縞馬は青い

縞馬は青い

映画とか、好きなもの

My Best Films of 2018

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今年ももう終わりですね〜。年間ベストを出すために(そして他の方の年間ベストを見てうわ〜わかるわ〜と頷いたり、へ〜そんなん入ってくんねや〜と驚いたりするために)日々映画館に通ってるフシもあるので、この時期はすごく楽しい。今年は個人的にいろんなことがあって充実してたけど、映画ライフも今まで以上に有意義だった。やっぱりどんな映画も近くで早く観れる東京ってすごいわ。ということで今年100本近く新作を鑑賞したなかから大好きな20本を以下に並べました。いっちょまえにカウントダウンで。

 

20.デヴィッド・ロウリー『ア・ゴースト・ストーリーf:id:bsk00kw20-kohei:20181221213543j:image一作目にしてあれだけど、この映画の感想は本当に言葉にしづらい。ある夫婦の、夫さんのほうが交通事故で亡くなってしまい、その後その夫さんが白い布をまとった幽霊となって妻を見守り続けるという非常に不思議なストーリーの映画。今年も勢いが止まることを知らなかった米独立系映画会社「A24」の配給作品ということもあり、結構シュールな様相でありながらポエティックでとにかく美しい。ルーニー・マーラ(妻役)がひとりになってはじめてご飯を食べるシーンの長回しとか言葉のいらない映像のインパクトに心をぶち抜かれ、またそうした静謐な映像表現でありながら、Dark Rooms「I Get Overwhelmed」の歌と歌詞、結局こちら側には見えないあの手紙の内容など、少量の言葉にもしっかりと命が吹き込まれていて抜け目ないのだ。

静かだけど、大きな声で“愛”が叫ばれている。

 

19.中川駿『カランコエの花f:id:bsk00kw20-kohei:20181221214145j:image39分の短編映画。『カメラを止めるな!』とか『少女邂逅』と同じ7月あたりの、国内インディペンデントがすごい熱かった時期に公開されたのを記憶している。短編映画ということもあって当初は1週間限定上映の予定だったのが、延長&上映館拡大で東京では12月の半ばまで公開されてたような、これまた話題を呼んだ作品。やっぱりすごいのは39分という尺の短さと質量。『桐島、部活やめるってよ』のような隅々まで配慮した群像劇をやりながら、ラストに「桜はつきちゃんが好き」ということと「桜は教室にいない」という2つの“事実”と“余韻”というピースを残してあとの展開を解くパズルを観客に託す。解けないかもしれないけど、解こうとすることに意味があると、カランコエの花に似た真っ赤なシュシュが伝えている。今年イチ充実したエンドロールだった。

 

18.ギレルモ・デル・トロシェイプ・オブ・ウォーターf:id:bsk00kw20-kohei:20181221214647j:image言わずと知れた今年度アカデミー最優秀作品。鑑賞から少し時間が経ってしまったので熱量は低めになってしまうけど、やっぱりこの映画は革新的だった。簡単に言うと怪物とおばさんのロマンスを描いた作品。それがあれだけ幻想的でロマンティックに展開し、心を締め付けられるとは思いもよらなかった。“水の中って冷たいし動きづらいし呼吸しづらいんだけど、この映画で描かれる水中は全て温かかった。めちゃくちゃ好みの映画としか言いようがない。” 鑑賞後すぐでさえこれだけ言葉足らずの感想だったのでもう何も言うことはないです。こういう映画に包まれて生きたい。

 

17.スティーブン・チョボスキーワンダー 君は太陽f:id:bsk00kw20-kohei:20181221214945j:image泣ける泣ける、と言われると100%泣けないのが悲しい天の邪鬼な性。でもこの映画の鑑賞中は「あ~これは我慢しないと無限に出てくるやつや」と思って意図的にがんばって涙を抑えようとした(結果無理だったけど)。あれだけ多くの登場人物に焦点を当てていると「これは自分だ」と感情移入してしまう人も多いと思うんだ。僕はもう、登場人物の3、4人に自分の境遇を重ね、ずるずる引き込まれてしまった。「君は太陽」という副題も悪くないのだけど大事なのは、この映画がオギー以外をただの太陽系の惑星としてではなく、それぞれをちゃんと「太陽」として描いていること。「(君=)みんなが太陽」という大いなる肯定があるからこそ、太陽に照らされた太陽=オギーがより輝いて見えるのだ。

 

16.中島哲也来るf:id:bsk00kw20-kohei:20181221222047j:imageこの映画を「ホラー」としていいものかわからないけど、今年は本作と『クワイエット・プレイス』の2つのホラー映画がすごくよかった。というのも僕は生涯見たホラーはたかだか10本くらいで(苦手なんです)、ベストにも入ったことがなかったんで2本も心に刺さるホラーに出合うなんて前代未聞だったんです。ホラーというジャンルが僕の好みである「家族映画」の要素を常に孕んでくるということも今さら新たな発見。『来る』に関してはとにかくメリハリがすごくて、トリックアートを見てるみたいに実像が歪んでいく過程も楽しめておもしろかった。今回東宝作品はこれ一本だけですが、『恋は雨上がりのように』(これもスピード感が半端ない)、『未来のミライ』(賛否両論あれどあの家の設計が生理的に好き)、『センセイ君主』(自分の母校で浜辺美波がはしゃいでて歓喜した)、『検察側の罪人』(ゲロ吐くキムタク最高)、『響』(天才と凡人という構図がもう…)とおおいに楽しませてもらった1年でした。

 

15.アレックス・ガーランドアナイアレイション ー全滅領域ーf:id:bsk00kw20-kohei:20181221215419j:image今年のSFはこれ一本しか観てない気がする。CG、演出、脚本すべてが意味わからない(文字通り)ほどに高水準なのに、実はNETFLIX限定配信。同じくアレックス・ガーランド監督の『エクスマキナ』もネットで見てしまったのでとことん巡りが悪いな。しかしまぁスマホで見ても鑑賞後放心状態だったから、映画館で観てたら魂抜けてたろうな。ここまでストーリーにひとつも触れてませんが、わけわからなすぎて触れられないんですよね。ただただすごい。語彙力なくなったわ。

 

14.ブラッド・バードインクレディブル・ファミリーf:id:bsk00kw20-kohei:20181221215529j:image現実世界では『ミスター・インクレディブル』から14年が経過。映像表現の進化は言うまでもなく(多彩なアングルでの緊迫感が楽しい!)、1作目からの一番大きな成長は登場人物の心情表現の豊かさでしょう。特に3児のママ・イラスティガールの解放感には胸を撃たれた。彼女の活躍に嫉妬するボブの姿も含めて、彼だけが楽しんでいるように見えた1作目とは違った清々しい風が吹く。家族それぞれに悩みを抱えながら、パパは努力して家の内外ともにヒーローとなって家族が形成されていく姿。『そして父になる』をエンタメで楽しく表現していてかなり好き。EDのテーマソングも否応なくアガる。

 

13.山田尚子リズと青い鳥f:id:bsk00kw20-kohei:20181221215556j:imageストーリー(特にラスト)には全然納得いってないのだけど、それも含めてこの映画を構成するすべての要素が好きだった。吹部の演奏ってずるいんですよなんか。音の重なりに青春を見てドキドキしちゃう。(アニメは詳しくないのでわからないけど)百合的なアニメ作品としては突飛な語り口ではないのだろうけど、国内インディペンデント映画で先に出た『カランコエの話』も含めて「ガール・ミーツ・ガール」が熱かったこの年に公開されたことにはすごく意味があると思う。ラストはただ「横並びで歩いてほしい」という願望があったのだけど、「ハッピーアイスクリーム」というキラーワードを聞けたからこれでよかったということにしました。

 

12.グレタ・ガーウィグレディ・バードf:id:bsk00kw20-kohei:20181221215642j:imageノア・バームバック『フランシス・ハ』という大好きな作品の主演を務めるグレタ・ガーウィグが、その作品とも共鳴する映画を撮ってくれて素直にすごく感激した。とにかくポンポンポンポン青々しい事件が起きていくスピード感が最高で、そんな怒涛の時代を経てクリスティンという名前と人生を受け入れる「余韻」を得るラストもたまらない。青春映画が各地で豊作だったこの年に(加えてこれもA24=インディペンデント)、設定的には15年くらい前だけど、アメリカの等身大の少女成長物語を見れてよかった。そしてシアーシャ・ローナンが現行で一番好きな米女優になってしまった。

 

11.吉田恵輔犬猿f:id:bsk00kw20-kohei:20181222222229j:image吉田恵輔監督4年ぶりのオリジナル作。まぁこの監督にはオリジナルもクソもないほど個性があるので、作る映画すべておもしろいバイアスが完全に確立されているのだけど。本作は兄弟姉妹についての、お互いに死んでほしいと思うほどの憎しみとほんの少しの愛を描いた作品。この配分が完璧なんだよな。エントリーでも詳述したけど、ラストがとにかくいい!「父の採尿→容器こぼす→リスカ→妹が助ける」という受け皿のリレーが表す家族という愛に満ち溢れた共同体の不器用さ。それは時に面倒くさくて死ぬほど鬱陶しいかもしれないけど、やっぱりこの映画はそのつながりの強さを描いているんだ。チャーハンとベビースターの奇妙なコンビネーションのように、彼らはひしめき合って、共に生きていくのだろうと、強烈に感じた。家族映画のバリエーションはやはり日本映画の強み。

 

10.枝優花少女邂逅f:id:bsk00kw20-kohei:20181221215938j:image上半期の最後の最後、6月30日に公開されたこの映画が結局今年の(インディペンデント)日本映画のすべてを物語っていたと思う。それは、インディペンデント映画の隆盛、既存の概念への問題提起、ガールミーツガール=外側ではなく内面に視線を向けることの重要性(というより切迫感のようなもの)といった諸要素のこと。『カメラを止めるな!』と『万引き家族』の要素が両方詰まってる。後日譚のドラマ『放課後ソーダ日和』もYouTubeでこのクオリティかよと驚くほどに傑作で、細部の演出にいちいち愛を感じる。個人的に2018年を象徴する作品なので1位でもおかしくないのだけど、本作に関していうと音があんまり良くなかった(むしろそれだけの理由なのでこれ以降は実質すべてベスト)。しかしとにかく1994年生まれの同世代監督・枝優花さんの今後がめちゃくちゃ楽しみ。

 

9.今泉力哉パンとバスと2度目のハツコイf:id:bsk00kw20-kohei:20181221220137j:image今泉力哉監督の映画ってほんと好きなんだよな~。基本的には「人を好きになるとは?」という疑問についての考察なのだけど、醍醐味となるのは登場人物たちの性格・考え方の似た部分が明らかになっていって、最終的にあちら側(フィクション)からこちら側(観客/現実)にも同期してくるところ。身につまされながらも、共感度が高くてドキッとしてしまう。来年春公開の『愛がなんだ』もTIFFで見てさらに上をいく大好きな作品だったので、これからも今泉作品を楽しみに生きていけそう。彼の左側が彼女の心地いい居場所。

 

8.アルフォンソ・キュアロンROMA/ローマf:id:bsk00kw20-kohei:20181222222116j:imageこういうなんの盛り上がりもない作品を高予算で撮れるということ自体がまずすごくて、それがめちゃくちゃおもしろいからとりあえず拍手を送りたくなる。アルフォンソ・キュアロン監督の自伝的な映画で、彼がみた家政婦の姿を中心にあるひとつの家族が映し出されていく。家政婦が見たならぬ、彼が見た家政婦。これが、『この世界の片隅に』と同じ空気を感じるくらいに“片隅感”と“なんの変哲もない日常の微かなドラマ”を見せてくれて大満足だった。(駐車のシークエンスなど)お父さんが出てくる場面だけフィクション/コメディ感強いのがある意味リアルなんだろうと感じて、監督すらも愛おしくなる。

 

7.ダニエル・ヒベイロ『彼の見つめる先にf:id:bsk00kw20-kohei:20181221220452j:image青春映画では今年一番。製作国ブラジルでは2014年に公開されていたというからびっくり。あらゆる「生の肯定/可能性」が提示されていて、少ない文字数では語りきれないほどサイコーな映画だ。

 

6.リン・ラムジービューティフル・デイf:id:bsk00kw20-kohei:20181221220627j:imageタイトル出し、今年一番。孤独なおじさんがいたいけな少女を救うという『タクシードライバー』的な映画。鳴り響く「音」と、均整のとれた構図、血と水の対比がすばらしい。

 

5.ショーン・ベイカーフロリダ・プロジェクト
f:id:bsk00kw20-kohei:20181221221014j:imageまるで是枝作品を見ているような感覚を抱かせるけど、本作は紛れもなくアメリカの現状を描き出したショーン・ベイカーの映画。「フロリダ・ディズニーワールドのすぐそばで貧困にあえぐ親子」、この設定(現実)がまず衝撃的なんだけど、そういう社会問題を描きながらも画面が常に鮮やかで明るいのがいいのだ。6歳のムーニーが起こし続ける事件によって結果的に救われていく大人たち。彼女がいるからこそ、それでも世界は続いていくんだなという希望と絶望を得る。ファンタジーとして見てしまうことに少し自戒の念を抱きながら。

 

4.是枝裕和万引き家族f:id:bsk00kw20-kohei:20181221221148j:imageみかんをしゃぶる樹木希林さん。ラムネのビー玉を見つめる彼。家族を見つめる希林さん。花火からかろうじて漏れた光を見上げる家族。バラバラに転がっていくみかん。ビー玉を並べる少女。家に戻ってそこに確かに存在していたものを確認する松岡茉優。画が強い。『幻の光』『DISTANCE』など初期の作品で「人と人はわかりあえるのか」という問いに立ち向かい続けた是枝さんが、『そして父になる』で血縁を超える愛を描き、『三度目の殺人』で真実の不透明さ/見えないものにこそ真実が宿るというある一つの解答を示した。そして『万引き家族』。そこに家族は確かに存在しているけど、果たして何のために一緒に暮らしているのか。ビー玉に「未来」を透かした彼は「現在」を見つめ直すことで閉ざされた世界の外に飛び出すことを(半ば衝動的に)決意する。いろんな感情が交錯する是枝中期の最高傑作。

 

3.関根光才生きてるだけで、愛。f:id:bsk00kw20-kohei:20181221221242j:image過眠症の女性とゴシップ誌ライターの男性。すごく似ているのに、どこまでもすれ違う彼女たち。夢(/青/夜)と現実(/赤/日中)の狭間、そのまどろみの中でしか心を通わせることができないっていうのがすごくロマンティックだ。

 

2.濱口竜介寝ても覚めてもf:id:bsk00kw20-kohei:20181222221820j:image濱口竜介という監督の存在は今年一番の衝撃だった。『ハッピーアワー』も『PASSION』も、とんでもない傑作で。いやぁ最高でしたね、この映画も。川を流れ続けるしかないという諦めにも似た極大な愛の形。正中線を捉えるカメラワークが大好き。

 

1.ポール・トーマス・アンダーソンファントム・スレッドf:id:bsk00kw20-kohei:20181221221655j:image上から見ていると場所が把握できるものの、その人混みに混ざると突如彼女を見失ってしまう。あの終盤のダンスパーティーのシーンがすべてを物語っているんだよな~。初めてこの映画をみたときはまるで映画に初めて出会ったときのように「これは原体験になる映画だ」と確信し、エンタメとして純粋に楽しんでいたと思う。そして1年の終わりにもう一度見ておきたいなと思って確認しに見に行ったら、今年1年をあらわす最適な映画であることに気づいた。他の19本の良さもすべてこの映画で説明ができてしまうほどにすごい映画なんだよ。人の外側にしか興味がなく、服を作ることで人の上に立っていた彼が、彼女に惹かれれば惹かれるほど「敵に攻められている」ように感じて心をかき乱され、自信を失っていくという構図。そうやって毒キノコを受け入れるまでのシークエンスは、私たちの人生で何度も訪れるであろう普遍的なものでありながら、美しくも悲劇的だ。そう、この映画はとことん悲劇的だからこそ、途方もなく美しいのだ。

 

【2018ベスト映画20】

  1. ファントム・スレッド
  2. 寝ても覚めても
  3. 生きてるだけで、愛。
  4. 万引き家族
  5. フロリダ・プロジェクト
  6. ビューティフル・デイ
  7. 彼の見つめる先に
  8. ROMA /ローマ
  9. パンとバスと2度目のハツコイ
  10. 少女邂逅
  11. 犬猿
  12. レディ・バード
  13. リズと青い鳥
  14. インクレディブル・ファミリー
  15. アナイアレイション ー全滅領域ー
  16. 来る
  17. ワンダー 君は太陽
  18. シェイプ・オブ・ウォーター
  19. カランコエの花
  20. ア・ゴースト・ストーリー


こうやって20本を選んでみると、やはり(国内外問わず)インディペンデント映画への興味が強かったということと、「人間の外側/内側」への切迫や「見えないもの」へのまなざしなどの共通したものを受け取っていたなと振り返ることができる。ちなみにドラマだとNetflixの『このサイテーな世界の終わり』、『アンナチュラル』、『隣の家族は青く見える』なんかがベストで、ここにも同じ空気を感じてる。青春映画(とくにガール・ミーツ・ガール)にすごく酔狂した年だったのだけど、『ファントム・スレッド』の軸にある「ボーイ・ミーツ・ガール」(おじさんだけど彼は完全にボーイだ)を含め、人と人が「出会うこと」の可能性や豊かさを改めて実感する一年だったように思う。今までにないほど、統一感のあるベストで素直にうれしいのです。来年もたくさんのいい映画に出会えますように。もちろん人にもね。

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