縞馬は青い

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君はここから出られないのだ、夏!/長久允『そうして私たちはプールに金魚を、』

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見てくださいよ、この少女たちの煌めきを。かっこよすぎるでしょ…。

本作『そうして私たちはプールに金魚を、』は、第33回サンダンス映画祭の短編部門でグランプリを受賞した作品。この映画祭もその栄冠もどれくらい凄いのか判断しかねるんですが、なんでもこの映画祭によってタランティーノデイミアン・チャゼルが発掘されたらしいです。まぁそんな付随品はどうでもいいのでこの映画を見ていただきたい。ファーストインプレッションは相米監督の『台風クラブ』で、それほどに衝撃的で青々しくてグッときた。

この映画、演出も脚本もルックもハイクオリティでエキサイティング。27分という短さで40以上ものシーンが繰り出さられていくのでドライブ感もリズム感もすごく良くて、もはやグルーヴすら感じてしまうほど。音楽を消費するように気軽に何度も再生させてしまう恐ろしい映画です。

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舞台は埼玉県狭山市。4人の少女たちは「海」が無くて「狭い」という文字が堂々と入り込んでいるこの町のことが大嫌いで、でも一生ここからは出られないという諦めを感じながらその"閉塞感"と日々格闘している。

どうせ出られないのだこのダンジョン
奇跡が起きないと鍵が開かないシステムなんだ
例えばさ
14と15の間に新種の数字を発見するとか
ちょうど3時に猫に会うとか
服がたまたま信号機とか
トイレの天井にチワワの霊を見つけるとか
朝日と同時にC7鳴らすとか
そういう奇跡がいくつか続いてやっと鍵が外れる
ハードモードのダンジョンなのだ

そう、この世はダンジョンなのだ。よっぽどの奇跡が起きないとここからは出られない。「海」がない町で水泳部に所属しているという彼女たちの姿が象徴しているように、彼女たちは大きな海へと続くことのない小さなプールで泳いでいるしかない。しかしそれでも彼女たちはこの世界の外に出るという一縷の望みを捨てないでいて、本作でのそれは「ゴミ箱」や「コップ」、「金魚すくい」など、「穴を覗く」という画でもって象徴的に描かれていく。この世界のどこかに異世界へと繋がる入り口はないものか、あるいはダンジョンを抜け出る出口はないものか。この狭山市という小さな町は、『ストレンジャー・シングス』のような世界とリンクしていき、彼女たちは「裏世界」を抜け出したいウィルやウィルを探し続けるマイクたちのように「脱出」(もしくは「生還」)を求め続ける。

そういった「脱出」のイメージが最後、「プールに金魚を」放つという行動に巧みに繋がっていくのである。もちろん金魚というのは彼女たち自身に他ならない。金魚すくいのポイでは一匹も掬(救)ってやれないけれど、どうにかして異世界を見せてあげたい。この行動は、彼女たちのそういった執念が生み出した最大限の挑戦であった。しかしその決意をもってしても「結局」彼女たちの人生は何も変わらない。

私たちはいつも「結局」だ
「結局」真っ暗で
「結局」綺麗な金魚は見れなかった。
「結局」次の日には事件になっちゃって
「結局」バレて怒られて停学になった。
「結局」そんで夏は終わった。
「結局」受験もそこそこにやって
「結局」そのままどうでもいい高校に入る。
「結局」私たちはこの町から出ないだろう。
「結局」何も変わらない。
「結局」私たちがやったことに
意味なんて一つもない。
「結局」…

本作では「穴を覗く」というイメージに加えて「赤と白」が執拗に映し出されている。それは、カルピスに刺さる赤いストローや居酒屋である笑笑の看板、ボウリングのピンなどであるが、このイメージは果たしてどこに繋がっていくのか。前述した『台風クラブ』があのような形で幕引きするように、本来「赤と白」というイメージで白が制服となると赤には「血」や「死」というものを連想させる。ところが本作で彼女たち(白)に対応するのは「血」ではなく「金魚」の赤だ。自殺でも殺人でもなく、「金魚400匹窃盗事件」である。

本作の主題歌は1971年にリリースされた南沙織の「17才」をアレンジした曲である。この歌の「わたしは今生きている」という歌詞が鮮烈で本作でも少女たちがこの歌を歌うシーンが印象的な画でもって描かれている。彼女たちに渦巻く感情は恐怖、退屈、葛藤、挑戦、反抗など様々だ。そのような感情を抱きながらしかし驚くくらい「生きている」ことを実感していく彼女たちの姿は美しい。

自殺ではなく金魚を、。
そう。人生なんて「結局」なのかもしれない。しかしそれでも世界を変えようとする彼女たちなりの「生」の渇望と強く輝く瑞々しさに胸を撃たれてしまった。f:id:bsk00kw20-kohei:20180103194933j:image

p.s. 少女たち4人の演技がすんばらしかったです。心を動かす演技とはこのことだ。

 

追記f:id:bsk00kw20-kohei:20180103212234p:image以上がこの作品に影響を及ぼした映画みたいです。映画見過ぎだし盛り込みすぎですね。最高っす。

Vol.2 サンダンス映画祭グランプリ作『そうして私たちはプールに金魚を、』を完全解剖!<前編> ゲスト:長久 允監督 | OTAMIRAMSのクリエイターに効く映画学 | Shuffle by COMMERCIAL PHOTO より引用