縞馬は青い

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映画とか、好きなもの

血のつながらない家族をつなぐもの/常盤司郎『最初の晩餐』

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「食卓」ってとても不思議なものだ。家族がそろって机を囲み、同じものを食べる。みんなで一緒にテレビを見ることがなくなり、ましてや一緒に外に出かけることがなくなっても、食卓だけは、家族が集い同じものを享受する場所として残っていたりする。みんな食べたいものが違っても、そこでは同じものを食べることを強いられる。ときにそれは“個食”や“孤食”として家族の分解を意味するようになったりもするけれど、それはだいたい「テレビを見ること」や「外に出かけること」などの後にやってくるものだろうから、食卓は、家族が「家族」たりえる最後の砦としてあるように思う。

本作の「家族」は、父母のお互いが再婚をした末に生まれたステップファミリー。血のつながらないもの同士が新たにつくる家族だ。そしてそれは、夫婦の間に子どもが生まれることでできる(中動的な)家族と比べると、いくぶんか能動的な側面が大きい。ちゃんと「家族」になれるかは分からないけれど、お父さん(永瀬正敏)は家族を“つくろう”とした。そして彼と家族の面々が“つくる”ちょっぴり風変わりな「料理」はこの新たな家族の表象として、これまた家族が共有する場所である「食卓」に並ぶことになる。それはまるで、真っ白な画用紙にこれから自分たちが辿る未来をスケッチしていくように。

卵とチーズの異色の組み合わせによる目玉焼きや合わせ味噌を使った味噌汁は、2つの家族が1つになろうとする過程を捉え、ホクホクな焼き芋や魚の骨は、家族が溶け合い、つっかえを取っ払っていく時間の経過とシンクロする。息子が好きだと言えば嫌な顔ひとつせずにピザにキノコを載せるし、ツナ入りの餃子も食べるだろう。娘はラーメンに紅生姜を載せ*1、息子はすき焼きに食べるラー油をかける。彼らにはない、赤(血)というワンポイント。それは重要なものかもしれないけれど、彼らはそれ以上のつながりをなんとか模索していく。

食卓を彩ることで家族は家族であるという認識を強めるが、やがて「秘密」が暴露され、家族は離散する。「家族ってなに?」そう彼(染谷将太)が問うように、血のつながりがないものたちがバラバラになり、彼らをつなげた食卓も失ったとき、果たして5人のあいだにはなにが残るのだろうか。そんな疑問を投げかけながら、本作ではやはり「食卓」が、もしくは料理の「味」が、家族をつなぐものとして機能することになる。食卓は、家族が模索しながら歩んできた道程そのものだった。

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家族映画にはまぁだいたい食卓が登場するけれど、それをメインに据えた作品はなかったと思うので意外と新鮮な映画。永瀬正敏斉藤由貴窪塚洋介戸田恵梨香染谷将太と豪華キャストがつくり出す家族のなかで一際輝きを放つのは、しかしその誰でもなく戸田恵梨香の子ども時代を演じた森七菜だったように思う。伏し目がちな斉藤由貴も哀愁漂っていてよかったけど。岩井俊二の新作『ラストレター』でも広瀬すずと並ぶ役どころの森七菜さん。めっちゃ楽しみ。

 

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映画『最初の晩餐』予告編

*1:彼女は最初、“赤”味噌を「濁っている」と言って遠ざける。