縞馬は青い

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映画とか、好きなもの

足が速い女の衝動的プレイバック/ナカゴー特別劇場『駿足』

2019.3.17 あさくさ劇亭

 

bsk00kw20-kohei.hatenablog.com

 

鎌田順也が主催の劇団「ナカゴー」の演劇は、“本公演”と“特別劇場”に分かれている。いちおう上演時間の長さが違ったり、劇場の大きさ、後者にはナカゴーの劇団員があまり出演することがないなど力の入れ方は異なるのだけど、そのどちらもが、オーバーアクションや突飛なセリフまわしによってデフォルメされた登場人物たちが、“笑い”を主軸に置いた作劇を展開していく点において質感的にはさほどの違いはない。本公演だと笑いすぎてマジで疲れるな、って感じるくらいの違い。いうなれば、お好み焼き(特別劇場)と、ライス付きのお好み焼き定食(本公演)を食べてるみたいな、どちらもめちゃくちゃボリューミーで味の濃いやつ*1。まだ3作目なのでそこまでよくわかってはいないのだけど。たぶんそんな感じ。

 

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足の速い女がある事件の犯人探しをするお話をやります。ぜひ。

 

HPに書かれていた本作の宣伝文かあらすじのような文。いつもこんな風にシンプルで内容の検討がまるでつかないあらすじなのだけど(おまけに本編がその前振りとはまったく違う話になっていることもある)、惹きつけられてしまう独特の魅力がある。これは劇団への信頼感と言うべきだろうか。

 

足の速すぎる人が4人ほど出てくる物語。その内訳としては、足が速すぎることで国に狙われている女。足の速さをコントロールできず、運動会で走ることを恐れている男の子。その母で、子供のころから速く走ることを親に禁止されて倒錯した性格になってしまった女(一連の事件の犯人)。公園に住みつく足の速い小学生児童(32歳)。

 

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人物紹介欄に(犯人)とか書かれちゃってる感じがナカゴー流。これだけ見てニヤニヤしてしまった

 

この物語には、「足が速いからすぐに逃げられる人々が、同じく足が速い人に捕まってしまい、現実と向き合うことになる」という正統派な主題がある。そしてあくまでも主人公(小学生の男の子)は別にいて、足の速いものたちの奮闘をはたから見ながら成長していくという展開。まわりを取り巻く(マイノリティな立場にいる)人々の困難や不安を描きながら、徐々にその模様を見ていた男の子とその母親の物語へと波及していく様は、相米慎二『お引越し』、エドワード・ヤンヤンヤン 夏の思い出』などにも投影できる作劇のかたちと言えるかもしれない。そうした主軸にナカゴーお得意の“ごっこ遊び”が加わり、やんわりと生が肯定されていく。

 

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大げさなアクション/リアクションのなかでも、“同じことを繰り返す”という反復的所作が目立った本作。それは、悩める駿足ビトたちによる衝動的な存在証明として、あるいは認められない恐怖から焦燥的に繰り出される行動として捉えることができるかもしれない。首をスーッとするイタズラ、カンチョー、帽子やバナナをこっそり奪うこと、あるいは親から子への“嘘”。すべてがあまりにも子供じみているけれど、そうであるからこそ、純粋な子供心を想起させてくれる。何よりも子供心を取り戻したように小さな舞台で躍動する役者たちが楽しそうで仕方ないのだ。

 

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*1:関西弁が使われるわけではないし(アクセントとしてたまに出てくるが)、鎌田さんは関西人でもないと思うのだけど、同じことの反復で笑いを積み上げていく構造や大げさなアクション/リアクションとかが絶妙に新喜劇的で、関西人の僕には響いてしまう。