縞馬は青い

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映画とか、好きなもの

あなたと私、目があった/森下佳子『だから私は推しました』第1-2話

m.youtube.comアイドルが髪を切る。そこに圧倒的な生の煌めきと幸福感が宿るのは、やっぱりこのMVを思い出してしまうからなんだろう。髪を切るなんてほんの些細な出来事かもしれないけれど、それを彼女が軽やかに踊りながら見せると、「何かいいことが起きそうな予感」に世界が満ち溢れる。似たような「予感」を、NHKよるドラ枠ではじまった『だから私は推しました』というドラマの第1話を見ていて感じた。いい予感か悪い予感かはまだわからないけれど、「何かが起きそう」という予感が漂っているのだ。

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このドラマの主人公・遠藤愛(桜井ユキ)と彼女が“推す”ことになるアイドル・栗本ハナ(白石聖)は、まるで運命に導かれるようにしてある日突然、出会うことになる。地上と地下、OLとアイドル、出会うはずのなかった彼女たちを引き寄せるのは、「私は推される側の人間にはなれなかった」という悲痛な現実だ。アフターファイブはジムにヨガ、週末は彼氏とデート、平日の夜には映えるレストランで女子会をして、インスタでいいねを押してもらうことを生きがいにしていた愛。彼女はその日、恋人にイタいと言ってフラれ、落としたスマホを求めて彷徨うと、地下のライブハウスにたどり着いていた。そこで見たのは、キラキラしたアイドルのなかにひとりだけどうしようもなく歌とダンスが下手くそで、「なんでそこにいるの?」と突っ込んでしまう女の子。その子の惨めさに自分を投影してしまった愛は、酔いにまかせて暴言をぶちまけてしまう。「なんだよその前髪!コミュ障かよ!」って。最悪の出会いだった。もう会わないだろうと決め込んでいたものの、彼女への罪悪感とそこにいた「自分の分身」のようなハナのことが気になって、愛は後日、もう一度ライブハウスへと訪れることになる。しかしそこには、前に会った時とは違う、前髪を切って少しだけ堂々としたアイドルの姿があったーー。

「だから私は推しました」。“推す”理由となる「出会い」はこのようにして紡がれる。このドラマでどこまで深く語られるかはわからないけれど、ハナへとぶつけた暴言はきっと、すべて愛自身のことなのだろう。前髪のこともたぶんそう。前髪を上げて自信満々かのようにおでこを出す愛と、前髪を切ったハナとの身体の照応が、彼女たちの同質性を強く決定づけている*1。一転して気になるのは、刑務所らしき薄暗い部屋にいる目にかかりそうなくらいの前髪をした愛の姿。地下のライブハウスにも似た「陽の当たらない場所」で瓜田を押し倒すまでの日々を訥々と語る愛は今、何を思っているのか*2。そこに見る一定の不穏さ。

「推した理由」が「押し倒した理由」に徐々につながっていくという物語の構造にも言えることだが、このドラマではそうした因果応報的な、宿命的な愛の行動を軸にストーリーが進んでいく。そこでさらに気づくのは、愛が、「一度消えたはずのものに導かれている」点だ。“落とした携帯”が地下へと誘い、“人格を否定した”ハナに生きがいを見出す。“切られたクレーム電話”はまるでハナへの暴言と同じで、身につまされた愛は再び会いに行くことを決意する。そうなると気になるのは、愛がバカにした「オタク」という言葉や、第2話の時点でいなくなった瓜田が、今後どのように物語へと関わってくるか。人生の“いいねを無くした”愛が、ハナとの出会いを通して再びいいねを取り戻すまでの記録。になってほしいというのが、率直な願いだ。いやはや、『あまちゃん』や『武道館』などアイドル側の視点に立ったドラマは数あれど、アイドルオタクとともに描くドラマは珍しいのでとてもわくわくしている。とんでもない作品が生まれそうな「予感」に満ち溢れてはいませんか?

*1:彼女たちの服を中心に目立っているドラマのイメージカラー的な「黄色」も気になるところ。

*2:“また、「サニーサイドアップ」というグループ名には、「『サニーサイド』という日の当たらない地下の反対である日向と意味する言葉と、『ダウン』の対義語である『アップ』。もっと上に行きたい、日向を目指したいと思いながらも今置かれている場所で腐ることなく活動している熱意あるグループを描きたいという意味が込められています」と話す。”ーーhttps://thetv.jp/news/detail/197443/p3/