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是枝裕和「そして父になる」

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十一月、野々宮良多(福山雅治)とその妻みどり(尾野真千子)、そして息子の慶多はいわゆる"お受験"のために私立小学校の面接会場へ訪れる。息子の明るい未来を確定させるため早い時期にレールに乗せようとする父親の良多。そのお受験も難無く終わったように見えたが、ここでこの一家に思いもよらない問題が舞い込んできてしまう。6歳になる息子が産後に他の子と取り違えられていたというのだ。父親である良多は「従来であれば100%交換する」という世間の常識に自身の信念を呼応させながらも、6年過ごした息子への抑えきれない愛情と自身の過去の出来事の中で葛藤し、家族のあるべき姿を模索していく。

 

およそこのような粗筋で物語は進むのだけど、是枝監督の演出力はやはり素晴らしい。このような悲惨な事件を扱うならば、その事件の背景を問い質し、社会へと問題を投げかけるのが一般的かもしれないけれど、加害者を加害者として撮らない是枝監督は、この事件に別の視点を与える。「この事件が現代日本で起こればどうなるか」という視点だ。そもそもこの「子供の取り違え」という事件はひと昔前のベビーブームの頃に頻発したものであり、現代ではほとんど起こり得ないものである。今作においてもこの事件が訳ありだったことが後に明かされるが、是枝監督はそういった事件の詳細を探るという点に焦点を当てようとしない。是枝監督はこの物語を通して、「従来であれば100%交換する」という過去から3、40年経った今、社会と人々の意識がどう変わったのかという所を見つめている。

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物語も終盤に差し掛かり、「親子関係に必要なのは『血縁』か過ごした『時間』か」というこの映画における問いに監督は1つの答えを掲示する。僕はこの映画が辿った道とその結末に納得しながらもそのラストに一抹の不安を抱いてしまった。おそらくこの映画が示したのは、血縁があってもなくても家族になることはできるという事だと思う。しかし、父親である良多は最後の決断として一度選んだ子供を手放し、言い方は悪いけれど「自分の好きな方」と暮らす事を選んでしまう。これは親のエゴと言うに他ならない。振り回される子供の気持ちが全く考えられていないのだ。

しかしこのもやっとした結末さえも是枝監督の演出であることが分かる。迎えに来た良多に対して逃げる慶多。違う道を歩いた後、一応は同じ道へ合流するもその場面において慶多の顔と心情が明かされることはない。答えは全て彼に宿っている筈なのにそこを明らかにすることは決してしない。正解のように見える結末にも疑問を投げかけるのが是枝裕和という監督だ。このラストにはそんな監督の模索する眼差しが投影されていたように思う。

ラストシークエンス、ふわふわと凧のように浮遊していくカメラがそれでも家族になろうと答えを模索し続ける彼らの姿を捉え、物語は未来に託される。


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