縞馬は青い

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映画とか、好きなもの

浜辺美波が教えてくれる この世界の美しさ/月川翔『君の膵臓を食べたい』

 

君の膵臓をたべたい Blu-ray 通常版

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〈A面:君と僕 私と彼〉

私が一年前に塾講師のアルバイトをしていたとき、大学受験を控えた高校3年生の生徒が「生きることがつらい」「受験で失敗するのが怖い」とある日突然私に言った。勘が良くて、考える力を持っていた彼は自分の辿る未来を想像することができ、その未来に絶望していた。もちろん未来なんてどうなるか分からないんだけど、彼はこの世界に希望を見出せず、想像できない未来へのスタートを切ることに怯えていたように見えた。

そんな彼がセンター試験の頃(ちょうど一年前くらい)に私に「面白かった!」とおすすめしてくれたのがこの映画の原作小説だった。彼は読書好きであり、こんな風にしていつも好きな小説のことを話してくれる。そんな中でも、目を輝かせてこの小説のことを話してくれる彼の姿は、今までで一番熱がこもっていた。私は彼が「生きる」ことを楽しんでいる姿を見て、涙が出そうになった。f:id:bsk00kw20-kohei:20180202192227j:image

DVDレンタルが開始され、映画版にはなってしまったけれど遂に本作を手にとることができた。タイトルや予告編からなんとなく物語は想像できていたのだけど、予想していたよりも泣いた。涙が止まらなかった。

本作は"君"と"僕"が「君の膵臓を食べたい」という言葉を交わし合うことによって、心を通わし、一体化し、強くなっていく物語だ。君と僕の性格は正反対で、でもどちらも"強さ"と"弱さ"を持っていた。私はこの映画の"僕(志賀春樹)"(北村匠海)に自分を重ねる。おそらく私の生徒だった彼も、彼とこの登場人物を重ねていたように思う。この「僕であり、私であり、彼である人物」の弱さは、一人で殻にこもっていること、そして、楽しさや苦しさから逃れようとしていることだった。人と接することによって得られる喜びや楽しさはもちろん幸福に感じていたけど、裏切られたときの苦しさや、嫉妬している自分の愚かさなどに触れたときに人と接することの面倒臭さを感じてしまうのだ。

さよならをして悲しませるくらいならば仲良くならないほうが良かった

私たちはこう思ってしまう。相手も自分も悲しんでしまう未来があるなら、最初から出会うべきではない、と。しかし、"君(山内咲良)"(浜辺美波)はちょっと違った。もうすぐ死んでしまうというのに、僕と仲良くなろうとしていた。

積極的な君に対していつも受け身な僕。君といる時間は楽しいけれど、すでに失われている未来と対面するのが苦しかった。そんなふうに、人と接することに恐怖を抱いている私たちを"君"は最後に優しく肯定してくれた。

私、そんな春樹に憧れてた
誰とも関わらないで、たった一人で生きている、強い春樹に

私は弱いから、友達や家族を悲しみに巻き込んじゃう。でもね、春樹はいつだって自分自身だった

春樹はほんとうにすごいよ。だからその勇気をみんなにも分けてあげてください
そして誰かを好きになって、手を繋いで、ハグをして。鬱陶しくてもまどろっこしくても、たっくさんの人と心を通わせて、私のぶんまで
うん、
生きて

私ね、春樹になりたい。春樹の中で生き続けたい。ううん、そんなありふれた言葉じゃダメだよね
そうだね、君は嫌がるかもしれないけど、
私はやっぱり、

君の膵臓を食べたい


前途多難であり前途多望である中高生に、この作品が届くことは大きな意味を持つだろう。この小説を読んだ彼が専門学校へと進むことを決めたように、本作は、苦難多き若者の背中をそっと優しく押してくれる。

 

〈B面:浜辺美波という逸材〉

次の駅で新幹線に乗り替えます
君も覚悟を決めなさい

f:id:bsk00kw20-kohei:20180202192242j:image日本アカデミー賞の作品賞にノミネートされたこともあり本作を手に取りましたが、本作の主人公である浜辺美波北村匠海は同賞において新人俳優賞を受賞しています。彼らの演技、うまいとか感情移入できるとかいう類ではないのだけど、一言、気持ち良かった。例えば上にあげたこのセリフ。最後の「決めなさい」の部分で尻上がりになる発声の良さ。なんとなく『ミステリートレイン』や『台風クラブ』の工藤夕貴を彷彿とさせるのです。またそれに加えて、「図書室」「高校生」という設定から連想する映画『Love Letter』の中山美穂も被さってくる。ちょっと昭和的というか、バブリーというか。私はまだ22歳で、実際にその時代を生きたわけではないのだけど、ミステリアスで透明感がある浜辺美波をそういった名女優に重ねてしまいました。

そして相手役の北村匠海といえば今クールのドラマ『隣の家族は青く見える』でゲイの男の子を演じています。中性的な言葉遣いと行動が特徴的な役柄で、この演技はすごく難しいと思うのだけどその女性っぽい部分に「浜辺美波(山内咲良)」要素を感じてこれまた面白いです。彼の発声、「わーたるん」のような尻上がりな口調は、浜辺美波の影響を受けてるんじゃないかなぁ、と勝手に予想しています。すごく聞きとりやすくて、心に入り込みやすい優しいトーン。その心地よいトーンは『君の膵臓を食べたい』にも『隣の家族は青く見える』にもぴったりとフィットしていきました。

bsk00kw20-kohei.hatenablog.com

 

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

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