縞馬は青い

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映画とか、好きなもの

是枝裕和「DISTANCE」

つい最近観た「月子」と何処と無く面影が似てると思ったら撮影監督が同じ山崎裕。是枝初期作品や西川美和の作品なんかにも登場するカメラマンだ。この人が撮る映像には〈生(なま・せい)〉が鮮明に映し出されることが特徴的で、「見えないけれどそこに確かに存在するもの」を私たちにも身近に感じさせてくれる。

DISTANCE(ディスタンス) [DVD]

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是枝監督の長編3作目である今作は、カルト教団「真理の箱舟」の信者で、無差別殺人事件を遂行した5人の〈加害者〉に焦点を当てた作品。とりわけ特徴的なのは、そういった事件を被害者の側から撮るのではなく、また加害者をこの世から去らせることによって、残された〈加害者の遺族〉を通して事件の全貌やその後を描いていった点だ。ここには「残されたもの」を描くことによって未知の存在に宿る心を探ってきた是枝監督の起源があった。

この作品の前作にあたる「ワンダフルライフ」でも一部見られたけれど今作でも「ドキュメンタリー的」な手法で登場人物たちの生を映し出す。それは、役者にストーリー構成を知らせず、それぞれのキャラクターが即興的な演技で会話を繋げていくという実験的な方法で、それによって加害者遺族である4人それぞれの生が監督自身も想像し得ない形で垣間見えていく。

こうして荒っぽくも静かに紡がれていった物語は、決して寄り添うことのできない遠い存在と私たちとの「距離」を示したのと同時に、『加害者と被害者の間に「違い」はあるのだろうか』というこの後の是枝作品に通底する問いを導き出した。

今作や「誰も知らない」において加害者を加害者らしく描かず、被害者を被害者らしく描いてこなかった是枝監督が、この作品から16、7年の歳月が経った今、どうしたって白黒ついてしまう「法廷」を舞台としそのグレーな存在と対峙していく。最新作「三度目の殺人」では家族映画だけではない是枝監督の〈人間の真に迫った瞬間〉を見せてくれると思います!!