縞馬は青い

縞馬は青い

映画とか、好きなもの

劇団アンパサンド『それどころじゃない』

2022.3.26@アトリエヘリコプター

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うつ状態を表現したような演劇である。20秒に一回くらい、爆笑するタイミングがある可笑しい演劇である。でも可笑しな状況と並行してずっと目の前では怖いことも起きていて、笑うのと同時に気持ち悪さを覚える。這っているネズミを見る気持ち悪さというよりは吐き気がするタイプの心の中の気持ち悪さ。いやネズミも這っていたかもしれない。最後まで落ち着くこともなく最大に狂いながら笑える展開で終わる珍しいタイプのこの演劇だから、帰り支度をする間もずっとニヤけてしまったし駅に向かう道中でも面白かった〜と何度も口から漏れたのだけど、家に帰ってきてあの情景の怖さに再び気づかされる。まずリアリティのある日常会話から劇は始まり、徐々に平凡な日常に歪みが生まれていく。気づいたときにはもう取り返しがつかないでいる。水が飲めないという大きな事件を置いておいてお茶が飲めてしまったら、それで満足してしまうじゃないか。水が飲めないということを忘れてしまうじゃないか。こんなことを言う登場人物がいたが、とてもクリティカルな話だと思った。自分にとって大事だったあの怒りもこの哀しみも、ぜんぶなあなあにして生きていると終いには取り返しがつかなくなってしまう。これは『ドライブ・マイ・カー』と同じ主題だ。同じなのだけど、それが「つまめるもの出しますね」と言って棒がついてるタイプの飴ちゃんを持ってきたり歯を矯正したから見てほしいと言いながらもずっとマスクを着け続ける人がいたり極めて小さな事柄から違和感が端を発していくからこの演劇は面白い。唇が紫の女性が、寒そうだと周りに決めつけられながら、いやぜんぜん寒くないんですと訴え続ける描写はまた違う怖さがある。なぜ人は見かけで決めつけてしまうんだろう。この話とその話、リンクしているようには見えなかったけど、不感症とカテゴライズはともに現代の病。日常に潜むいちばん身近なホラー。次は6月に公演があるらしい。絶対観に行きます。