、その物語のどれもが映画内の登場人物だけでは完結せずにわたしたちの生き方にまで強く迫ってくる。映画は映画内の登場人物たちによって作り上げられる物語ではありますが、それと同時に「わたしたち」の物語でもあるのだということを再認識させられた作品群でした。ちなみに一番「わたし」に刺さったのは『勝手にふるえてろ』でした…。

洋画は音楽映画からホラー映画まで、豊作の年であったと思います。ノーランにチャゼル、ポンジュノにヴィルヌーヴと巨匠たちの映画が一気に公開されて非常に楽しかった。それぞれが違う取り組み方で、大きな物語を私たちに見せてくれて、もうとにかく最高でした。役者でいうとエイミー・アダムス(『メッセージ』『ノクターナル・アニマルズ』)とジェイク・ギレンホール(『ノクターナル・アニマルズ』『オクジャ』)に魅せられた一年になりました。ベストからは漏れていますが是枝裕和や吉田大八、河瀬直美といった日本映画界のホープ(と言うにはベテランだけど)が描きだしたもろもろの作品も素晴らしかった。そして『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は、今年最も興奮した映画のひとつだったことは間違いないのだけど、どこに入れればいいのか分からなくなったので一旦無視しました…笑。私が何よりも推したいのは『幼な子われらに生まれ』!日本アカデミー賞で最優秀作品賞にならなかったらおそらくそこまで注目されることがないまま消え去ってしまいそうなので、ここで大声を出して宣伝しておきます!

『幼な子…』にも代表されるところですが、今年の邦画は大手シネコンよりミニシアター系で観た作品の方が素晴らしいものが多かった印象です。同じような題材である『ナラタージュ』と『南瓜とマヨネーズ』を対比させてみても、分かりやすくて可愛らしくてポップで、という正のイメージが後者に付与していく。『三度目の殺人』や『美しい星』、『打ち上げ花火…』などなど、今年の大手シネコン邦画は「分かりづらい」がネガティブな結果を生み出してしまっているような気がする。大衆向けを少し回避しているところに好感は持てますが、う〜ん。この傾向は良いことなのでしょうか。とりあえず、『勝手にふるえてろ』とか『南瓜とマヨネーズ』あたりを多くの人に見てもらいたいですね。まぁ来年は、白石和彌や吉田大八、沖田修一、細田守監督あたりがなんとかしてくれるでしょう。

 

続いて、ほとんどおまけのような形でこちらも。1位の作品は今年という位置づけで良いのか分かりませんが、NHKでもやってましたし、何よりもこの素晴らしさを一人でも多くの人に知っていただきたいので選出しました。それぞれの画像、適当に選んだのだけど「目線」が印象的。交わるのか交わらないのか、同じ場所を見つめているのか向き合っているのか。この作品群に共通する何かが浮かび上がってきそうです(適当)。

【2017 BEST DRAMA 10】

1.『火花』Netflix、監督:廣木隆一f:id:bsk00kw20-kohei:20171208182133j:image

2.『カルテット』(TBS、脚本:坂元裕二f:id:bsk00kw20-kohei:20171208182137j:image

3.『13の理由』Netflix、製作/脚本:ブライアン・ヨーキー)f:id:bsk00kw20-kohei:20171226003305j:image

4.『架空OL日記』読売テレビ、原作/脚本:バカリズム、監督:住田崇)f:id:bsk00kw20-kohei:20171208182208j:image

5.『セトウツミ』テレビ東京、監督:瀬田なつき,坂下雄一郎,杉田満、脚本:宮崎大)f:id:bsk00kw20-kohei:20171223150558j:image

6.ハロー張りネズミ(TBS、演出,脚本:大根仁f:id:bsk00kw20-kohei:20171223150541j:image

7.ストレンジャー・シングス シーズン2』Netflix、製作:ザ・ダファー・ブラザーズ)f:id:bsk00kw20-kohei:20171223150547j:image

8.『住住』日本テレビ、原案,脚本:バカリズム、監督:住田崇)f:id:bsk00kw20-kohei:20171223150215j:image

9.『刑事ゆがみ』(フジテレビ、演出:西谷弘ほか、脚本:倉光泰子ほか)f:id:bsk00kw20-kohei:20171223150616j:image

10.監獄のお姫さま(TBS、脚本:宮藤官九郎、演出:金子文紀ほか)f:id:bsk00kw20-kohei:20171223150959j:image

 

 

《おまけ》
個人的なアカデミー賞(ドラマも含む)

邦画好きなので日本人が多めになっております。ご了承ください。

最優秀作品  メッセージ
主演男優賞  浅野忠信(「幼な子われらに生まれ」「刑事ゆがみ」)
主演女優賞  エイミー・アダムス(「メッセージ」「ノクターナル・アニマルズ」)
助演男優賞  阿部サダヲ(「彼女がその名を知らない鳥たち」)
助演女優賞  満島ひかり(「カルテット」「監獄のお姫さま」「愚行録」ほか)
最優秀監督  三島有紀子(「幼な子われらに生まれ」)
最優秀脚本  坂元裕二(「カルテット」)
最優秀歌曲  Another Day of Sun (From "La La Land")
最優秀作曲  メッセージ - ヨハン・ヨハンソン
長編アニメ  夜は短し歩けよ乙女

 

一歩を踏み出す勇気/大九明子『勝手にふるえてろ』

f:id:bsk00kw20-kohei:20171226130315j:image女性版『モテキ』、あるいは日本版『スウィート17モンスター』の様相でした。松岡茉優演じる24歳のこじらせ女子によるぐるぐるネジネジエンターテイメント、これがまぁ面白い。突然挿入されるミュージカル調や多彩な服装が表すカラフルな映像、松岡茉優の一人喋りの面白さなど素晴らしいところはたくさんあるのだけど、何よりも彼女が繰り広げるいびつな物語に少しの共感と羨ましさを持ちながらすご〜く楽しんでいた自分がいた。

この題名は「会いたくて会いたくて震える」人に向けられたようではあるけれど、この物語の主人公も中々にめんどくさい系女子。もう、震えるほどに、変なやつ。主人公は24歳OLの江藤ヨシカ(松岡茉優)。趣味は絶滅危惧種や古代の生物をウィキペディアで調べること。絶滅危惧種が好き過ぎて遂にはアンモナイトの化石を購入してしまうヨシカであるが、本作における彼女のこじらせ物語は、このアンモナイトのように「ぐるぐると同じところを回り続ける」ということを根幹にして繰り広げられていく。

それは、鍵を回しながら家を出ていく姿や、ボヤ騒ぎのお詫びでご近所さんにお土産を持って回る姿、イチとニの間を行ったり来たりし、妄想上で風変わりな他人たちを巡りながら会話する姿などに象徴的に描かれていく。完全なるこじらせ。内向きにぐるぐると閉じていく物語である。本作では、被害妄想から"視野見"といった奇抜な特技まで、この彼女のこじらせが「映像」として上手く表現されていて面白い。f:id:bsk00kw20-kohei:20171226130309j:image

そんな彼女のぐるぐるねじねじ内向き物語も、終盤に近づくにつれて同じくぐるぐる回りながらも「外向きに開いていく」ので、好転していく彼女(あるいはわたしたち)の人生を垣間見ることの安心感や映画を見ることの快楽を与えてくれる。
その鍵として象徴的なのは登場人物たちの「名前」だろうか。本作では「名前」というものをある種"記号的"に描くことによって、心情の変化が表され、人物に深みが出ていく。

10年間恋し続けている「イチ」に、ヨシカに告白した同僚の「ニ」。イチは中学時代の妄想という域を出ず、現実のイチに現れる妄想上とは違うギャップにヨシカは困惑してしまう。「ニ」が、「ヨシカ」と名前を呼ぶ一方で「イチ」はヨシカの名前を覚えていない。この「名前を呼ぶ」という行為がラストシーンのその瞬間まで、重要なこととして描かれる。

あの個性的な店員さんも、バスの中でいつも編み物をしているおばさんも、朝から晩まで釣りをしているあのおじさんも、わたしたちは名前を知ることができない。言ってしまえば"透明"で代替可能な存在なのだけれど、逆に言えば「名前」さえ呼ぶことができればわたしたちは繋がれるのかもしれない。「紫谷」ではなく「江藤ヨシカ」として生きること、おばさんに話しかけてみること、玄関という聖域を侵されてみること。「ヨシカ」が「ニ」の本当の名前を口にすることによって、「ニ」は"リアルに召喚"され、透明だったヨシカの体も実体を帯びていったように見えたのでした。f:id:bsk00kw20-kohei:20171225191839j:imagep.s.  オカリナを吹く岡里奈さんが素敵でした!ニが見せてくれる裏切り(付箋、家に入り込む姿などなど)にもドキッとした。1年の終わりに素晴らしい映画に出会えてよかった。やっとベストを割り出せるぞ。

暇つぶしこそ至高/ドラマ『セトウツミ/最終話』

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「もう少しだけ続けばいいのに」と思える時間ってありますよね。

好きな子と喋っている時間、趣味に打ち込んでいる瞬間、美味しいものを食べている時間。そして、河川敷で駄弁る「あいつ」との時間。

最終話。両親と姉を殺害する秘密の計画を立て、遂に実行にうつした内海であったけれど、瀬戸たちの秘密の救済計画によって「最悪の結末」は華麗に回避されていく。ただの「忘れ物」という形で内海の秘密は浮遊していき、その不可抗力によってくすぶっていた感情が暴露される。

この学校を卒業したい

瀬戸は内海に救われ、内海は瀬戸に救われる。言葉にすると恥ずかしいほどのこのキラキラした友情は、なんでもない「暇つぶしの時間」を通して育まれていった。暇つぶしが彼らの人生を激変させたように、『セトウツミ』という物語は、この“普通”の日常が実は“特別”なんだということを教えてくれます。

母親の作る弁当が内海だけでなく私たちにとっても特別であるということ。好きな人のことを思って悩むハツ美と時田の愛おしさも。アイコンを自分の写真に変える内海の姿も。

普通なんていうものはどこにもなく、全てが特別であるということ。そうであるから、内海は特進クラスには入らず「もう少しだけ」暇つぶしを続けるのです。

河川敷で交わす言葉は無くなっても、電子上において、また未来にて、この尊い時間はもう少しだけ続いていく。その愛おしさを、彼らが教えてくれた。

2017年ベストミュージックのお話。

順不同。今年を彩った20タイトルです。

 

Nulbarich / Long Long Time Ago

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001336j:image今年知り、すぐさま私の音楽シーンに入り込んできたアーティスト。中でも「In Your Pocket」を聞いたときの衝撃ったら。色んなものが融解されていく音楽。

 

欅坂46 / 真っ白なものは汚したくなる

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001351j:imageとにかく「エキセントリック」と「月曜日の朝、スカートを切られた」の突拍子のなさよ。パフォーマンスも一級品だけど音源だけで魅せられてしまう不思議な魅力がある。

 

Avicii / Avīci(01)

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001354j:image全曲耳に残ってる。まさしく今年を彩ってくれたアルバム。

 

OKAMOTO’S / NO MORE MUSIC

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001406j:imageドラマ『火花』を観てからハマったロックバンド。「90’S TOKYO BOYS」のノスタルジーとセンシティブなメロディがたまらない。

 

Juice=Juice / Fiesta!Fiesta!

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001419j:imageハロプロ新体制組の中で一番化けて、期待のできるグループ。出だし、段原瑠々さんの歌声でもうノックアウト。ちなみに、一番期待してて頑張って欲しいのはこぶしファクトリーです。

 

Hailee Steinfeld / Let Me Go

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001428j:imageヘイリー・スタインフェルドという逸材。『スウィート17モンスター』という映画を観て(『はじまりのうた』も!)知ったわけだけど、アーティストとしての才能も引く手数多。女優業とともに追っかけ続けたい。

 

小沢健二SEKAI NO OWARI / フクロウの声が聞こえる

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001441j:image小沢健二という誰かにとっての神様が、私の世界にも君臨しました。彼の全盛期に生きてこなかった私にとっては、まだ分からないことが多い。でもそこがいい。

 

雨のパレード / Shoes

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001505j:imageボーカルがイケメンなだけで売れてるバンドではない、ということはこの曲を聴けばすぐわかる。電子音の鳴り響くメロディラインに波の音のような安らぎを感じる。

 

シャムキャッツ / Friends Again

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001513j:image何と言っても「花草」が素晴らしい。情景描写の豊かさと気だるそうな歌声が、私をどこか遠いところへと連れていってくれる。

 

Suchmos / FIRST CHOICE LAST STANCE

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001519j:image2010年代に生きているという確かな質感。「エモい」と「グルーヴィー」はほとんど同じでしょうか。ならば流行って当然ですね。この国で唯一「インスタ映えする音楽」を奏でられるバンドなのでは。

 

adieu / ナラタージュ

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001531j:image野田洋次郎が作詞作曲を務めた表題曲の「ナラタージュ」も同題の映画と比べて断然心に入ってきやすいけど、私は2曲目の「花は揺れる」を聞いてその歌声の虜になった。注目していきたい。

 

Nona Reeves / MISSION

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001538j:imageポップソングの極み。こんなに楽しくさせてもらっていいんですか?となぜか謙遜の気持ちが生まれてしまう。それほどに、反則級に、楽しい。

 

モーニング娘。'17 / 若いんだし!

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001549j:image

若いんだし
興味あるし
やってみなきゃわかんないことも
あるだろし
WOW WOW WOW
何度もチャレンジすりゃいいじゃん!

卒業公演でこの歌を歌う 工藤遥さんの姿を見て、「がんばろう」そう思えた。

 

宇多田ヒカル / あなた

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001936j:imageこのために家にはテレビがあったのか、と。『DESTINY 鎌倉ものがたり』の宣伝が流れるたびに「あなた」への思いを馳せることになります。何もかも、好きだなぁ。

 

TENDRE / Red Focus

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001556j:image日常とともにあるミュージック。詩が短く、そのぶんメロディを堪能できる。行間を読まずにはいられない「ジム・ジャームッシュの映画」のような音楽(適当)。

 

Base Ball Bear / 光源

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001602j:imageベボベは神です。胸がぎゅっと締めつけられる。

 

羊文学 / トンネルを抜けたら

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001608j:imageまだあどけなさの残る歌声とメロディが、物語の始まりを予感させる。

 

ASIAN KUNG-FU GENERATION / 荒野を歩け

f:id:bsk00kw20-kohei:20171213001643j:image夜は短し歩けよ乙女』の主題歌となった「荒野を歩け」のドライブ感がたまらない。

 

あいみょん / 青春のエキサイトメン

f:id:bsk00kw20-kohei:20171221101953j:image真に迫る歌詞とポップなメロディの融合。痛いけど楽しい、みたいな。その感覚が新しくて気持ちいい。

 

Sam Smith / The Thrill of It All

f:id:bsk00kw20-kohei:20171221102819j:imageこのアルバムさえあれば生きていける気がします。