縞馬は青い

縞馬は青い

映画とか、好きなもの

映画

人生の豊かさについて/エドワード・ヤン『ヤンヤン 夏の想い出』

2018.6.12 先日報道ステーションに是枝監督がゲスト出演していて、その時に語っていた言葉はどれもが印象的だった。その中でもキャスターからの「どうして家族を撮るんですか」という問いに対する答え。 「家族ってやっぱりおもしろいんですよ。ひとりの男性…

静から動への暴力的転換/濱口竜介『PASSION』

2019.3.17 下高井戸シネマ 半年ぶりくらい2度目の鑑賞だけど、何度見ても理性を失いそうになるくらい惹かれてしまう映画だ。濱口竜介の作品はすべてそう。非現実的な会話の応酬によって登場人物たちが連鎖的に突き動かされ、あるいはそもそも“行動的な人間”…

踊るしかないこんな夜は/二宮健『疑惑とダンス』

2019.3.3/3.10 ユーロスペース 『チワワちゃん』で岡崎京子の原作をセンセーショナルに現代へとアップデートしてみせた平成生まれの天才監督・二宮健がまたやってくれた。あくまでも個人的な意見だけど、2018年の日本映画界が濱口竜介と三宅唱の1年だったと…

好きな三浦透子を集めてみた

出ている俳優で映画を選んでいた時期が僕にもあった。北乃きい、長澤まさみ、吉高由里子が出ている映画を漁っていたのは中学生くらいの時だったろうか。本格的に映画を見るようになってからはだんだん監督で映画を選ぶようになってきて、好きな俳優が出演し…

厚い雲に覆われた日常/片山慎三『岬の兄妹』

2019.3.1 イオンシネマ板橋 上京する1年前にそれまでの22年間住んでいた田舎には、映画館というとイオンシネマ(昔はワーナーマイカルシネマズだった)がひとつだけあった。たいてい大作しかかからないから、シネフィリーをくゆらせだした大学生の終わりごろ…

『クワイエット・プレイス』との対比に見る「家族の生と死」/グザヴィエ・ルグラン『ジュリアン』

2019.1.26 シネマカリテ 『サスペリア』を鑑賞するにはまだ心の準備が足りないので、とりあえず気になっていたこちらを先に観た。それが、家族映画だと思っていたらとんでもホラー映画だったという、サスペリアよりも怖い可能性がある映画『ジュリアン』。こ…

ひかりの道筋をたどって/杉田協士『ひかりの歌』

2019.1.18 ユーロスペース bsk00kw20-kohei.hatenablog.com ひとつの映画について2度ブログを書くのは初めてのことだ。基本的に、一回長文を連ねてしまうとそれで納得してしまい読み直して的を得ていない内容にムズムズしても新たに文を書くなんてめんどくさ…

背景音のささやかさ/広瀬奈々子『夜明け』

2019.1.19 新宿ピカデリー かなり偉そうな批評になってしまいそうな気がするので最初にひとつだけ。舞台挨拶に登壇した広瀬奈々子監督がかっこよすぎて、まるで俳優のような佇まいと低めの美声を持つ姿に見とれてしまった。しかし、映画を撮るにしてはなんだ…

デフォルメされた青春の死/二宮健『チワワちゃん』

2019.1.19 新宿バルト9 あまりにも鮮烈で、めまいがした。青春時代というのはこうも地獄のような禍々しい見た目をしていて、そこに棲む悪魔はこんなにも美しい鮮血を心に垂れ流し続けているのかと考えると、言いようもない感情に襲われ、ただただ何色でもな…

光は乱反射して暗闇を彷徨いながら、やがて必要な場所を照らしだす/杉田協士『ひかりの歌』

2019.1.13 ユーロスペース 性格柄、映画は自分の知らないことや見たことがないものを見せられたときに大きな感動を覚えることが多い。でもこの映画はそれとは正反対で「見たことがある風景」や「知っている感情」で埋め尽くされているのに、ものすごく心に刺…

My Best Films of 2018

今年ももう終わりですね〜。年間ベストを出すために(そして他の方の年間ベストを見てうわ〜わかるわ〜と頷いたり、へ〜そんなん入ってくんねや〜と驚いたりするために)日々映画館に通ってるフシもあるので、この時期はすごく楽しい。今年は個人的にいろん…

まどろみのなかで出会ったふたり/関根光才『生きてるだけで、愛。』

夜を描く映画ってなんだかものすごく惹かれてしまう。直近でいうと『きみの鳥はうたえる』がそうだったように、本作はもうポスターを見ただけで好きな映画なんだろうなと確信していた。結果すごく好きな映画だった。 夜は暗い。ちょっと怖くなるくらいに夜は…

戒めの映画日記ーー薄給社会人1年生のくせに1ヶ月で16本も映画館鑑賞してしまったことへの。

過ぎてしまったことは仕方がない。と、いきなり開き直る。なんかお金の減り方が半端ないなと思って数えてみたら、今月16回も映画館に通っていたのだ。数えるまでは10本くらいだと思ってたのに、まぁそれでもやばいのだけど。これはお母さんが知ったら驚かれ…

“ガール・ミーツ・ガール映画”が救う世界──『少女邂逅』から『カランコエの花』、そして『21世紀の女の子』へ

サムネイルはロロという劇団の演劇で少女2人の物語を描いた作品。 映画以外にもガールミーツガールが暑かった今年の夏 今年の日本映画界、すごくないっすか? 2016年の勢いをもう一度取り戻しているように見えるのだけど、あの時とも少し違うなっと思うのは…

「天才」と「凡人」とその狭間/月川翔『響 -HIBIKI–』

映画『響-HIBIKI-』が意外なる傑作だった。監督は『君の膵臓をたべたい』、『となりの怪物くん』、『センセイ君主』と、漫画や小説原作を実写化してきた月川翔。どれも手放しで絶賛できる類の作品ではないのだけど、キミスイでは過去の思い出と相まってしっ…

流れついて、また流れて/濱口竜介『寝ても覚めても』

人と人が正面衝突して、そのことによってより深く関係が再構築されていく。濱口竜介監督は、平凡からの崩壊、そして崩壊からの再生を描いてきた映画監督だ。 まだ4作品しか見れてないけれど濱口作品は、なんとなく息苦しい毎日が衝突を機にハレバレとする(…

背中に感じたぬくもりと冷たさと/中川駿『カランコエの花』

(短文レビュー) おもしろい。よくできてる。39分という上映時間からは想像できないほどに、鑑賞後は余韻で胸がいっぱいになる。 ある一つのクラスで唐突に行われた「LGBTについての授業」。その授業を契機に、「俺らのクラスだけこの授業してるってことは…

平成最後の夏、あるいは青春時代の終わりに/枝優花×羊文学『放課後ソーダ日和』

bsk00kw20-kohei.hatenablog.com 映画『少女邂逅』のアナザーストーリーとしてYouTubeで公開されているドラマ『放課後ソーダ日和』が予想以上にグサグサと心に刺さりまくっている。映画が学生時代のリアルな闇の部分を描いていた作品であったから、光に焦点…

映画『未来のミライ』はファンタジーではなく、単なるくんちゃんの妄想物語だ

(短文レビュー) ああいう「おもしろい家」で暮らしてると、創造力というか、妄想が止まらないんだろうな。これはファンタジーというよりも、(単なる)「くんちゃん」の妄想物語なのではないか。 だから未来のミライちゃんが「いきなり」現れることに理由…

そうして暑い夏が始まって/枝優花『少女邂逅』

ときどきある。席を立って映画館から出ても、心だけをその場所に置いてけぼりにしてきてしまうことが。外のむわっとしたぬる~い風だけを肌に感じながら、遠い世界から吹いてくる息吹に持ち上げられ、ふわふわっと宙に浮いてしまうような。映画の息吹を感じ…

飛べないから飛ぶんだ/鄭義信『焼肉ドラゴン』

全面的に指示できる映画ではない。むしろあまり好きではないタイプの映画だったのかもしれない。それでもなにかグサリと刺さる、心がじんじんと火照ってしまう「熱」をつねに感じさせる作品であった。 ときは1969年、高度経済成長期の真っ只中。場所は関西の…

毒キノコはなぜ、かくも美しいのか/ポール・トーマス・アンダーソン『ファントム・スレッド』

彼に恋する事で人生は謎ではなくなるのよ 終盤でアルマが語る言葉。人生は謎ではなくなる。そう、この映画では恋愛や結婚といった人間関係の「からくり」が提示される。その内実は実に高貴で美しく、また滑稽で可笑しく、震えるほどに怖い。ただ、鑑賞中(特…

ビー玉に宇宙を透かしていた/是枝裕和『万引き家族』

なんとも釈然としない映画だ。いや、そんなことは観る前からわかってたことだけど、なんというか、打ちのめされた!って感じ。泣いていいのか怒っていいのか、はたまた笑っていいのかわからないこの感じ。どれもが正しい感情なんだろうけど。うん。カンヌを…

ストロベリーミルクシェイクを飲み干して/リン・ラムジー『ビューティフル・デイ』

映像と音楽が響きまくる特異な映画。リン・ラムジーの演出はあれこれと想像したくなる余白に満ち、ジョニー・グリーンウッドの劇伴はセリフよりも雄弁に状況を物語る。この狂気と愛が混じりあった映画、それが『ビューティフル・デイ』。 ジョー(ホアキン・…

それは幻想か、あるいは忘れてしまった現実か/ショーン・ベイカー『フロリダ・プロジェクト』

なんて美しい世界なんだ。「“夢の国”のすぐ隣には辛く苦しい現実があった」というドロドロに腐りきったこの世界を映しておきながら、どうしてこんなにも彩り豊かで鮮やかになるのだろう。どうしてこの世界はこんなにも美しく、またそれを覆ってしまうほどに…

「芸術のゴールデンウィーク!」と題してポップカルチャーを貪り喰らった一週間のこと

社会人になってはじめてのゴールデンウィークだ。この頃、どうやら自分は孤独が好きではないらしい、と気づきはじめたのだけれど、そうは言っても友だちがあまりいる方ではないし、実家に帰るのもお金がかかるのでこのゴールデンウィークは孤独に、なんの予…

スイートな“恋の始まり”と束縛からの解放/ダニエル・ヒベイロ『彼の見つめる先に』

2010年代になってアカデミー賞ほか世界の映画祭で大きなテーマとして掲げられてきた「多様性」についての一連の考察は、本作において一つの重大な回答を示したのではないだろうか。そう思えるほどに優れた映画であると感じたし、なによりも、すんごくおもし…

伝染する空虚と届かぬ愛/エドワード・ヤン『恐怖分子』

惚れ惚れする印象的な画を並べるためだけのエントリーです。 本作『恐怖分子』における均整の取れた美しい画の根底にあるのは、ビルやマンションの窓、写真、鏡などの四角形。これはおそらく、この映画における4人の主要人物を表している。妻と暮らす現状の…

彼は彼女に魅了され/岩切一空『聖なるもの』

『聖なるもの』本予告編 - YouTube 「新時代の到来」と噂される岩切一空監督の長編最新作『聖なるもの』を観た。初日の舞台挨拶付きで。これがすっごく変な映画で、頭にこびりついて離れないシーンとかしょうもないセリフとか、ガンガン鳴り響く音楽とか可愛…

エロティックな三浦さん/冨永昌敬『素敵なダイナマイトスキャンダル』

『素敵なダイナマイトスキャンダル』本予告映像 - YouTube (短文レビュー) 幼い頃に実の母親が隣の家の息子とダイナマイトで心中をした、という驚きの体験をもつ雑誌編集者・末井昭氏の同名自伝を原作として映画化されたのがこの作品。 「ある一人の人物の…