縞馬は青い

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映画とか、好きなもの

My Best Films of 2019

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兵庫に里帰りしてもわざわざ京都(みなみ会館)まで行って『象は静かに座っている』(4時間弱の超大作)を観にいったり、実家では今年見逃した作品をストリーミング配信でカバーしたり、2019年は最後の最後まで映画を観切った。鑑賞数はだいたい110本くらい。例年は外国映画のほうが全然多かった気がするけど、今年は6〜7割くらいが日本映画になるくらいたくさん観た年だった。得意ジャンルしかブログや評論の文章を書けないってことで偏ってしまっているので、来年はもうちょっと多ジャンルを観たいな〜、ってな感じでさっそく今年のマイベストフィルムベスト20を列挙していきます!

 

20.トッド・フィリップス『ジョーカー』

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2〜5位と10位、20位はかなり迷った。そのあたりの順位は個性が出るところだと思うから他人のランキングを観ていても気になるとこ。20位にいきなり2019年の象徴的作品を持ってきたのは、正直本作への評価があんまり固まっていないからだ……。鑑賞中の陶酔感でいうとベスト10に入れてもいいくらいだったけど、よくよく本作のメッセージを反芻してみると2016年にぶちのめされた『怒り』を越すものではないなとか考えたり。こうやって比べてしまうのもよくないよな。これが公開された後、別の映画で「これもジョーカーみたい」「あれもジョーカーみたい」って感想が溢れかえっていたのが個人的にはちょっと気持ち悪かったんですよね。そんなに普遍的な映画ではないでしょうって。それでも比べてしまうのは、ストーリー的な新しさはない(=現実社会を反映し得てはいないということではないが)からだと言い切ってしまってもいいかもしれない(暴論でございます)。『象は静かに座っている』『幸福なラザロ』『家族を想うとき』のほうがよっぽど辛く、この時代に生まれた意味もわかる。それでも娯楽作としてめちゃくちゃおもしろかったので20位には選びまっせ。そんでDCよくやった!


19.片山慎三『岬の兄妹』

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日本版『ジョーカー』なんて口が裂けても言わないけど、同系統の映画として自国のこの作品の方を強く推したい。ポン・ジュノの助監督とかをしていたらしい監督が、日本の闇をややユーモアも含めつつ鮮烈に描き出してくれていた。ヒロインの和田光沙さんとか、出演者のひとりで『若さと馬鹿さ』の監督でもある中村祐太郎さんとか、非常に将来が楽しみなひとたちがいっぱい出ていた。

厚い雲に覆われた日常/片山慎三『岬の兄妹』 - 縞馬は青い


18.デイミアン・チャゼルファースト・マン

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やっぱりチャゼルの映画が大好きだ。ニール・アームストロングという歴史的大偉人を題材にしておきながら、あまりに暗く孤独な作家性が滲み出てしまうあたりを観て僕はそう強く思い直した。「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」。月に降り立った彼が言ったその名言を「彼にとっては大きな飛躍だけど、人類にとってはあまりにも小さな一歩」である超パーソナルなストーリーにすげ替えた監督の驚くべき手腕。大きな世界を使って個人的な世界を捉える映画としては『アド・アストラ』もよかったなぁ。


17.イ・チャンドン『バーニング 劇場版』

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忘れられない画・音が多すぎる。公開前に何故かNHKで60分に編集されたバージョンが放送されていて観てしまったのだけど、あれがなければもうちょっと好きになっていたかも。「火」が妖艶すぎる。


16.二宮健『チワワちゃん』

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鮮烈。全編を覆うヴィヴィッドなピンク色が、なんだかこれが青春色だよね(ぜったい違うんだけど)と思わせられてしまったから革新的ですばらしい。ちなみに中国の青春映画『芳華-Youth-』もピンク(と赤と純白)だったんだよな。

デフォルメされた青春の死/二宮健『チワワちゃん』 - 縞馬は青い


15.中川龍太郎『わたしは光をにぎっている』

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中川龍太郎は2019年のうれしい大発見だった(『四月の永い夢』も今年観たんですよね)。映像・ストーリー・詩・主題歌、そして役者。すべてが同じ空気感を共有していて観ていて気持ちよかった。そうだから、カネコアヤノや松本穂香に対する愛も一斉にこの作品にぶち込んでしまっている気がする。映画としてちゃんと評価すると、澪がエチオピア料理屋みたいなとこに行くとこが一番よかったかな。東京には意外と人間の熱があることを知った。個人的には、『テラスハウス』東京編でペッペがデイリーヤマザキに行く場面との照応にグッときている。

言霊と光、心を導いて/中川龍太郎『わたしは光をにぎっている』 - 縞馬は青い


14.深田晃司『よこがお』

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観ながら沼にずんずん引き込まれていく感覚はなかなか得られるものではない。受動的な媒体である映画の怖さを体感する瞬間が詰め込まれていた。


13.ラーズ・クラウム『僕たちは希望という名の列車に乗った』

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脚本のうまさでいうと今年いちばん印象に残っているかもしれない。心地いいテンポ感で何度も切り返していく感じ。若い役者たちの顔もすごいよかったな。


12.白石和彌『凪待ち』

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『ひとよ』よりも圧倒的にこちらが好き。香取慎吾の汚れ方もいいし、恒松友里の通り抜ける声もいいし、ラストはもう完璧。思い返すとやや物語的すぎる気もするが。白石監督が擬似家族を撮ったことに感動を覚えたから逆に『ひとよ』では拍子抜けした。


11.ジョシュ・クーリー『トイストーリー4』

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トイ・ストーリーにそんなに思い入れがないからかもしれないけど、3に負けず劣らずこれもよかったよ。興奮がずっと持続する100分間だった。

僕たちはどこで生きていく?/ジョシュ・クーリー『トイストーリー4』 - 縞馬は青い


10.二宮健『疑惑とダンス』

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ということで10位にはインディーズ映画を。二宮健が2度目の登場である。映画的には『チワワちゃん』のほうがすごいんだけど、ミニマルすぎる設定・舞台と役者に委ねられたものの大きさからすれば、これ以上の着地点はないと思う。ことし劇場でいちばん笑った映画だし、「映画で遊ぶ」という監督の姿勢も気に入った。もっと遊んでほしい。

踊るしかないこんな夜は/二宮健『疑惑とダンス』 - 縞馬は青い


9.片渕須直『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

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実は2016年にオリジナル版を観たときは案外ピンときてなかった映画。このたびの新作では大幅に映像が追加されただけでなく、全体的にかなり編集が加えられていたようで、全く新しい作品になっていた。(昭和)19年→20年と進んでいく物語の構成が、2019年→2020年と進む現在時間と妙に一致しているように思えたのが評価する最大の理由だ。もちろんそんなわかりやすい数字だけじゃない。この荒み切った世界で、たしかに生を紡いでいる人々の姿に以前より感情移入できる場面が多すぎた。


8.塩田明彦『さよならくちびる』

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まずは主要役者3人が最高。賛否分かれるとこではあるけど僕は音楽もすごい好き。そして何よりも、映画的演出の見事さに陶酔した。車に乗ったり降りたりするだけの映画。なのにこんなにおもしろい。

境界線を溶かす「音楽」という魔法ーー映画『さよならくちびる』で反復される“不在”と“存在”の意味 - 縞馬は青い


7.西谷弘『マチネの終わりに』

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昨年の『ファントム・スレッド』『ア・ゴースト・ストーリー』の枠はこの映画に与えたい。亡霊的恋愛映画枠とでも言えるだろうか。

狂う男、狂わされた女ーー死の季節に生が薫る『マチネの終わりに』 - 縞馬は青い


6.真利子哲也『宮本から君へ』

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ドラマでは新卒サラリーマンの仕事の奮闘を描き、映画では彼の恋愛に主眼を置く。現在の東京にいてあの歳で結婚するやつはいないし、こんな暴力的なコミュニケーションが存在する世界は知らない。しかしそこのリアリティを吹っ飛ばしてもこれだけ心を鷲掴みにされてしまうのはなぜなんだ。それは、徹底的に男性性を駆逐していく主人公・宮本の姿があったからだと思う。ほんと熱量が高すぎた。


5.今泉力哉『愛がなんだ』

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もうね〜これに関しては好きとしか言いようがないよな〜。語りたくなる部分もめっちゃ多くて何度でも感想ブログを書けそうだけど、とにかく好きなんだよ、テルコやナカハラっち、マモちゃんも。みんな。

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4.ノア・バームバック『マリッジ・ストーリー』

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東京国際映画祭で観たときに劇場が笑いに包まれたり悲しみに暮れたりしていたあの時間を忘れることができない。アップリンク吉祥寺の静かな環境でもう一度観直して、傑作だと確信する。結婚生活の記憶が「手紙」を媒介して相手に届くという冒頭と締めの巧さ。アダム・ドライバーが「Being Alive」を熱唱する場面は映画史に残る名シーンだ。

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3.石井裕也町田くんの世界

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映画の世界だけでは「奇跡」を信じさせてくれ。思えばそう願い続けた一年だったようにも思う。細田佳央太と関水渚という新人俳優がとにかく素晴らしい映画だったし、遠景の追いかけっこシーンはいつまでも忘れることがないと思う。彼らの“身体のバタつき”がいやに愛らしかった。

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2.ケン・ローチ『家族を想うとき』

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非常に辛い映画だ。『町田くんの世界』のほうが好きかもしれないと何度も自分と相談しながら、戒め的な意味も込めてこの位置に置いておいた。現実は確かにこうひどくなっているかもしれない。それでも辛くなりすぎないのはその世界を愛ある家族を通して見せているからだと思う。つらいけど好きな映画です。

 


1.杉田協士『ひかりの歌』

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1月13日に観た作品が本年のベスト映画です。揺るぎようのない超強度なフィルムだった。そして言うなれば、『ジョーカー』や『家族を想うとき』『象は静かに座っている』といった苦しい映画を経たからこそ本作への思い入れがさらに強くなっていったように思う。この世界にはひかりがある。それだけで十分で、それがすべて。

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特別枠:山中瑶子『おやすみ、また向こう岸で』

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9月20日TOKYO MXで放送された20分くらいの作品。一応「ドラマ」ではあるらしいけど、映像作品としての完成度の高さに舌を巻いてしまったのでピックアップさせてください。山中監督の次回作はぜひ映画館で観たい。

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【2019ベスト映画20】

  1. ひかりの歌
  2. 家族を想うとき
  3. 町田くんの世界
  4. マリッジ・ストーリー
  5. 愛がなんだ
  6. 宮本から君へ
  7. マチネの終わりに
  8. さよならくちびる
  9. この世界の(さらにいくつもの)片隅に
  10. 疑惑とダンス
  11. トイストーリー4
  12. 凪待ち
  13. 僕たちは希望という名の列車に乗った
  14. よこがお
  15. わたしは光をにぎっている
  16. チワワちゃん
  17. バーニング 劇場版
  18. ファースト・マン
  19. 岬の兄妹
  20. ジョーカー

特別枠:おやすみ、また向こう岸で


鑑賞数に比例して日本映画が多数を占めるランキングになりました。この世界には愛があって、それだけで十分だ、っていう最後の結論は楽観的でしかないけれど、2位に『家族を想うとき』を入れていることでなんとなく意図を汲み取ってもらえると思う。ランク外なのに何度も言及している『象は静かに座っている』(めちゃくちゃしんどい中国の現代風刺映画)は思ったより心にグサリと刺さる作品だったようです。ちなみに旧作映画は『女っ気なし』『オルエットの方へ』『友だちのうちはどこ?』がさらなる映画への興味を広げてくれて、国内テレビドラマは『デザイナー 渋井直人の休日』『だから私は推しました』『グランメゾン東京』『グッドワイフ』『腐女子、うっかりゲイに告る。』が好きだった。(『パラサイト 半地下の家族』とか海外では2019年公開のこぼれ作もあるし)2020年はたぶんめちゃくちゃに豊作の1年になると思う。ノーランの新作『TENET』を観るのが一番楽しみで、今泉力哉監督の新作『街の上で』がどれだけ映画ファンに受け入れられるかも見もの。来年もいい映画に出会えるよう祈っています。

 

【追記】今年の日本映画振り返り

今泉力哉作品を筆頭に2019年は恋愛映画が豊作の年であったように思う。2018年の『きみの鳥はうたえる』『寝ても覚めても』『生きてるだけで、愛。』の流れを汲みつつ、より多様化する恋愛映画に接することができた一年だった。恋愛リアリティショーが流行して久しく、若者の恋愛離れも進んでいるように思われる昨今、ドラマや映画で恋愛を描くのは難しくなってきたと言われることも多い。しかしそれでも世に受け入れられる物語の形式はまだまだある。というか、まだまだみんな恋愛物語が好きなんだろうなと思う。長々と恋模様(すれ違い等)を描くドラマよりは、『愛がなんだ』や『マチネの終わりに』『宮本から君へ』のようにテーマ性が見えやすい映画のほうが恋愛を描きやすくなっているというのは一つ言えることかもしれない。ジャンルもので言うと青春映画と家族映画もいい作品が多かった。『町田くんの世界』や『ホットギミック ガールミーツボーイ』のように、従来のキラキラ映画から進化を遂げたような作品がいっぱい出てきたのも忘れられない。ただ、これまで青春映画を多数輩出してきた映画祭「MUSIC LAB」にひとつも青春映画がなかったのは印象的だ。その代わりに多かったのは、これまた恋愛映画ではなかっただろうか。家族映画は多すぎて見逃したものもあるけれど、『最初の晩餐』『凪待ち』『岬の兄妹』『沈没家族』がすばらしかった。『マリッジ・ストーリー』と『家族を想うとき』、『アス』などの外国映画もよかったから微妙に影に隠れているけど。『パラサイト 半地下の家族』もそうだし家族映画はここ数年でとでも重要な位置を占めはじめている。今年1位に選出した『ひかりの歌』(これも純然たる恋愛映画)のように、インディーズ映画にもまだ見ぬ底力、魅力がある。インディーズもほんとうにレベルが高く期待している若い監督もたくさんいるので今後もめちゃくちゃ楽しみなのである。ということで来年もさらに日本映画を深く彫っていきたい所存です!

 

ハロプロ日記(2019年12月)

早くお雑煮を食べたい。そんなはやる気持ちを抑える12月、年の瀬の東京(から兵庫へ帰省中)。今年の4月からカルチャー日記をつけはじめたんですが、ほぼ毎月ハロプロと千鳥の話をしていたことに気づきました。飽き性の僕がこうなっているのは、ひとえに、新鮮さを供給し続けてくれる彼女/彼らの革新性によるところが大きいと思う。なかでも今月はハロプロコンテンツの摂取量が多かったから、いっそのこと別エントリーにしてしまおうと、こうなりました。いやまぁ里帰りして暇だから書いてるんですけどね。ちなみに相変わらず千鳥の摂取量も多い。

 

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12月4日。国立代々木競技場第一体育館で行われたJuice=Juiceの単独ライブ「Juice=Juice Concert 2019 “octopic!”」へ行った。ハロプログループが一同に集結する“ハロコン”には何度も行っているけど、これまた単独公演を観るのは初めて。昨年東京に来てからアンジュルムモーニング娘。’19と観に行くことができていて、かつて田舎で動画を見漁るしかなかったハロヲタとしてはうれしい限りでございます。そんななかでJuice=Juiceに興味を持ったのっていつだったっけなぁ?って考えてみる。2013年に結成されたころには確かもうハロヲタになっていたから、そのときは新鮮な気持ちで観ていたと思う。でも今思えば、今年のBEYOOOOONDSに匹敵するような興味は抱いていなかったような。ハロプロ研修生のなかでもひときわ歌唱力・パフォーマンスが抜きん出ていた段原瑠々が加入し、既存メンバーの実力の深化も見え始めた2年前くらいから徐々に惹かれていったのだと思う。一応ハロプロをまったく知らない人にも説明しておくと、Juice=Juiceは、軒並みパフォーマンス力が高いと言われるハロー!プロジェクトの7つあるグループのなかでも群を抜いてすべて(歌唱・ダンス・ルックス)のレベルが高いグループ。モー娘のヲタであろうとアンジュルムのヲタであろうと、そこのところの認識はだいたい共有しているくらい、今のハロプロを象徴する実力派集団になっている。そうなると、ハロプロの醸す“ある種の完璧さ“に惹かれている僕としてはハマるのは当然の流れであり…。

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ライブ自体の感想をうまく書ける気がしないんで前日譚の話が長くなっちゃった。そんなわけでいま一番気になるグループのライブに行く運びとなりました。いやぁ〜ライブ、とにかくすばらしかったよね(笑)。黒とシルバーの衣装で最初出てきた瞬間、その神々しさに一瞬でやられてしまった。「女神」。彼女たちに一番似合う言葉はこれじゃないだろうかと思うくらいに。とくに心を鷲掴みにされてしまったのは植村あかりちゃんだ…。ちょっと前まで金髪だったのが黒髪ロングになっていて、これまた「神々しさ」としか言い表しようのない“美の化身”ぶり。デビュー時からの歌唱力の伸びがいちばんなメンバーだと思うけど、実際みてみるとそのパフォーマンスにも圧倒されてしまった。同じ背丈、髪型の段原さんとのシンメ感も最高。初夏ごろに2人入った新メンバーもやっぱりJuice=Juiceに見合う実力を兼ね備えていて、もうすでに「完璧」へと達していた。グループとして完成され尽くしている彼女たちはこれからどうなっていくんだろう。アイドルには隙があってしかるべきと思う自分もいつつ、これだけ洗練されているともう気持ちよさしかないし、今後も楽しみなのだ。

 

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【ハロ!ステ#319】モーニング娘。'19&Juice=Juice 新曲LIVE映像SP!ハロー!キッチン、つばきファクトリー最新MV公開! MC:山木梨沙&新沼希空


BEYOOOOONDSの快進撃が止まらない。これは自分の心のなかの話ね。レコ大新人賞とか、単独公演を成功させたのももちろんすごいんだけど。前述のJuice=Juiceライブのオープニングアクトとして出てきた彼女たちがとてもすばらしかった。最近発売されたアルバムに収録されている「元年バンジージャンプ」という曲を披露していて、これがもうね…今年ベスト級の神楽曲だったんだよね。令和元年の今年しか意味をもたない曲だけど、来年以降もやってくれることを切に願う。昨年のJuice=Juice武道館ライブでもオープニングアクトや幕間で出てきたりしていて(その頃はまだBEYOOOOONDSという名前は付いてなかった)、そのDVDを先月観ていたりしてたから感慨深くなってしまって。単独ライブに行きたい!と思わせるには十分のパフォーマンスでした。行きたいほんとに。とにかくBEYOOOOONDSは1年目にしていい楽曲が多すぎるのだ(後述のハロプロ2019私的ベスト楽曲を参照されたし)。

 


元年バンジージャンプ BEYOOOOONDS


Gyaoハロプロの番組が配信されている。『ハロプロ ONE×ONE』。 11月から始まっていたらしいのだけどあんまりハロプロってプロモーションがうまくないから、そのことに気づいたのは最近でした。ハロプロの番組ってたまにあるんだけど絶妙に興味をそそられない企画内容が多くて、これもどうせおもしろくないんだろうなぁと思ってみたんだけど、「これこれ〜!!」って歓喜してむさぼり視聴してしまったんですよねぇ…。簡単に言うと、企画者となる1人のメンバーが、グループを横断して好きなメンバーと1日デートをするっていう内容の番組。サシでロケするっていうと『けやかけ』でのそれが思い出されるけど、そうした企画を普段交わることが意外とあまりないメンバーたちが先輩後輩やグループの垣根を越えつつやってくれるところに特異性を感じる。そこには普段見えてこなかったメンバー同士の関係性やときには研修生時代から積み重ねてきた長い友情・憧れ・師弟関係・愛の営みが垣間見えたり。普段一緒に活動することのない他グループのメンバーとどうお互いを意識しあっているかって結構気になるところなんですよね〜。第1回の牧野真莉愛モーニング娘。’19)×高木紗友希(Juice=Juice)からゴリゴリにハロプロっぽくて最高。研修生時代の先輩の言葉に支えられて今までやってこれた、って真莉愛が言うそれだけで泣けてしまうのよ。個人的には#2のコンビ(宮本佳林×竹内朱莉)がとっても好きだ。

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12月はカントリー・ガールズの活動休止および全員グループ卒業、アンジュルム中西香菜卒業とお別れが重なり苦しい月だった。ただ悲しみに浸ってもいられないので、とりあえず今年の個人的ベスト楽曲を記します。ハロー!プロジェクト7グループの楽曲から選曲。


1.アンジュルム/全然起き上がれないSunday


アンジュルム『全然起き上がれないSUNDAY』(ANGERME [The Sunday morning that I can’t get up at all.])(Promotion Edit)

2.Juice=Juice/「ひとりで生きられそう」って それってねぇ、褒めているの?


Juice=Juice『「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?』(Promotion Edit)

3.BEYOOOOONDS/ニッポンノD・N・A!


BEYOOOOONDS『ニッポンノD・N・A!』(BEYOOOOONDS [The Japanese D・N・A!])(Promotion Edit)

4.BEYOOOOONDS/元年バンジージャンプ

5.Juice=Juice/微炭酸


Juice=Juice『微炭酸』(Juice=Juice[Lightly Sparkling])(Promotion Edit)

6.つばきファクトリー/ふわり、恋時計


つばきファクトリー『ふわり、恋時計』(Camellia Factory[Softly, the clock of love.])(Promotion Edit)

7.モーニング娘。’19/青春Night


モーニング娘。'19『青春Night』(Morning Musume。'19 [The Youthful Night])(Promotion Edit)

8.CHIKA#TETSU/都営大江戸線六本木駅で抱きしめて


BEYOOOOONDS /// 都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて~夢幻クライマックス~GIRL ZONE (ハロコン2019冬)

9.BEYOOOOONDS/アツイ!


BEYOOOOONDS『アツイ!』(BEYOOOOONDS [HOT!])(MV)

10.こぶしファクトリーハルウララ


こぶしファクトリー『ハルウララ』(Magnolia Factory [Haru Urara-Beautiful Spring])(Promotion Edit)


BEYOOOOONDSおよびその内部グループ(CHIKA#TETSU)から4曲、他はだいたい1曲ずつの選曲になりました。ミュージックビデオの完成度、パフォーマンスの新しさをもってしても、やはり2019年のハロプロはBEYOOOOONDSの年だったと言うほかないと思う。ここまで革新的なグループになるとは予想できていなかったので、その度肝抜かれ度も加味しつつ。新メンバーがそれぞれ加入したモー娘。、アンジュ、JJは楽曲のよさとその初々しさがうまく噛み合っていた。とくに1位2位に選んだ2曲は段違いの出来。微妙にアンジュルムから心離れてきたかなって思ってたところで11月にこれがきたから、ほんとやってくれたって感じだ。昨年の勢いが凄かったからこそつばきファクトリーはちょっと停滞感は否めなかっただろうか。こぶしファクトリーは一回ライブ行ってみないとその凄さが分からないのかもな。どうしても「辛夷の花」のときあたりからの変化が見えづらいグループ。来年はこぶし、つばき、BEYOOOOONDSのライブへ行くのをなんとなくの目標にしたい。2019年のハロプロは変化が多すぎた1年だったから、来年どうなるのか非常にたのしみです。2020年も“アツイ!”1年になってくれ〜。

ポップカルチャーをむさぼり食らう(2019年11月号)

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11月は、“人生でいちばん口内炎が痛い日”があった。これはその日に書いている。憎たらしいったらありゃしないそいつは、下の歯にちょうどあたる位置にできていて、しゃべるのはおろか、何もしてなくてもずっと全身を痛みが貫いてくる。こうやって事細かに描写して読んでる人にその痛みをお裾分けすることでしか心身を和らげられないのだけど、お陰さまで言うほどでもないかなという気分になってきました。ありがとうございます。今日は一日中取材をしててしゃべり倒しだったんでほんと死ぬかと思った。

けどなんとか生きて家路についたので、服を着替えて20時ごろに再び家を出てアップリンク吉祥寺に行き『若さと馬鹿さ』という映画を鑑賞。古アパートに同棲して暮らす30手前のダラダラカップルの日常が描かれた映画。粒子が粗く自然光をとらえた温かい映像がとてもよくて、一つひとつの生活描写もグッとくるものばかり。例えるならば『きみの鳥はうたえる』『愛がなんだ』のような自然さ。とことんダメなふたりだからこそ共感して無理なく寄り添える。締め方はちょっと気に食わなかったけど、それ以上に主演の松竹史桜さんの魅力が爆発していて、今年みたインディーズ映画のなかでもかなり印象に残る映画だった。『岬の兄妹』には俳優として出ていた中村祐太郎監督、こういう映画を撮り続けてほしいな。映画を観終わったあとは最寄りの銭湯で体を温め、心身のパワーをチャージした。仕事終わりでも映画観て銭湯に行ける。まるで休日みたい!と思ってめちゃくちゃ元気になりましたとさ。めでたしめでたし。

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いやでもね、まだ口内炎の話題はつづきますけどね。笑うのすら激痛だからしんどかったんだけど、Gyaoで見られるM-1 3回戦のみんなのレコメンドがTwitterでいっぱい回ってくるもんだからまぁ見ちゃうよね。シンクロニシティは爆笑しそうになったので思わず停止してしまい後で見ることに(それくらい最高)、蛙亭、ラランド、ミルクボーイ、シシガシラ、キュウ、Dr.ハインリッヒ、しんぼる あたりが最高だった。そのせいで口内炎ができてから4日くらい経った今も、一向に治る気配がなく酷くなってきています。しかしM-1楽しみっすね!(笑いたいけど笑えないという経験は、「笑ってはいけない」の擬似体験としてはおもしろかったけど、普段爆笑できることの幸せを強く噛み締めた。みんな笑えるんだから、たくさん笑って生きていこうね。)

* * *

口内炎は治った。でも体調が悪いのでプラマイゼロ。と言いたいところだけど、やっぱりおいしいごはんと笑いという感情を取り戻した僕は最強だ。なんだってできちゃう。いやはや、テレビ千鳥の「高級レストランに行きたいんじゃ!」回のおもしろさったら……。友だち同士の悪ふざけ極まれり、な笑い。若年のシェフとスタッフさんがちょっと悲しそうな顔をしていたのは気になったけど、内心どう思ってたのか気になるな。アート映画をあんな風に笑いに変えられたら俺はぜんぜん笑っちゃうんだろうな。ーーAマッソを久しぶりにYouTubeで見かけたら、すごいおもしろくなくなっててショックだった。こんなことあるかと思って加納さんがちくまwebで連載しているコラムを読みにいったら、秀逸な文章で唸ってしまうという…。第19回「拳銃!」。何気ない日常の所作の積み重ねがドラマになり、最後にはサスペンス味を帯びだすというスペクタクルテキスト。第18回の森見登美彦風テキストもいい。やっぱりおもしろいんですよAマッソは。安堵。

www.webchikuma.jp

今月は後半の体調崩し期の前に『最初の晩餐』『マチネの終わりに』『わたしは光をにぎっている』と3つも感想エントリーを書けたので満足。『わたしは光を〜』では、言霊を信じて強く生きてやりたい、と踏ん張って意気込んだけど、そうするとしんどいときに取り返しがつかないことになるんだと最近気づいたので、もうちょっと適当にゆるく生きるのが性に合っていそうだ。こうやって、言葉を言葉で打ち消すのはとても大事。リアルサウンドに寄稿した「桜井ユキ評」が思ったよりよく書けて、彼女と彼女が演じるキャラクターたちのことがもっと好きになった。意志を強く持っているけれどそれゆえに生きづらく、時々迷いの表情が現れる女性たち。『真っ赤な星』の桜井ユキがその最たる例だと思う。三浦透子もいるしユマニテは強い。

Netflixで12/15配信、11/29に劇場先行公開の映画『マリッジ・ストーリー』がとてもとてもすばらしい。『フランシス・ハ』『マイヤーウィッツ家の人々』の大好きなノア・バームバック監督。東京国際映画祭でひと足早く見たとき、劇場がまるで『フルハウス』に差し込まれた笑い声みたいに数秒ごとにどんどん受けていて、なんか映画を観ているよりお笑いを観ているみたいな、それくらい異様なお笑い家族映画だった。だけど内容は、幸福だった家族が離婚を決め、血みどろの裁判に突入していく様が描かれているので『ブルーバレンタイン』のように極めて地獄。甘辛の塩梅がえげつないほどうまいから、笑えるし、本気で苦しくなるし、泣いてしまう。スカーレット・ヨハンソンアダム・ドライバーは、間違いなくベストアクトだし、あの体格差は妙に愛らしかった。配信されたら数日は冒頭シーンを繰り返し観ると思う。『最高の離婚』が好きなひと、絶対観るべし。

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乗り物をうまく活用している作品はなんかめちゃくちゃ心を惹かれてしまう。『このサイテーな世界の終わり』シーズン2もすばらしかった。アリッサとジェームズはS1から「横に並ぶ」というだけで特別な意味づけをされているから、車で“彼らの間にいるボニー”という表象の仕方や、最後のほうの展開は鳥肌モノだった。もっとみていたい。ーーここにきて高畑勲にハマる。『おもひでぽろぽろ』も純然たる乗り物映画。寝台列車でひとり過去を回顧し、田舎で同乗した青年に心を許して、最後の電車での決断に至るまで。『WOOD JOB!』とか最後の流れほぼ一緒やん!とか思ったし(大好き)、『四月の永い夢』とも通じる部分が多々ある。主人公のタエ子にはめちゃくちゃ共感できてしまうタイプの人間です。ーー続けてみた『かぐや姫の物語』も半端なかったなぁ。照射されるのは現代人が抱えるフラストレーションと同じもので、その生きづらさに真っ向から立ち向かいながら、この彩りに満ちた世界の美しさを垣間見せる。「生きるために生まれてきたのに」と嘆くかぐや姫の儚さたるや。数少ないアニメ映画鑑賞数のなかでは一番好きな作品だ。

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シャムキャッツのEP『はなたば』がめちゃいい。なかでも「はなたば 〜セールスマンの失恋〜」をリピートして聴いてる。三部構成みたいな音楽のなかに、かわいい日常と異世界感と切なさの刹那が盛り込まれていて、なんだかクセになって繰り返し聴いてしまうんだよな。〈くたびれたコンビニの前で缶ビールを開けたときにふと思った〉〈プールサイドで涼しい風にちょっと当たっていたかったね〉とかまずフレーズが最高だし、言葉が音のなかに最大限に詰め込まれてて耳心地もいい。

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ある事情からYouTubeにめちゃくちゃ刺激を受けたひと月だったのだけどその折に見た『みんなのかが屋』がとてもおもしろかった。かが屋のふたりが展開するYouTubeチャンネル*1。漫画『バクマン』で亜城木夢叶のライバルとして登場する七峰透が編み出した漫画制作の手法ーーインターネットで募ったモニター50人から物語のアイデアを得て、それを組み合わせて漫画を作るーーに感銘を受けた加賀くんが、「悪いモンがやったからダメになったけど、(俺たち)良いモンがやったらうまくいくんじゃないか」との発想でうまれた企画とのこと。生配信で行われる『みんなのかが屋』は“15分”の制限時間のなかで視聴者からアイデアを募り、ひとつのコントを作り上げていく。これがまぁ想像以上に毎回よくできていて、ハプニング的なものも含めてぜんぶおもしろいのよ。1回目放送のひとつ目の『トイストーリー』を題材にしたコントからもう2人の魅力が爆発してて最高なのでぜひご覧あれ。


みんなのかが屋 15分でコント1本つくる生配信 概要

今月最後のビッグトピックといえばアンタッチャブルの復活ですね。ネットでバズってるのを確認してから後追いで見ることになったけど、わかっててみてもめっちゃおもしろいし、今世紀最大のグッとくる〜案件だったわ。『M-1 2004』のときのネタを見返したり、TLでまわってきた柴田さんがネタ中に爆笑しちゃうやつ見たり、単純に幸せでした。また見れる、と思いながら振り返れることの喜び。

来月は12月なんで演劇とかYouTubeとかの年間振り返りorベスト(映画は個別エントリーで)を書きまっす。いや〜忙しい忙しい。インフルエンザにだけは注意したい。

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*1:作家として『Aマッソのゲラニチョビ』『しもふりチューブ』等の白武ときお氏が参画。

言霊と光、心を導いて/中川龍太郎『わたしは光をにぎっている』

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確信的な 朝を何度も迎えにゆくために/これからもずっと どうにかしなくちゃ/君をおどろかせていたい/確信的だ 今日は必ずいいことあるはずだ/追いかけたバスが待っていてくれた/かっこいいまま ここでさよなら ーー「Home Alone」

恋しい日々を抱きしめて/花瓶に花を刺さなくちゃ/部屋の電気をつけなくちゃ/明日の目覚ましかけなくちゃ ーー「恋しい日々」

君の不安を取り除くのは/お祈り 呪術か魔法/それがだめなら 外にでも出て 美味しいものでも食べてみなーー「カーステレオから」

 

主題歌の「光の方へ」は本作を締めるのにこれ以上ない曲だ。そして映画を観ているあいだ、カネコアヤノの楽曲が紡いできたたくさんの力強い詩のことを思い出した。辛さも喜びもすべてを包み込んで、日々の営みを自分自身で柔らかく肯定していく“祈り”のような言葉たち。「言葉は光、光は心ーー。」。澪(松本穂香)の祖母がそう言うように、言葉は言霊となって行く先を照らす光となり、やがてその光は己の心を抱きしめ、鮮やかな色に染め上げていく。「わたしは光をにぎっている」。劇中で何度も繰り返されるこのタイトル(山村暮鳥の詩)のなんと力強いことか! 読むたびにたくましくなっていく澪の声色は、映画にあった無数の光を掴んだまま私たちを遠く、光の方へと連れて行ってくれる。

 

できないことも頑張って/やってみようと思ってる ーー「祝日」

言葉が反射する こころの底に/言葉じゃ足りないこともあるけど/瞳は輝きを続ける ーー「光の方へ」

 

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カネコアヤノの楽曲と同時に想起したのは、今年3月に放送された『世界ウルルン滞在記』で“世界一寒い村”へ旅に出ていた松本穂香の姿だった。

 

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-50℃にも及ぶ極寒の地で、その小さな身体を酷使しながら家畜の世話をしたり掃除をしたり、子どもをソリみたいなものに乗せて学校まで送っていったり。その辿々しくも一生懸命にホームステイ先の家族たちと歩幅を合わせようとするさまには無条件に心を引きつけられてしまった。その姿とぴったり重なりゆく本作における澪というキャラクターは、松本穂香自身にかなり近いものがあったのだろうと思う。だからこそ、中川龍太郎監督と山村暮鳥の詩、カネコアヤノの歌とともに四身一体となって本作の祈りを体現してみせている。銭湯の入り口にちょっぴり背伸びして暖簾をかけるシーンの反復、あれには坂元裕二(『カルテット』の世吹すずめ、『初恋と不倫』の三崎明希)による生への肯定と同じものを感じる。一挙手一投足がとても彼女らしい。それにしても松本穂香さん、あまりにもかわいすぎひん?

 

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「場所や風景が主人公の映画」とは、中川監督がたびたびインタビューで吐露していること。言葉や人物だけでなく、本作における「立石」という再開発地域や「銭湯」「エチオピア料理屋」「映画館」「商店街」といった“場所”は登場人物の一人ひとりとして強く輝きを放っている。言うなればその場所にいる“人間”や刻まれる“記憶”は、手のひらで掴んだ光のようなものだ。掴んだ手を放すのと同じように、場所がなくなると、人も、そこにあった記憶も薄れていってしまう。しまいには何もかも無くなってしまうかもしれない。そうした“消えていくもの”に対してどう反応し、未来を生きていくか。この映画が見つめるのは、おぼつかないけれど“しゃんと“終わらせて、その先を歩いていく、登場人物たちの一歩一歩だ。

ひとつのものが終わり、新しくなにかを始めるとき。私たちは言いようもない不安に襲われ、孤独に闇を抱えてしまうことがあるかもしれない。幸福な記憶は薄れ、今の恐怖感だけに心が支配されてしまうかもしれない。しかしそれでもこの映画を観ればきっと、確実にそこにあった光のことを、また別の場所に必ずあるだろう光のことを想い、前を向いて歩きだすことができるはずだ。そうしてひとたび光をにぎってしまえば、あとはこっちのもん。わたしは光をにぎっている。この言葉を心に深く刻みこみ、そう力強く生きてやりたい。*1

 

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狂う男、狂わされた女ーー死の季節に生が薫る『マチネの終わりに』

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『昼顔』の西谷弘監督×井上由美子脚本コンビということもあり、ただの大人の恋愛映画じゃないんだぞ、という薫りがぷんぷん漂う本作『マチネの終わりに』。はじまりからしてとても不穏で、いやに甘美。

 

そのはじまり。耳心地のいい音楽が心をやさしく撫でてくれたかと思いきや、その音の発生源である蒔野(福山雅治)は、ときに暗闇のなかに吸い込まれそうなイメージを纏い、終演後の楽屋では水を飲みながらうなだれている。徐々に明かされることであるが、20歳でデビューを果たしたこの天才ギタリストは、歳を重ねていくなかで若いころには感じ得なかった、「見えない未来への恐怖感」を抱いていた。11月という草木の枯れた季節を舞台にはじまる本作。そこでは、水を常に手に持ちながらしかし吐き出してしまう枯れた姿や、まるで“喪に服している”かのように漆黒な服装など、蒔野にどこか「死」のオーラが漂っている。心情面でも明らかなように、怖いものなしだったころの過去に囚われ、“これから”を歩み出すことができていない。

そんなおりに訪れる小峰洋子(石田ゆり子)との出会い。マチネ(昼公演)の終わり、対照的に「白い服」が目立つ洋子を目の前にして蒔野はどうしようもなく心を惹かれてしまうが、彼女には婚約者がいると釘を刺されてしまうーー。

死の淵にいる蒔野がついぞ見つけた「生きる対象」。しかし東京とパリという遠距離、婚約をしているという洋子の現状は、簡単にふたりを結びつけてはくれなかった。

 

ロマンティックでありながらホラー的。本作を簡単に表すならこうだ。彼らが辿った遠回りの時間とは果たしていったい何を意味したのか。6年の期間をもって描かれるのは、“死の季節”の只中で、それでもふたりが生きていくことを決める、そこに至るまでの長い軌跡である。そんなふうに僕は解釈している。

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人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?

はじめて出会った夜に蒔野が語る、過去という時間概念の頼りなさ、あるいは希望。未来の行動次第では過去は変えられる。変わってしまうとも言える。蒔野における過去とは、天才が手にした「栄光」であり、「常に未来がある」という状態だった。しかし今は、その未来がない。おまけに、自分の過去は本当に栄光だったのかすら、確信を持って言えない始末。過去は「悪かったもの」として、変わっていってしまう。

ただそれでも彼が決定的な死を選ぶことがないのは、洋子という生きる対象があるからだ。自爆テロに出くわした洋子の安否を確認するメールにて蒔野が語る、「幸福の硬貨」の挿話。「なんでも買える“幸福の硬貨”を手にしたら、あなたは何がほしい?」。洋子さんと「幸福の硬貨」の話がしたいというのは、あなたと未来の話がしたい、ともに生きたい、というプロポーズでもある。また、再会を果たしたレストランでは「もし洋子さんが地球のどこかで死んだと聞けば、僕も死ぬよ」とも言ってみせる。あまりにもキザなセリフだけれど、「あなたがわたしの生きる意味」であることを強く言い表そうとしている。

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いっぽうで洋子のほうはどうだろうか。蒔野を「生きる意味」とするまでに愛していたのだろうか。「わたしもよく考えてみた。わたしは蒔野さんが死んでも生き続ける。蒔野さんの残した音楽をみんなに伝えたいから」。それはまるで対照的なように思える。そもそも洋子は結婚を控えているのだから、これからの人生に狂いはないはずだった。なのに、蒔野に徐々に心を惹かれてしまう。お互いにとって、出会いさえしなければ時間はそのまま進んでいたに違いないけれど「出会ってしまったから。その事実をなかったことにはできない」「だから(蒔野は、洋子さんとその進みゆく時間を)止めにきた」のだ。

文字通り“すべてを捨てて”日本にやってきた洋子は、まるで蒔野みたいに“黒い服”を身にまとっている。ついにふたりが結ばれるというなかでも、未来へ向かっているというよりは、やはり「静止」や「死」を感じさせてしまう場面。結果的に災厄のごとき出来事が起こったことで、蒔野と洋子の時間はそのまま止まり続けることになった。

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3年後、彼らの時間がそれでも“個別に”動きだしたのだろうということは、すぐにわかるだろう。結婚、出産、移住。そして蒔野は、長らく停止していたクラシックギターの活動を再会し、復帰コンサートを開催するに至る。「師匠の死」によって未来への諦め(どうせ未来は際限があるのだから、怖がっていても仕方ないという真理)にたどり着いたのかもしれない。

蒔野の止まっていた時間を進める最後の後押しをするのは、さすが「名脇役」な三谷早苗(桜井ユキ*1。真相を聞かされた洋子はいつもと反対方向に坂道を下り、印象的なあの石の上に腰を下ろす。溜め込んでいた涙があふれでる場面である。再び過去に引きずられるわけであるが、そのことによって静止していたはずの時間が少しずつ動き出していく。

そして、再会の「マチネ」。デビューしたのと同じ会場で、新たなる出発を迎える蒔野。自信に満ち溢れる彼から画面は徐々に“時計回り”に横移動(パン)し、そこにいる洋子を捉える。あの出会いの場面と同じく、「真白な」服でいるのがグッとくる、おそろしく甘美な場面…。思えば今までは、コンサートでの演奏中、“反時計周り”にカメラがパンして蒔野を捉え、過去に囚われた彼の苦しい姿が映し出されてきていた。その時間の逆行がついに方向性を変え、順行して動き出すのだ。「最後にもう一曲お聞きください」。そう言って演奏するのは、蒔野と洋子の思い出の曲「幸福の硬貨」。「未来に向けた曲」をあなたに向けて演奏する。

 

セントラルパーク、枯れた噴水の周り。“反時計回り”に等間隔で歩くふたりは、このままでは一生出会うことがない。しかしファンに声を掛けられて振り返った蒔野は、洋子を見つけ、“時計回り”に姿勢を変える。それはまるでこれまでの6年間が凝縮されたような描写だ。三谷早苗が引き起こしたすれ違いも、彼らが前を向くためには必要だったのかもしれない。「未来によって過去は変わりゆく」ということ。そうして蒔野はついに未来へ、洋子は過去に置いてきたものを拾いに行くという意味で蒔野のもとへ歩を進める。その合流地点こそが、彼らが生きゆく真の未来なのだろう。「マチネの終わりに」、そこに向かって歩きだすふたりの顔の明るさをもって、この映画は幕を閉じる。死の季節に再び生が薫りはじめる刹那、彼らはそのあときっと、「幸福の硬貨を手にしたら、あなたはなにがほしい?」という未来の話を再開するに違いない。*2

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*1:登場人物たちのなかで一番心を掴まれてしまうのは、やっぱりこの桜井ユキだ…。圧倒的にヒールなのに、なかなかそう見させてくれない感情を押し殺して生きる演技。『G線上』も『だから私は推しました』も、どんな役でも彼女が演じると感情移入してしまう。

*2:正直いうと洋子の気持ちはあまり理解できていない。あくまでも蒔野が主人公で、彼に振り回されてる感がすごくて…。原作を読んでる途中ですが、洋子の話は実はかなり深いっぽい。そうした点を含めかなり表層的で本質の欠いたレビューですが、どうかお許しください。

ポップカルチャーをむさぼり食らう(2019年10月号)

 

10月もカルチャーは豊作であった。

とりあえず羅列してみる。

 

[映画]女が階段を上る時(DVD)/ジョーカー/蜜蜂と遠雷/宮本から君へ(2回目)/お嬢ちゃん(2回)/ぼくのエリ(ヒューマントラストシネマ渋谷)/街の上で(下北沢映画祭)/ブルーアワーにぶっ飛ばす/タレンタイム(UPLINK吉祥寺)/夏の遊び(ユジク阿佐ヶ谷)/退屈な日々にさようならを(ユジク阿佐ヶ谷)/カツベン!(東京国際映画祭)/タイトル、拒絶(東京国際映画祭)/ひとよ(東京国際映画祭)/わたしの叔父さん(東京国際映画祭)/劇場版おっさんずラブ

[演劇]別冊根本宗子『墓場、女子高生』/今泉力哉と玉田企画『街の下で』

[ドラマ]G線上のあなたと私/グランメゾン東京/モダン・ラブ(AmazonPrime)/決してマネしないでください。/おっさんずラブ

[本・雑誌]江國香織きらきらひかる』/鷲田清一『「待つ」ということ』/映画芸術/QuickJapan

[音楽]眉村ちあき(NEWTOWN)/Juice=Juice LIVE 2018 at NIPPON BUDOKAN TRIANGROOOVE(DVD)/indigo la end『濡れゆく私小説

YouTube]さんこいち/ヴァンゆんチャンネル

[バラエティ継続視聴]相席食堂/テレビ千鳥

 

映画みすぎてるわ…(その割に旧作掘れてないし…)とちょっと落ち込むものの、東京国際映画祭に関しては全部無料で観てるのでオールOKということにする。というのも、かの日本最大級映画レビューアプリFilmarksさまの抽選で(5名さまにあたる!)プレスパスを頂戴したから。時間さえあえばほんと全部タダで観られるので、期間中に10本くらい観ようと思ってます。これが無ければおそらく出会っていなかっただろう(映画祭の作品なので劇場上映されるかもわからず本当に一生出会えなかった恐れすらある)コンペティション部門で観たデンマーク映画『わたしの叔父さん』がとんでもない傑作だったから、ほんとうにFilmarksさまには頭が上がりませぬ(4年間くらいずっとお世話になっております)。6、70代くらいの叔父さんと30前後の姪。家畜の世話をしながら暮らすそのふたりのただの日常を描いているだけの作品でありながら、生きることの尊さが優しく伝播していくとんでもない映画。姪の役者はれっきとした女優(イェデ・スナゴーさんという方)だけど叔父の方はそのイェデさんの実の叔父さんらしく、演技未経験の素人。ただ実際の近親関係であるからこその空気感がバリバリに作用していて、会話の少なさや相手への微かなイラつき、クスッと笑ってしまう出来事など、もうすべてが愛らしい。基本的には和やかな気持ちで観られる映画だけど個人的にぐさっと刺さる部分もあり、こんなに涙って出るっけ?ってくらいシトシト号泣してしまった。こんな経験は後にも先にもないかもしれない。この勢いで劇場未公開作に切り込むと、今泉力哉監督の新作『街の上で』は人生で5本の指に入るほどの神傑作。ネタバレなしで個別エントリーにも記しました。ハードルを上げすぎても誰も喜ばないと思うのでとりあえず劇場公開が決まるまでは黙っておくけど、『愛がなんだ』を軽々超えてくるやつなんでまじお楽しみに。自分が一番もう一度見るのを楽しみにしてるわ。10月は今泉力哉監督月間だったと言っても過言ではない。10月27日、こまばアゴラで玉田企画との共作『街の下で』を観劇し、その夜にはユジク阿佐ヶ谷で『退屈な日々にさようならを』を観た。『パンとバスと2度目のハツコイ』以降、今泉作品は毎回長文の感想を書いてるのだけど、この2作においてそれが途絶えたのは、とっても書きにくい作品だったから。だからここでも特段なにかをかける気はしない。『街の下で』は突拍子のない展開の連続で心の整理がつかなくて、今泉力哉と玉田真也のどちらがどこを作・演出しているのかも判別がつかず書きづらい*1。『退屈な日々に〜』は昨年の同時期にはじめて観た(NEWTOWNの無料上映、今泉監督のとなりで)ときより驚くほどおもしろく、めちゃくちゃ理解できたものの、かなり深い作品でもう一度観ないと整理できなくてこれまたまだ書けない。今泉作品のなかで『街の上で』『退屈な日々に〜』『愛がなんだ』は別格におもしろいと思っている。もうこうなってくるといま一番信頼できてコンスタント(と言うにはあまりも多作)に作品を発表する作家は今泉監督を差し置いて他にいないかもしれない。突如現れている『おっさんずラブ』は、リアルサウンドで毎話レビューを書くために急いで観たやつ。劇場版は都内最終上映にすべりこみ、OL民(おっさんずラブファンの通称)のすすり泣く声を聞きながら大いに映画を楽しんだ。11/2からはじまった新章。これがとんでもないおもしろさでびっくりしている。はじめてみた根本宗子の演劇も「これが根本宗子か…」と唸る快作だった。乃木坂のアンダーメンバーによっても演じられていたりするベッド&メイキングスの戯曲『墓場、女子高生』。根本宗子は演出だけでなく主演もはっていて、その圧倒的なパワー、演技の超絶なうまさに驚かされた。歌もうまいし。月刊根本宗子の公演もできるだけ早く観てみたい(でもチケット代高いよね…)。今期のドラマは『グランメゾン東京』を一番に推したい。何に似てるかわからないくらい王道のストーリー(離散していた仲間が集い、下克上のすえヒールとなる相手を負かすという作劇。『七つの大罪』とかね)だけれど、とにかく塚原あゆ子(『アンナチュラル』、『グッドワイフ』など)の演出がすばらしく、毎話大きく心を動かされてしまう。キムタクドラマを見るのは実は2009年の『MR.BRAIN』以来。安心感とその風格はやっぱり唯一無二だ。10月20日、CINRAが主催する「NEWTOWN」で眉村ちあきのライブをはじめてみた。「こんな奇跡みたいな子、ほんとにいたんだ…」という気持ちに包まれる。わずか30分強のライブだったけど楽しいったらありゃしない時間。12月の単独ライブに当選したのでそのときに文章で思いをぶちまけたいと思います。ここ数日はまったくYouTubeを見てないものの、月初めは沼にハマっていた。“恋人同士ではない男女コンビのYouTuber”の人気ぶりを俯瞰するコラムを書くために見始めた「さんこいち」と「ヴァンゆんチャンネル」。あんまり興味がなく見始めても、見てるうちにだんだん好きになってしまうのがこのコンテンツの恐さだと再認識した。熱しやすく冷めやすいので、もう飽きてますけど「さんこいち」はほんとに結構好きだった。仕事関係抜きにして久しぶりに小説をまるまる一冊読むことに成功。会社の先輩天才ライター山本さんが大好きな江國香織を手にとってみた。外から見れば歪な夫婦の、お互いの感情が交互に描かれていく。言葉一つひとつが感受性の高いままに並んでいるので、読むときどきによって色が変わっていく作品なんじゃないかなと思う。そういえば、くっきーと又吉が旅人だったこの前の『相席食堂』、最高だったよね? ドリフ的サイレントコメディ、天丼、奇妙な海の合致などなど一瞬やらせを疑うくらいよくできていて、長州力回に並ぶ傑作だ…と唸りながら笑い転げた。読みかけの『「待つ」ということ』を読破して、来月は中川龍太郎『わたしは光をにぎっている』とともに「時間」について書こうと思います。書かないかもしれないですが。

あ、『ジョーカー』と『お嬢ちゃん』のこと書き忘れた…!*2

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*1:判別がつかないとは言っても冒頭は今泉さんのものだと思うし、ラストは玉田さんっぽい。中盤のあの“変なやつ”は意外と2人でやってる気がする。

*2:いつも以上に適当に手早く書いていたら途切れ途切れになってしまいました。最近は欲に勝てない日々が続いている。一度、一週間どれだけ欲に勝てないことがあったか数えてみようかなとか思ったけど、そう思った日に映画観て古本屋で4冊本買って、酒飲んでアレして、部屋は汚いけどやっぱり掃除は出来なくて、こんなの数えてたら死んでまうわと思ってやめた。その次の日に部屋を掃除することができた。ちょっとがんばったら自分にご褒美をあげたくなるとことん自分に甘い性格だけど、そうしているうちは幸せなんだからもうこれでやっていくしかないんだと思う。最近は社会学を学んでいたころを思い出してそっち系の学術書を読みたいと思いだした。思ってるだけ。『街の上で』はやくもう一回みたい。風邪こじらせて知らぬ間に秋になってたけど調子はいい気がする。病床のおじいちゃん心配だなぁ。

血のつながらない家族をつなぐもの/常盤司郎『最初の晩餐』

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「食卓」ってとても不思議なものだ。家族がそろって机を囲み、同じものを食べる。みんなで一緒にテレビを見ることがなくなり、ましてや一緒に外に出かけることがなくなっても、食卓だけは、家族が集い同じものを享受する場所として残っていたりする。みんな食べたいものが違っても、そこでは同じものを食べることを強いられる。ときにそれは“個食”や“孤食”として家族の分解を意味するようになったりもするけれど、それはだいたい「テレビを見ること」や「外に出かけること」などの後にやってくるものだろうから、食卓は、家族が「家族」たりえる最後の砦としてあるように思う。

本作の「家族」は、父母のお互いが再婚をした末に生まれたステップファミリー。血のつながらないもの同士が新たにつくる家族だ。そしてそれは、夫婦の間に子どもが生まれることでできる(中動的な)家族と比べると、いくぶんか能動的な側面が大きい。ちゃんと「家族」になれるかは分からないけれど、お父さん(永瀬正敏)は家族を“つくろう”とした。そして彼と家族の面々が“つくる”ちょっぴり風変わりな「料理」はこの新たな家族の表象として、これまた家族が共有する場所である「食卓」に並ぶことになる。それはまるで、真っ白な画用紙にこれから自分たちが辿る未来をスケッチしていくように。

卵とチーズの異色の組み合わせによる目玉焼きや合わせ味噌を使った味噌汁は、2つの家族が1つになろうとする過程を捉え、ホクホクな焼き芋や魚の骨は、家族が溶け合い、つっかえを取っ払っていく時間の経過とシンクロする。息子が好きだと言えば嫌な顔ひとつせずにピザにキノコを載せるし、ツナ入りの餃子も食べるだろう。娘はラーメンに紅生姜を載せ*1、息子はすき焼きに食べるラー油をかける。彼らにはない、赤(血)というワンポイント。それは重要なものかもしれないけれど、彼らはそれ以上のつながりをなんとか模索していく。

食卓を彩ることで家族は家族であるという認識を強めるが、やがて「秘密」が暴露され、家族は離散する。「家族ってなに?」そう彼(染谷将太)が問うように、血のつながりがないものたちがバラバラになり、彼らをつなげた食卓も失ったとき、果たして5人のあいだにはなにが残るのだろうか。そんな疑問を投げかけながら、本作ではやはり「食卓」が、もしくは料理の「味」が、家族をつなぐものとして機能することになる。食卓は、家族が模索しながら歩んできた道程そのものだった。

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* * *

家族映画にはまぁだいたい食卓が登場するけれど、それをメインに据えた作品はなかったと思うので意外と新鮮な映画。永瀬正敏斉藤由貴窪塚洋介戸田恵梨香染谷将太と豪華キャストがつくり出す家族のなかで一際輝きを放つのは、しかしその誰でもなく戸田恵梨香の子ども時代を演じた森七菜だったように思う。伏し目がちな斉藤由貴も哀愁漂っていてよかったけど。岩井俊二の新作『ラストレター』でも広瀬すずと並ぶ役どころの森七菜さん。めっちゃ楽しみ。

 

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映画『最初の晩餐』予告編

*1:彼女は最初、“赤”味噌を「濁っている」と言って遠ざける。